陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

太陽光発電という国家詐欺

2014-10-19 | 政治・経済・産業・社会・法務
東日本大震災をきっかけに原発廃止を求める機運をうけ、太陽光発電事業が活発になりました。新聞では一面広告で、いまならお得な買取価格! 遊休地の土地活用を! 副収入で老後も安心生活設計! などとという魅惑的なフレーズが並んでいました。住宅をお持ちの方にも、屋根に設置しませんかという営業攻勢の電話がさかんに鳴り響いたことでしょう。私の知り合いにも新築にあわせてソーラーパネルを設置した方もいます。業者を紹介してあげるよ、とも言われました。国が固定価格買取制度(FIT)で後押ししている、価格が引き下げられることもない、安心の投資ですよ、いまなら補助金が出ますよ、などという巧みなセールストーク。

田舎や山間部では、農家をやめて土地を余らせている方のところへ勧誘が多かったそうです。しかし、農地をいったん太陽光発電用に開発してしまうと、登記上の地目が「宅地」扱いにされてしまい、固定資産税が上昇することになります。また天候に左右されやすいのも太陽光発電の盲点。

さて、つい先日、とんでもない発表がありました。
経済産業省が太陽光発電の新規申請を抑えるというのです。これは再生可能エネルギーのうち、太陽光発電のみが突出して急激に開発が進んだため、送電に支障がでかねないためです。また他の地熱発電などができなくなる怖れがあります。太陽光発電の買取価格が欧米に比べても高過ぎるため、かえって利用者の負担増につながりかねないといいます。太陽光発電をすれば、自家発電で電力を安く賄えるという目論見だったはずが、これでは本末転倒です。すでに電力会社では受入を拒んでいます。もし、あのとき甘言に乗って、巨額の投資をしていたらと思うと、背筋が寒くなります。(そもそもローン組んでまで、そんなもんに投資したいと思いませんが)

経産省が示唆する抑制案として、買取価格を自動的に切り下げたり、安価な業者から優先的に入札させる、電力会社が発電量の抑制をかってに要請できる、価格決定を認定時ではなく運転開始時にずらして価格の落下を待つ、というもの。国家事業だから安心と虎の子の資金を注ぎ込んだ方にとってはたまったものではないでしょうね。

この太陽光発電については、かねてから開発事業者と依頼した契約者との間でのトラブルが報告されています。契約したのになんのかやと理由をつけて開発着手を遅らせたり、また認定申請を忘れていたりして、買取価格の下落を招いてしまったケースなど。ふつうの建築やリフォームでも同じですが、とかく巨額に費用がからむ工事については、充分すぎるほどの注意が必要です。とくに太陽光発電については商機のブームだと見て、うさんくさい事業主が乱立し、契約の前払金のみをうけとって放置するという詐欺をはたらく例も目立ちます。

今回見直しが検討されているのは、あくまであまりに買取価格が優遇されすぎていた「非住宅用の」太陽光発電。すなわち工場や大規模な土地に設置されたものとなります。住宅用の太陽光発電はあくまで自家用のためで、あまり売電できないともされていますので、一般のご家庭の数枚程度のソーラーパネルでは今回の件の実害はなさそうですが、住宅用にしたって、開発費から元をとるのには15年以上はかかるとされています。その間に故障があれば実費で修理せねばならない。不動産デベロッパーにそそのかされてマンションを建設したものの空室率がめだち、巨額の借金と税金や修繕費の負担だけが残ってしまった、というお話と似たような悲哀を感じさせます。

業者の営業トークに乗せられてうっかり設置してしまった方は、お気の毒としか言いようがありません。
ですが、そもそも国が主導して斡旋したこの再生可能エネルギー事業、国がおだてて儲かりますよ、エコロジーですよ、と推進してきたこの事業を、制度設計ミスでした、ごめんね、でひっこめる。それだけで済むものなのでしょうか。もちろん、ここで勇気ある撤退をせねば送電網がパンクするのでせねばならないのでしょうが、あまりに無責任ではありませんか。国民が財布を開いてお金をつかい、経済が廻ったからそれでいいとでも?

そして、このあまりに無責任な方針転換の裏にあるのは、おそらく安倍内閣が肩入れしてる原発再稼動ですし、電力会社という大企業へのおもねりでしょう。制度設計をまちがったものの代表格が、将来的な少子高齢化が分かっていたのになかなか改革に着手しようとしなかった、年金や医療保険の改革です。自民党政権に返り咲いてから、不要な道路建設が急ピッチで進んでいるため、建設業の極端な人件費の材料費の高騰で、民間の建築に悪影響が出ています。

太陽光発電そのものの有用性を否定したいわけではないのですが、誰でもかれでも市場に参加すればいずれ飽満になって歪みが出るというのは自明の理。税金を投入し、60年後の償還を待つ国債を発行して、孫子の世代へと垂れ流し公共事業へのツケを回していく責任をとらずに、国会議員や公務員は割高な給与を受け取り、老後も独り勝ちの年金暮らしをつづけるという姿を見るにつけ、毎日長時間残業でへとへとになって新聞もニュースも知る気力もない現役世代が声をあげないことには、このような国家詐欺はいつまでも続くことでしょう。

歴史をかえりみても、政治が乱れるときというのは、国民が国に対する信頼を失ったときです。国会議員のみならず、大臣までもが政治活動費を私用に流用している事件が表沙汰になり、それでも増税を進めようとする。社会保障費確保のために、という美名に騙されているような気がしてならないですよね。しかも、くだんの経済産業大臣であり、原子力損害賠償・廃炉等支援機構担当でもある小渕優子氏が渦中の疑惑にいるわけですから、洒落にならないですよね。この人が以前、少子化担当大臣だったときも、まったく仕事せずに、現在さらに酷い状況になってるのを忘れていない国民はいないでしょう。

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