
集英社コバルト文庫を代表する百合ライトノベルの大御所、マリア様がみてる全シリーズ39巻。
そのなかでサブタイをみても、表紙絵を眺めてみても内容がすっかり思い出せないものがいくつかあります。再読レビューのまえに、かならず、ああだ、こうだと、ストーリーのあらましを記憶からひっぱってきて答え合わせをするのですが、大筋はあっていても記憶の綻びがあったりする。そういった答え合わせが楽しいのが忘れたころに読み返す楽しみなのですけども。
さて今回のチョイスは「キラキラまわる」。
表紙絵は祐実の私服姿。マフラーにモヘアのバッグだから冬ぐらいのお出かけ。となると学園外が舞台なのか。それぐらいの情報しかわかりません。頁をめくってみましょう。いつもの「ごきげんよう」ではじまる前座部分、後半にヒントがあるに違いない。
「まわる、まわる。クルクル回る。
お姉さまが、友達が、妹が」
うん、これじゃさっぱりわかりませんね。もちろん、表紙折り返しとあとがきを見れば一発で丸わかりなんですけども。では、ここらへんでざっくりばっさりネタバレレビューといきましょうか。
時期は、祥子さま・令さまのご卒業お別れ会のあと。
祥子さまの鶴の一声で、遊園地に自由参加で行きましょうの流れに。祐巳からすれば秋のふたりきり(でもなかったが)遊園地デートの再来になるかと思いきや。「薔薇のミルフィーユ」巻であったあの話からすでに半年が経過、瞳子はすでに紅薔薇のつぼみの妹に収まっています。
当日はやはりのやはりで柏木氏が車でお出迎え。そこへ弟の祐麒も同伴に。
このドライブ中にあるサプライズがあって、福沢姉弟をひやひやさせます。ヒントはそう、初回お正月会のときの佐藤聖さまのお出迎えの。ビギナーの車に同乗するの、怖いですよね。
のっけから乗り物絡みの話題は、遊園地でもそのままに。
交通渋滞に巻き込まれて遅延した遊園地では、ほかにも白薔薇と黄薔薇の姉妹とばったり遭遇。待ち合わせをしたわけではないので、別行動のはずなのだけども、祐巳からみれば他家の事情にはらはら。令と由乃のいつものこじれっぷりはいいとして、なぜかおしどり姉妹の志摩子と乃梨子までもがぎくしゃく。さらにお誘いに乗って、写真部後輩の内藤笙子を連れ出した武嶋蔦子も、なぜかいつもの闊達な様子がない。
祐巳としたら、柏木が近くにいるので祥子さまとの距離をめぐって、どうしてもよからぬ感情を抱いてしまいます。その柏木氏は瞳子の騒動をめぐって謝意を示すなどの殊勝さ。祐巳は妹を迎えたことで、自分が上級生として落ち着きを得ていたことを自覚します。ある意味、卒業する姉から自立するための事後の儀式だったのでしょうか、このイベント。それにしても、百合好きからすれば男を出すなで嫌われがちな柏木さん、なかなか紳士な役どころですよね。大神ソウマくん並みにいい男なんだが、報われてないわ。いかにも少女漫画に出てきそうな王子様キャラだからでしょう。
黄薔薇組のいざこざは、由乃のほんのいたずら心からが発端。
構ってくれないことに不平いっぱいの由乃は、ティーカップ乗りで祐麒を巻き込んで、令に嫌がらせをしてしまいます。これが裏目に出て自滅してしまった由乃は体調最悪。そこを颯爽と王子様然として救い上げる令さん。祐麒のみならず、読者も惚れ惚れします。ヘタ令ちゃんじゃないの久しぶりですね。しかし、まだ菜々を妹としては迎えきれていない由乃は、まだこんな調子で姉にベタ甘えしてばかりで大丈夫なのか? 由乃へさりげなくフォローを入れる祥子さまも貫禄ありますね。水野蓉子さま並に。
白薔薇ファミリーのささくれは、志摩子が出生の秘密を乃梨子に漏らしたことでした。
瞳子の家庭の事情を知った乃梨子でしたが、これには衝撃。志摩子、祐巳たちには番外編であっさりバラしてた覚えがあるのですが、乃梨子にはまだ明かしていなかったわけですね。で、観覧車の密室にふたりきりになるも、気まずい雰囲気。けれど、乃梨子が生きがいだからという言葉に救われます。乃梨子ってしっかりしてるけれど、実はものすごく他人の感情に繊細で自分の身に受け止めてしまいやすいんですね。どうでもいいが、このふたりの前になぜ男女のキスシーンが入るのか(艶笑)。
