陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

映画「キリマンジャロの雪」

2011-01-28 | 映画──社会派・青春・恋愛
1952年の映画「キリマンジャロの雪」は、『誰が為に鐘は鳴る』で知られる文豪アーネスト・へミングウェィの1936年作の短編小説が原作。
「武器よさらば」で従軍慰安婦と恋に落ちる従軍記者、「陽はまた昇る」で戦傷で不能になり、愛の遍歴を重ねながらも人生に絶望している弱気な男、そして闘牛士に寄せる熱狂と対比的な政情不安なスペイン、というヘミングウェイの人生を思わせる主人公と舞台が本作にもやはり存在しますが、視聴後感がよかったのははじまりと終わりが、アフリカの壮大な大地のせいでしょうか。
タイトルの美しさから、登山家の話を思わせるのですが、じつは主人公の半生の例えでもあるのでしょう。

キリマンジャロの雪
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アフリカの最高峰キリマンジャロ山麓。
作家ハリー・ストレートは、足に受けた傷がもとで破傷風にかかり、死線をさまよっている。弱気な口をきく夫を献身的に支える妻ヘレンにも、食って掛かる。
死を覚悟したハリーは、波乱に満ちた過去を回顧していた。

初恋を終わらせてしまった若き日のハリーは、叔父のビルの支援を受けて作家を志していた。パリのモンパルナスで、見初めた美しいモデルの女シンシアと恋に落ち結婚。彼女をモチーフにして処女作を発表し、生活資金を得る。しかし、創作のインスピレーションを得るため、アフリカに狩猟に出かけるハリーは、シンシアのことをお構いなし。シンシアが流産した心の裏すらも読めないハリーは、夫婦連れ立ってスペインの闘牛見物に出かけるが、シンシアに他の男と駆け落ちされてしまう。
その後、第二作がヒットし売れっ子小説家となったハリーだが、シンシアのことが忘れられずにいた。伯爵令嬢で彫刻家のリズの気の強さに惹かれるも、別れてしまう。
時はすでにスペイン内乱。シンシアが従軍看護婦として働いているという戦地へ赴いたハリーは、ついにシンシアと再会する。だが、激戦のさなか、無残にもふたりは永久に引き裂かれてしまった。

現在の妻ヘレンは、亡くしたシンシアによく似た面影を持つ女性。シンシアと再会する前に偶然に出会った彼女は、まるでシンシアと光と影が入れ替わるようにして主人公の人生に働きかけます。
しかし、叔父の遺言の謎解きもわかるかわかるまいか、という段になって負傷し、あまつさえ昔の女を思い出して気持ちの腐ったまま伏せているわがままな作家。彼を救ったのは、第三の女であったヘレンでした。
キリマンジャロの頂きにかぶる雪には、豹の死体がある。それは、匂いを嗅ぎ間違えて道に迷ったあわれな狩猟者の末路。あたかも、瀕死の床につくみずからを憐れむようにハリーが口にするこの謎解き。雪を払ったのは、アフリカの生命力に満ちた大地と、妻や周囲の献身的な愛情だったのでしょう。

欧米の社交界や場末の酒場で交わされる男女の不毛な恋愛ならば、ここまで感動しないものですが、野生生物の生態を死のメタファーにさせた演出や、ところどころの人生経験を積んだ上での短くもまっすぐと胸に刺さってくる台詞がなんとも胸に痛い。利己的ではあるが家族を犠牲にしてまでも傑作を残したいという芸術家の暴慢さには嫌気がさすけれど。魂の贅肉を削ぐために人寂しい大地に希望を漁りにいくというロマンは、じつは何歳になっても抱いていたりするもではないか、と思ってしまいます。

主演は、「ローマの休日」でオードリー・ヘプバーンの相手役として有名な名優グレゴリー・ペック。「アラバマ物語」で、アカデミー主演男優賞を受賞しています。
ヘレン役はスーザン・ヘイワード。「私は死にたくない」でアカデミー主演女優賞を受賞。
運命の女性シンシアには、エキゾチックな顔だちが印象に残る、「カンサンドラ・クロス」や「北京の55日」のエヴァ・ガードナー。
リズ伯爵令嬢には、ヒルデガルト・クネフ。ドイツ人らしい低い訛り声が特徴的ですね。1963年の「青髭」で観たことがありました。

監督は1957年の「陽はまた昇る」「慕情」のヘンリー・キング。
映画のラストは希望を含ませる終わり方なのですが、原作ではハリーは死んでしまうようですね。

キリマンジャロの雪(1952) - goo 映画

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