陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

世界的な、あまりに世界的な、神無月の巫女?

2007-10-09 | 感想・二次創作──神無月の巫女・京四郎と永遠の空・姫神の巫女


最近、「神無月の巫女」を多国籍言語で検索すると、中国(台湾)や韓国の方のファンブログがよく目につくんですね。時間のあるときにいくつか読ませていただきましたが、彼らの語り口調も日本の同胞に負けないくらい熱い。『京四郎』小説の翻訳があったり(ほんとは著作者に翻訳権を交渉しなければいけないと思うんですが…)前世の姫子と千歌音の二次創作小説があったりして、すごく楽しめるんですね。私の抱いていたイメージに近かったのですごく嬉しかったです。しかしこんなことなら学生時代、第二外国語で中国語を選択しとけばよかったとしきりに後悔。ウェブ上の翻訳サイトって、しょぼいですよね…。語学に疎いほうですが英語だったらなんとか読めるんですけど。
それにしても、日本のファンサイトが次々としぼんでいく一方で、神無月フィーバーが国境を越えて流出しているなんて(驚愕)かおひみの同人誌まであるし。

余談ですけど、私が姫子千歌音からヒミコ・カオンにつくりかえた画像とか、京四郎レヴューとかがそのまんま(レヴューは向こうの言語に翻訳されてましたけど)掲載されてしまっていたのが驚きでした。うちだけでなくて、ほかの神無月系サイト様のネタ記事もいっしょにあったんですけど。
いや、画像はもともとキャプ絵なので私がとやかくいう筋合いはないですが…なんていいますか、よそのお国の人にまで駄文が読まれてるってのが恥ずかしかったですね。うかつなこと書けないなぁと。でも、反省せずに書きなぐってるんですが。

アジア系の国々では、前世のふたりが人気があるようですね。
巫女服って、韓国のチマチョゴリとかに似てるからたぶん親近感もたれてるんだと思います。二次創作もありましたし。『神無月の巫女』中国版って感じで。もしかしたら、姫子と千歌音ちゃんが日本じゃない場所に転生してたらこんな感じなのかなぁと。

日本の漫画やアニメーションって、もうすでにちゃんとした視覚文化の位置に据えられていて美術の教科書にも載せられているぐらいなのですが、それってイメージの世界流出と海外からの意外な評価とに支えられているんですよね。すこし前まではアニメや漫画なんて、日本文化の正史に登場なんてさせられなかったんです。アニメーターや漫画家の仕事も、いわば室町時代の芸人衆とおなじで、ちょっと卑下された、社会的地位の低い仕事だったといえる。
いまのジャパニメーションの状況って、きっと一世紀と少し前あたりの状況にあてはめることができます。ゴッホやルノワールの印象派や、アールヌーヴォーの画風には、日本の浮世絵の平坦な彩色や大胆な構図が影響を与えたと言われています。いわゆるジャポニズムですね。浮世絵は春画もふくめて一種の低俗画で、日本の陶磁器を輸出するときの包み紙にされていた。いまではボストンの美術館で、何千何億もする浮世絵がそんなふうに海を渡っていたんですね。その皺だらけになった紙に描かれた東洋の造形美に魅せられた画商や、一部の革命的な画家たちによってその良さがみとめられたのです。
それと同じ状況が、アニメや漫画にもおこったということでしょう。私が実際に知る限りの情報ですが、数年前のアメリカの美術雑誌の表紙を『ヒカルの碁』が飾っていたり、日本の同人誌を扱った記事がありました。また横浜で数年おきに開かれる国際的なアートイヴェントでは、フランス人アーティストが日本のアニメキャラを模したような作品を発表したと伝えられています。とかく日本人は自国の文化の美点に気づかないで、他国の外部評価によって逆輸入評価することが多いようです。それは批難されるべきことじゃなくて、むしろ歓迎すべきことです。漫画アニメのキャラは、一国の言語にとらわれない世界共通のイメージ言語、ようするに多くの人のコミュニケーションを結ぶ表象として機能しているということですから。昨今の韓流ドラマの浸透もそうですが、マンガカルチャーを通じて戦争を経験していない若年層を中心に反日感情が払拭されていくことは、好ましい現象だといえるでしょう。
(ただし、管理人はいくら日本のアニメ漫画が国外で高い評価を得ていても、それから影響をうけた作品にメッセージ色や哲学的示唆が含まれないもの、海外の評価におもねっただけのものは芸術の域には達しないという考えです)

『神無月の巫女』という作品は、はっきり言って文化庁からお墨付きを貰った『少女革命ウテナ』ほど芸術性をみとめられているわけでもなく、社会現象になったわけでもなく、またそのグッズの収益で経済的効果を与えているわけでもありません。でも、そんな勲章がこの傑作に必要でしょうか?
この作品はおそらく、口承で語り継がれた民族音楽や民話のように、ひっそりとその真価をしる愛好家のみによって後世に残される作品となるのではないでしょうか。もちろん、DVDなど現代の記録メディアは半永久的な物語の保存を可能にします。しかし、物理的な生存とは別に、観る者の精神に残らなければその物語はほんとうに、ある時代を生き、また次の時代まで生き伸びたとはいえないのです。

『神無月の巫女』は、日本人の叙情性と古き佳き美学をつたえることができる作品だと私は思います。それは知る人ぞ知る女の子どうしの悲恋を描いた美しい恋絵巻で、それにつづく百合物語の基(もとい)となる神話となるのではないか。極言すれば、姫子と千歌音のイメージを用いずとも、そのふたりの伝えた感情効果が受け継がれていくのであれば、『神無月』は永遠に生きるということでしょうし、姫子と千歌音は姿かたちを失っても、その精神として転生しているといえるのではないでしょうか。
創作とか批評に限ったことではなく、この作品に注いだ想いを胸に今日を生かすことができるなら、明日を楽しく過ごせるなら、この作品は視聴者のなかに生き続けるといえるのです。人生に影響を与えてしまうほどの力をもったとき、その物語はけっして廃れない。
『神無月の巫女』とは、そのような滅びることのない無冠の名作なのです。



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2 Comments

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Unknown (とおりすがり)
2007-10-21 16:41:24
私はYOUTUBEとニコニコ動画で今年の8月に初めて
神無月の巫女を最初から通してみて、魂を抜かれたような感じです。一生忘れられない作品になりそうです。

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はじめまして! (万葉樹)
2007-10-21 21:29:22


ごきげんよう、とおりすがり様。
この作品をお好きな方のご訪問は大歓迎です!

ところでぶしつけながら、とおりすがり様。
そのご芳名の示すとおり、あなた様はこちらに書き込まれたらもういらっしゃらないかもしれません。
この作品が「魂を抜かれた」ほどお好きなら、ぜひお願い事がふたつあります。
しかし、そのメッセージを書いていましたら、無駄に長くなってしまい、かつ、あなた様おひとりよりも多くの方に見ていただきたいと思えてきました。それに、もしかしたら余計なお世話な言い分かもしれないと思いましたので。
ですのでこれをもし読まれたら、お手数ですがもう一度お来しいただいて次の記事をお読みくださいませ。

今後とも末永く、この美しい作品があなたのお手元にあり続け、深く愛でられるものであることを願っております。
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