陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

「魂会(たまあい)─約束の園─」(二)

2009-04-27 | 感想・二次創作──神無月の巫女・京四郎と永遠の空・姫神の巫女


十六年の生涯は決して長いとはいえないが、私はもともと、病弱でもないのに自分が長く生きるとは、露ほどにも思っていなかった。

花のように短い人生の間に、私は人より多くのものを与えられすぎているのだと感じていた。
普通の人間が一生無縁であるか、数年かけてやっとやり遂げることを、生まれながらに持っているか、もしくは手早く手に入れられる。
才能なのだとうぬぼれているのではない、ただ全力を傾けることが美徳なのだと信じているだけ。
人々から惜しみない賛辞を呈されても、どこかしら気持ちは醒めている。

だから、この「運命」を呪いもしたけれど、嬉しくもあった。
何のために生き、誰のために死ぬのか。
自分の存在理由が明らかになったことが、私は嬉しかった。
だから、この社へと続く道を迷うことなく選んだ。
この愛のためなら、この命捧げても惜しくはない。
体を鍛え、心を強くしてきたのは、すべて大事なあの子を護るための必然。

誓っていた、前世のあの最後の日。次に逢う最初は、きれいなものを見せようって。
だから、最初の貴女の瞳に映る、最初の私を美しくしようと思った。だから、ほかにもうどんな報酬もいらないと満足していた。
この結末は欲しかったものだ。私が数百年いや数十年も前から、いやもしかすると太古の昔から、ずっと望んでいた終わりだった。

極度に濃縮された時間の中でも最後の一年、十六歳のわずか半年ほどばかりのあいだに、私はこのうえない至福の光りを得た。
その思い出の灯火さえあれば、どんな暗闇の中に放りこまれても、こころはずっと明るいままのはず。

私にとって唯一つ確実なものは、彼女との絆。
私が彼女を愛するから、きっとどんな世界であっても存在していけるだろう。
だから、ひとりでも淋しくなんかない。失っても悲しくなんかない。いまも彼女が命薫る星で元気でいてくれると想像するだけで、私は闇のなかでもこんなにも幸せになれる。

思えば現世でも、こんなふうに独り過ごしていた。
遠く、はるか遠くからやってくだろう、あたたかな幸せを待ちわびながら──。



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