陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

映画「アラバマ物語」

2010-05-19 | 映画──社会派・青春・恋愛
1962年のアメリカ映画「アラバマ物語」は、黒人差別に立ち向かう正義感の強い弁護士を描いた法廷劇。そして、また父と子の絆を描くドラマでもあります。

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1930年代前半の不況の波が押し寄せた、アラバマ州の小さな町が舞台。
やんちゃな妹スカウトと、好奇心旺盛な兄のジェムは町の弁護士をする父アティカス・フィンチと三人暮らし。フットボールの試合に出たがらない父親をジェムは臆病者だと思っています。しかし、貧しい者にもこころ温かい父アティカスが町人に慕われていることを、娘は知っています。

一家の近所には、危険人物視されて家に監禁されているという噂のブーがいます。スカウトとジェムの兄妹は、自慢屋の友人ディルを誘って、ある晩、ブーの家を探ろうとしますが、危うく大きな影に襲われそうになります。

その頃、黒人が白人女性を強姦するという事件が発生。判事の依頼で、黒人の弁護人を引き受けたアティカスに届くのは、被害者の父コーウェルたちからの嫌がらせ。しかし、人種差別意識に異議を唱えるアティカスは、証言の食い違いや状況証拠の不十分をついて無罪を主張。偏見と脅迫にも決して挫けない父を守ろうと駆けつける子どもたちの健気さが胸をうちます。
しかし、容疑者の黒人男性には有罪が下されてしまいます。さらに被告人が殺され、控訴審で逆転判決の機会も奪われたアティカスと、子どもたちには身の危険が迫ってきます。

黒人差別に挑んだ辣腕弁護士の活躍を描く社会派ドラマでありますが、親子の情愛を絡めていくホームドラマでもあります。
この物語には、しめて六組の親子が登場します。嫌な仕事を引き受ける父親への尊敬を深めるフィンチ父子。伯母の元へ身を寄せるディル少年は、鉄道王の父は自慢の父だが影もかたちもない。どす黒い差別感情の持ち主と、父に逆らえず真実を伏せようとする姑息なコーウェルの父娘。貧しいがゆえに息子にろくに食事も与えられない農夫のカニングハム。妻と息子がいて、親切心から世話を焼いてやった女性に濡れ衣を着せられてしまう哀れな黒人男性。そして、精神に異常を来したとして父親たちからモンスター扱いされている謎の男ブー。
このブーことラドリー青年が最後に意外な役回りをしてくれます。

原題はTo Kill a Mocking Bird(ものまね鳥を撃つには)
アティカスがお腹を空かせたカニングハムの息子を招いた食卓で、子どもたちに語って聞かす、鳥のお話がヒントになっています。
子どもたちを襲おうとした狂犬をみごとな銃の腕前で撃ったアティカス弁護士は、しかし、狂気をもった人間がどこにいたかをしっかり見抜いていました。

本作はアクションやラブロマンスなどの娯楽色がまったくないにも関わらず、公開当時は爆発的なヒット。アティカス弁護士はいまだもってアメリカ最高のヒーロー像とされていますが、人種差別のみならず、今で言うところの引きこもり人間への理解を描いたヒューマンストーリーともえいそうですね。

原作は、女流作家ハーパー・リーの原題と同名小説『ものまね鳥を撃つには』(1960年)で、ピューリッツアー賞受賞作。
主演のグレゴリー・ペックは、「ローマの休日」「キリマンジャロの雪」でおなじみ、62年度アカデミー最優秀主演男優賞。声に渋みがある俳優ですね。
最後に本性を現した不気味な青年ブーを演じたのは、「ゴッド・ファーザー」シリーズの脇役ロバート・デュヴァル。本作が映画デヴュー作です。
監督はアメリカのテレビディレクター出身のロバート・マリガン。
脚色者のホートン・フートは最優秀脚色賞、セット美術のオリーバー・エマートは最優秀黒白美術賞を受賞。
冒頭のおもちゃ箱のシーンがなかなか鮮烈で胸に残る快作です。グレゴリー・ペックが手にしていた懐中時計は、実際に原作者が父から譲り受けた愛用品を贈ったものだそうで。

(2010年1月12日)

アラバマ物語(1962) - goo 映画


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3 Comments

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Unknown (十瑠)
2010-05-22 10:11:44
彼方では聖書の次に売れた本とのことで、多分教科書にも使われたでしょうから、アティカス弁護士の人気も合点がいきますね。

ご存じかも知れませんが、ディルは少年の頃のトルーマン・カポーティがモデルです。
返信する
Unknown (万葉樹)
2010-05-22 10:53:06
十瑠さんへ。
たいへん申し訳ないですが。

誘導目的でのリンク・コメントの書き込みは、どなたであれ、お断りしています。
そのようなコメントがあったブログへは参りません。

映画に対する見識が浅く、共鳴のツボがまったくずれている拙ブログを読まれても、がっかりされることが多いのはわかりますが。
ご理解のほど、よろしくお願いします。
返信する
失礼しました (十瑠)
2010-05-22 16:26:39
>誘導目的でのリンク・コメントの書き込みは、どなたであれ、お断りしています。

リンク先は私の「アラバマ物語」の記事で、以前にもこの様にトラック・バック代わりに使わせていただいておりましたが、最近からダメになったのですね。
元々トラックバックは本来の使い方がなされいませんのでなるべく使わないようにしているんですが・・・。
“誘導目的”と書かれますと、不純なブログと思われかねないので一言添えさせて下さい。

>映画に対する見識が浅く、共鳴のツボがまったくずれている拙ブログを読まれても、がっかりされることが多いのはわかりますが。ご理解のほど、よろしくお願いします。

人様の記事にそのような思いを抱いた時にはコメントはしないようにしております。
六組の親子についてのくくり方が新発見だったのですが、やはりトラックバックの方が良かったのですね。
返信する

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