陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

書籍『マンガでわかるブラック企業』(前)

2014-04-19 | 読書論・出版・本と雑誌の感想
身内の家を訪ねて、帰ろうとした時のことです。
新聞配達中の青年がバイクで乗り付け、近づいてくるなり、購読を勧めます。私たちは隣町に住んでいて、そちら様の新聞は購読していますよ、と行っても一歩も引かない。「もう一部とってください」、しまいには、「その町での購読をやめて、自分の担当区域のここでの購読に振り替えてくれないか」とごり押しする始末。呆れたものの、なんとか丁重にお断りして追い返しました。いつも、定期購読している客に対して、ご愛読有難うございます、のひと言もない不躾ぶりに不満が残りました。

しかし、よくよく考えてみれば、かの青年。配達人や勧誘員(だいたいやさぐれた感じのおじさんが多い)には相応しくないスーツを着た、いかにも新卒新人といった感じがしないでもありません。ひょっとしたら、その新聞社が入社内定した若者を見込み期間に無理なノルマを課せて、飛び込み営業をさせているのでは…。なぜ契約一件がとれなかったことぐらいで、彼はあのように絶望的な表情をしたのだろうか…。

このような疑問があって、また私自身の過去の勤め先でのことなども思い返しつつ、手にとってみたのが書籍『マンガでわかるブラック企業: 人を使い捨てる会社に壊されないために』(松元千枝ほか著、ブラック企業大賞実行委員会制作、 2013年8月刊行)です。

マンガでわかるブラック企業: 人を使い捨てる会社に壊されないために
マンガでわかるブラック企業: 人を使い捨てる会社に壊されないために松元 千枝 川村 遼平 古川 琢也 佐々木 亮 竹信 三恵子 ブラック企業大賞実行委員会 合同出版 2013-08-06売り上げランキング : 110862Amazonで詳しく見る by G-Tools



最初にお断りしておきますが、タイトルにあるような、全篇がコミックなのではなく、マンガは四コマか挿絵程度でしかありません。テキストが多いですが、図表が豊富なため、読みやすいでしょう。若い方にはぜひ目を通してもらいたい一著です。

ここ数年の不況で、就職活動ではあいかわらずの買い手市場。多くの新卒学生は大企業を目指します。なぜか、中小零細企業はワンマン社長が多く、就業規則も無きに等しく、人手が足りないのでサービス残業が横行し、福利厚生も整っていないので休めず、賃金も低いブラック企業である──こんな思い込みがあるからです。しかしながら、本著を読めば、ブラック企業なるものは実は、誰もが知っている大企業や有名企業ですら、そうであることに気づかされるのです。

知名度の高い大企業はセミナーや会社説明会で多くの学生からの人気を集め、社会的なアピールを高めようとしているので、不正に労働者を搾取するような使役を行使していても、隠し通しています。リクルートの求人情報でも、過労死や過労うつを発症させた労働災害のあった企業にペナルティを課していません。裁判などで慰謝料の支払いが命じられるケースはありますが、企業活動そのものを断つことはできません。ブラック企業は野放し状態なのです。ですので、求人者は企業情報とは別に、そうした実態を把握する必要に迫られています。

この本で紹介されているような事例は、新聞などでも取りあげられています。たとえば「追い出し部屋」や実質はアルバイトや平社員なのに、使用者としての役職を与えて過剰な残業を強要する「名ばかり管理職」。福島の除染作業員にある何層もの多重請負、派遣労働者の賃金のピンハネ。セクハラやパワハラによる退職勧奨。残業代込みで給与を高く見せかけて求人を募る「固定残業代」などなど。最近はリストラではなく、辞めたくても辞めさせない会社もあります。企業が雇用助成金欲しさに大量の労働者を囲い込み、飼い殺し状態にしておき、真面目で忠実ないわゆる「社畜」になる人材だけを選り抜いて、使い捨てされた労働者は自主退職に追いこんでいく、というものです。自主退職させれば、助成金が打ち切られないからです。なんとも狡猾なやり口ではありませんか。


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書籍『マンガでわかるブラック企業』(後)
多くの労働者の方が、人間らしい生き方をするために、不正には声を上げ、劣悪な労働環境が改善されることを願う。


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