陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

三上延の小説『ビブリア古書堂の事件手帖』シリーズ

2014-10-18 | 読書論・出版・本と雑誌の感想
読書の秋ですね。
月に三十冊ぐらいをペースに読んでいるのですが、そのなかで良著だと思えるのは一、二冊ぐらいだったりします。読書といいますのは、著者の知性と読者の感覚や体験との照らし合わせですから、必然、おもしろい、おもしろくないも出てくるわけです。

このブログは映画やアニメに比べると、読書レヴューが充実していませんが、それは本の感想というのが書きにくいためです。手軽にとれるものですから、レビューをしこしこ書いている暇があったら、さっさと次の一冊を読みたいわけです。それとおおいに感動した本って、意外とすぐにどう評していいやら迷うことも多い。ですので、これは良かったと思える本について、なかなかお知らせできないのを残念に思います。

さてさて。本日ご紹介する本は。
本好きの皆さんはむろんのこと、日頃、読書は苦手、活字はめんどくさい、と思ってらっしゃる若い人向けにもうってつけの逸材を。

ビブリア古書堂の事件手帖 (5) ~栞子さんと繋がりの時~ (メディアワークス文庫)
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小説『ビブリア古書堂の事件手帖』(三上延・著)は、2011年から刊行されたミステリーノベル。表紙からしても、メディアワークス文庫というレーベルからしても、あきらかにライトノベル。でも、これがなかなか侮れない。いい年こいた大人が読んでもまま楽しめます。恋愛要素はありますが、アダルティーはないのでおすすめ。現在、第五巻までが刊行されています。ちなみに女性の読者のほうが多いそうです。

北鎌倉で亡き父から譲られた古書店「ビブリア古書堂」を運営するオーナー・篠川栞子は、並外れた古書に関する知識を持ち合わせていたものの、極度の人見知りなのが玉に瑕。主人公の五浦大輔は、祖父の形見の夏目漱石本にまつわる謎解きを、この女店主に依頼するが、その才能に惹かれ、また琹子も彼を雇うことに。この琹子さんは足が不自由でいつも座っています。さながら安楽椅子探偵といったところ。

このシリーズの読みどころはなんといっても、登場する実在の本。
名前も作家も知らなかったけれど、ひとしれず名作だったという本。古書店にやってくるお客には本にまつわる悲喜こもごもの想い出があり、それを頭脳明晰な琹子が解き明かしていくのです。このミステリーのプロットはなかなか練られていて飽きさせない。さまざまな事情で本を手放し、また本に巡り会う。そこに人生のあわいを感じさせます。

本に関するミステリーにくわえ、たたみかけてくるのが琹子自身の謎。
琹子の命をつけ狙う不審な青年や、ライバルの古書店主、ひょうひょうとしたせどり屋の男、さらには彼女の母親・智恵子まで。巻を重ねるにつれて、どうやら、琹子とこの母親とのこじれた関係に重きがおかれていきます。本の魔力にとりつかれた者どうしがたどる因縁の対決か、それとも和解なのか。行く末が見逃せない。(智恵子って名前は、高村光太郎の嫁がモデルなのかしら)

そして、最後のお楽しみは、琹子と大輔のロマンス。
いやあ、見ていてほんっとイライラします(笑)。純朴な青年とうぶな娘というとりあわせですから、うまくいく仲もなかなか進展しない。しかも大輔はもともと活字恐怖症で本が読めないにもかかわらず、琹子さんにほだされて本屋で働くことになります。なんという健気。大輔の目線で物語がすすんでいくのですが、ひたすら栞子さんのことを想いつづける大輔を、ひそかに応援したくもなります。姑が怖いけど! ライトノベルでこういう朴訥な青年って珍しいですよね。この琹子さんもふだんは大人しいのに、本を語るとなるとがぜん饒舌で積極的になるから、二重人格みたいで、そのギャップがたいそうおもしろい。ま、なんていうか、ハイテンションな腐女子を好意的に描いているんだろうなと思われます(爆)。

2012年から2014年にかけて、挿絵のイラストレーターによる漫画も刊行されています。また剛力彩芽の主演による、月曜九時のテレビドラマとしても放映されていました。原作とヒロインの印象が違うなどの批判が相次ぎ(これにはかなり同意)、あまり視聴率も伸びなかったそうです。ただ映像化で話題づくりになったため、作中で扱われた書籍の知名度をあげるのに貢献したという好意的な意見もあります。

ちなみに私が好きなのは第四巻。
この巻はまるまる一冊がひとつの事件という書き下ろし長編で、江戸川乱歩の作品のみをとりあつかっています。そこで紹介された『孤島の鬼』という少年小説がどうにもこうにも気になってしかたがないので、古書で購入したのですが、たしかにあれは凄い(絶句)。いちど読んだら忘れられない怖さがあります、あれは。なんというか、ある意味グロテスク、ある意味、悲恋なんですけど、あの主人公の友人がものすごい強烈なキャラクターすぎて困る。当時の少年たちにあれはかなり刺激が強すぎたのではないでしょうか。なんてもの読ませるんだ(笑)。

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本作で登場した本は、話題となって再燃ブームとなり、絶版になっていたものもあらたに新版で刊行されたそうです。まさにここ近年の出版不況にとっては福音となる良作でありましょう。


栞子さんの本棚 ビブリア古書堂セレクトブック (角川文庫)
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『栞子さんの本棚 ビブリア古書堂セレクトブック』という、作中の小説を集めたアンソロジーも刊行されています。引用された本はすべて著者が購入し通読した上で執筆にあたっているそうで、力作であることがうかがわれます。各巻末には参考図書リストがついています。


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