陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

書籍『マンガでわかるブラック企業』(後)

2014-04-21 | 読書論・出版・本と雑誌の感想
マンガでわかるブラック企業: 人を使い捨てる会社に壊されないために
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こうしたブラック企業と言ってもいいほどの悪らつな労働環境は、大企業のみならず、安定といわれる公務員ですら浸透しています。いまや公務員にも非正規労働者が増えています。市役所に行けばわかるでしょう。デスクの前で忙しく接客しているのは腰の低い非常勤職員。そして奥でゆったり新聞を読んでるだけ、ゲームしているだけのおじさん達がいます。しょっちゅう、遅刻してきても、うつ病のふりで休んでも、わざと仕事を遅らせて無駄に残業を繰り返しても、おとがめなしの正職員。おなじ税金で雇われているのに、楽な仕事をしているほうが、はるかに給料がいい。管理職だから動かないのではなく、ほんとうに人手が足りなくても、市民が対応を求めてもまったく動かない。公務員パッシング、管理職叩きが進むわけです。もちろんまともに働いている正職員もいますし、いまは正職員でも若手に仕事が集中し、過労死があるともされています。
(ただし、私は博士卒が大学の非常勤講師で窮状にあえぐという論説には同意しない。非常勤なのに担任を受け持ちさせられる学校教師の待遇改善には大いに賛成だが)

労働問題が起こっても、過労死が出ても、労働基準監督署は動かない。
最近になってやっと裁判で遺族が勝訴できる事例ができましたが。政府は賃上げを下起業を発表していますが、こうした労基法違反の企業に対して発表したり、制裁を加えたことはありません。

労働者個々人の生産能力向上をうたうアメリカ式の「新自由主義経済」が広まってきた一方で、終身雇用制が崩れ長期に仕事を得られる保障も無いのに、経営者たちが会社に忠誠を強いる「日本型経営」方針が推進された結果、日本の多くの企業がブラック化していると、本書は分析しています。
サラリーマンの哲学書としてバイブルとされる稲盛和夫氏の著書が、実はその社員たちに強制的に売りつけ、給料から天引きされている、ともいう。それゆえのベストセラーであるのです。経営者を崇拝し奴隷にするような企業教育がある。

本書で触れられていませんが、日本の経済の牽引役であった家電業界は、社員に自社製品の自腹購入のノルマがありました。雇用者はその会社の一番のお客さまでもあったのです。しかし、いまや、製造業界は派遣や請負で安い労働力を使い捨てにしていき、彼らの生活の保障もしません。工場は海外に移し、大量のリストラをすすめ、雇用の機会も奪いました。自分を痛めつけた会社の製品などいったい誰が買うでしょうか。

こうした違法ともいうべきブラック企業の行いには、法律に挺しないように入れ知恵をする、弁護士や社会保険労務士の存在もあるのです。労働者の所得税は増えるのに、企業の法人税の負担は軽減されています。過労死をした社員の遺族に謝罪すらしない、某大手フードサービスの経営者は、国会議員としてふんぞり返っています。政府は派遣労働者の雇用を守るのではなく、より解雇がしやすいように悪改正してしまいました。

もはや、労働者たちが身を守るためには、みずからが法律を学び、危険を感じたらしかるべき相談先へ駆け込む勇気を持たねばならないのです。法律は知っているものだけの味方です。本書が示した解決策はそれのみであって、対策本としては有効とは言えません。しかし、そのような不法労働の対抗マニュアルなど出しても、経営者と専門家に潰されてしまうのが実情なのです。

これから働く人に、これからも働いていく人に、ぜひともお願いがあります。
たしかに、なんでもかんでも、ブラック企業と騒ぎ立てることはありませんが、すこしでも働き方に疑問を感じたら、記録に残しておくことをおすすめします。最近、手帳による自己管理術が流行っていますが、手帳にその日の労働内容や時間、指示されたこと、などをメモしておくことが必要です。会社は出勤カードや帳簿を改ざんしたり、同僚に口封じを行います。他の社員の見せしめのために、だめ社員の烙印を押して、追い出すターゲットにされることもあります。集団で訴えられるのを防ぐために、わざと社員どうしを競わせて、険悪にさせて、連帯感を壊そうとしている会社もあります。働くことは辛いことです。多少の我慢もあります。しかし、自分の命や精神を犠牲にしてまで、会社に身を捧げるべきではありません。同居しているご家族の方は、その人の体調や言動に不自然な点がないか、気をつけてあげることも大事です。行き過ぎた能力主義、競争化は、労働者どうしのつながりを分断し、資本家の言いなりになるだけの社会構造を温存させるだけです。

多くの労働者の方が、人間らしい生き方をするために、不正には声を上げ、劣悪な労働環境が改善されることを願ってやみません。


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こちらの本は、秋田書店の景品水増し事件など不当解雇された労働者へのインタビューをもとにしたルポルタージュ。労働組合について若年者向けにやさしく解説したものではありませんが、ユニオンに加入して勤務先と交渉できた実例が示されています。高校生なのに働かざるをえないという胸が痛むお話もあり。ご参考までに。

(2014年1月11日)

【関連サイト】
「ブラック企業の見分け方」
ブラック企業対策プロジェクトによるPDFでの公開。就職活動中の大学生向けだが、再就職の人にも参考になる。


【関連記事】
書籍『マンガでわかるブラック企業』(前)
この世の中は労働者の血と汗と涙でできている。これから働く人に、これからも働いていく人に、自分を守るために読んでほしい、危ない企業の見分け方。

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