「あけすけに言うと、カラーを多用するのがもったいないので、白にしたとか?色刷りを少なくしてコストダウンですね」
「あいかわらず、ミもフタもないようなこというね、君は。制作者に敬意を表する精神はないのかね?」
「いえいえ。そんなことないですよ~。僕はもうリスペクトしまくってます。うふふ♥」
「…しかし、なんだね。このDVDの中身はあらたに追加されたシーンはないのだろう?」
「それは中を観てみないと」
「もし本編に変わりがないとしたら、売れ残りの多い菓子メーカーが、賞味期限間近の商品をいろいろ詰め合わせて、包装まで新しくして、売りさばくようなものだね」
「先生もさりげなく、辛口なことを」
「正直な感想を述べたまでだよ」
カズキはまた諦めの顔つきをして、ブックレットの中身を開こうとした。しかし、その手をユキヒトが制している。
「だめですよ、先生。それ以上、先に進んではいけませんよ」
「しかし、私がレポートしなきゃ、CMにならんだろう? 熱心なファンは、おそらくブックレットの中身を楽しみにしていたに違いないよ。ここはひとつ、報告しておかないと」
「おっしゃるとおり、その中にはきっと、この作品を長らく愛してくれる人が待ち望んだ宝がきっとあります。そう、一頁開いただけで、一文字読んだだけで、破壊力のある愛がそこに。それは、たぶん来栖川さんがだいじにしているアルバムみたいな、ひみつの二人の歴史なんです。それは、こんなところで言うのはもったいない。もったいないですよ」
「そうかい。じゃあ、それは各々、これをじっさいに手にした者だけがいだく感慨で、われわれはうかつにその気持ちを言い当てたり、こうあるべきだと断定してみせたり、してはいけないのだね?」
「そのとおりですよ」
カズキは中身をしまってDVD-BOXに封じた。きょうはいろいろありすぎたのだ。あとでこれを開く際には、神に対面するような、気持ちは新たに、こころなだらかにして臨みたい。そう願う。
ユキヒトはDVD-BOXを借りて、ふたりの胸前に位置するように掲げた。
「これは、ただの物語。ひとりひとりが大事に思っていいけど、その感情を人に強いちゃいけないんです。世の中には、お仕着せがましいのが嫌で、それで嫌いになっちゃう人だっていますからねー。自分とおなじような感性や考えの人ばかりがいるわけじゃないのに。同じ作品でもね、楽しみ方は人それぞれでしょ?」
カズキは、袖のなかに腕をしまいこんだ腕組みをしつつ、ちらりと横目を送る。
「人に強いてしまう愛か…まあ、求めても手に入らない愛情を追いかけてるような誰かには、似合いの言葉だね?」
「先生だって、そうでしょう?」
ユキヒトは師匠の顔を覗いて、賛意を得たと言わんばかりに目をしばたたかせた。
そのとき、「カーット!」のかけ声がした。撮影は終了したのだ。
どっきりカメラのような悪夢の一時間あまりの撮影から解放されたことに、カズキは胸をなでおろす。カチューシャをして、前髪を多めに下ろした髪型は自分のものではないようで。さっそく額を広くして、いつもの凛々しい眉がみえるさっぱりした顔をつくった。
ユキヒトはといえば、大きく伸びをして、ウィッグを外してべったりした髪を、さかんに掻き混ぜていた。
その中から、目玉の親父が出てきた…はずはない。
【目次】神無月の巫女二次創作小説「大神さん家のホワイト推薦」