写真部先輩後輩の事件は、蔦子が伯父と賭けをしたことがきっかけ。
ひょんないきさつから愛用カメラを壊してしまい、格好の撮影日和なのに、シャッターを切れない。いや切らせてはいけない。笙子は、姉とも慕う蔦子が、カメラ小僧としてのキャラを確立することでしか自分を学園内で表現できないという不自由さを知ることになります。他人の姿を覗き観察し、的確に言い当てられるこの人は、その実、自分を知られることに怯えている。けれども妹分と過ごすことで、ハプニングも頼んでしまえるのはいいですね。端役のカメラマンとしての役割から解放されて、遊びの主役としてエンターテイメントを楽しむことの大切さ。そして、ティーカップで険悪な黄薔薇組に助け船を出す蔦子さんはやはりカッコいい。
そのいっぽう、出遅れはしたが実はこっそり到着していたのが、一年椿組のコンビ瞳子と可南子。
かつては祐巳を挟んで、なんとなくライバル関係。犬猿の仲だったはずが、祐巳を介して意識を変えたためか今じゃすっかり仲良し。「未来の白地図」でもあったように、可南子は瞳子を応援する側に。花火のときに再会した新生紅薔薇姉妹のばったりに、ツンデレ瞳子の祐巳様大好きオーラをきっちり翻訳してあげるのが実にいいですね。可南子がここまではじけるとは思わんかったわ。
今回はしめて、五組の百合ペア(+男性陣二名)を含んだ、三薔薇入り乱れてのオムニバスドラマ風だったため、一巻としてはストーリーに大幅な波がないもの。ただ、読んだ後の後味の悪さはない、小話でした。いちおう本編ではありますが、番外編のようなあっさりしたものですね。
ところでこのサブタイ。
ネタ元は、ユーミンの歌(まわる、まわるよ、時代はまわる)のあれか、「キラキラひかる」とかいう当時流行っていたらしきテレビドラマからでしょうかね。
タイトルが真っ直ぐすぎて中身が分からないと申し上げましたが。
車酔いで目が回る。ティーカップで、観覧車で、ジェットコースターであるいはメりーゴウランドで回る。人間関係のいざこざで気が回る。そして、みんなでいっせいに夜空の花火をみあげて、感動にキラキラ。といった締めを表明したものなんでしょうね。
「花火の華やかさは、つかの間。
だけど、忘れない。
みんなの笑顔。
いろいろあったけれど、楽しかったねという感想を添えて。
きっと。ずっと」
いわゆる学生ならではの卒業旅行みたいなエピソードだったのですけども。
最近の百合モノだったら、親になんか許可えずに、さっさとふたりきりの泊りがけデート旅行ぐらいしそうなものですよね。そのあたりの時代感覚の差が面白いと思いました。奥ゆかしいお嬢さま学校の女の子たちだから、無断で外泊とか遊びとか行かないでしょうけれどね。
複数のペアを男性陣の脇キャラをもうまく配置してまとめているのは、なかなかのもの。
そこは、さすが今野緒雪先生の創作手腕を感じさせます。このあたりになると、登場人物のキャラも多すぎて、うまく活用するのもなかなかひと苦労。
でも今回のお話は普段の学園内の事件に比べると、やや物足りない気もしました。「未来の白地図」以降のやさぐれ瞳子の起こす事件のあたりのエピソード巻をわざと読み飛ばしたのですが、このあとはそこへ戻ってみることにします。もちろん、レビュー記事の発表はランダムなのですが。
では、また次回の感想でお会いしましょう。
ごきげんよう。
(2023/06/10)
【レヴュー】小説『マリア様がみてる』の感想一覧
コバルト文庫小説『マリア様がみてる』に関するレヴューです。原作の刊行順に並べています。
(2009/09/27)
★マリア様がみてる関連記事一覧★
小説「マリア様がみてる」のレビュー、公式関連サイト集、アニメ第四期や姉妹作の「お釈迦様もみてる」、二次創作小説の入口です。小説の感想は、随時更新予定です。