陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

『マリア様がみてる─マーガレットにリボン─』

2008-09-27 | 感想・二次創作──マリア様がみてる
全国数千万人の「マリみて」ファンの皆さま、ごきげんよう。
本日は半年ぶりの「マリみて」レヴュー。手にしましたのは最新刊『マリア様がみてる─マーガレットにリボン─』(〇八年四月刊行)です。

あれ、『薔薇の花かんむり』は?『キラキラまわる』はお忘れではなくて?とおっしゃるお姉様、ご名答。でも、けっして忘れたわけではございません。順どおりにレヴューするのが筋ではございますけれど、あいにくこのふたつまとめて読む時間がございません。ゆえに一冊でおわるこの巻をあえて選んでみたのでございます。というか、『大きな鍵、小さな鍵』以来、まったく時系列無視してレヴューしてる件(汗)だって、いまさら結果のわかってる妹問題の話をする気になれませんわ(苦笑)

というかね、前二巻のほうが固定キャラファンには喜ばれる内容だけれども、いかんせんロザリオ授受だの、卒業生を見送る会だの、遊園地デートだのイベントに新鮮味が感じられないので、読む気が起きなかったかり。

で、今回の一冊。『フレーム オブ マインド』同様に、短編アンソロジー。ただしこれまでと決定的に違うのはすべて書き下ろし。今野先生が読者のリクエストに応じて企画したものらしい。
が、『フレーム オブ マインド』に比べると、いささかひねりが足りないのが不満かな。『フレーム オブ マインド』はのりしろ部分の話もしっかり構成があってぞんぶんに楽しめたのですが、今回はなにか、本編にむりやり話題をふるために、薔薇の館で二年生三人組がくっちゃべってるだけ。いちおう、バレンタインチョコのお返しプレゼントを選び迷っているという前提があるにせよ、必然性があったのやら。
ぶっちゃけ、読まなくても本筋に影響はないエピソードだらけ(爆)

とはいえ、中身のほうは楽しめなかったことはなくて。
水野蓉子、佐藤聖、鳥居江利子、そして蟹名静のなつかしい面々がご登場というのは、ファンにとっては嬉しいサービス。
私はお嬢様女学園という閉鎖的な雰囲気には違和感をおぼえることがたまにあるので、大学生ライフとか社会人とか家庭生活とかでてきたほうがなじみやすかったりします。でも、従来のファン層からしたらそんなリアルな設定いらないでしょうけど。
以下、ネタバレしてますので未読の方スルーで。


優等生ぶりを隠して新しいクラスメイトに新しい自分を売りこもうとする大学生の蓉子。なんと彼女がお手本にしたのは、おちゃらけキャラの聖さま!蓉子ってやっぱり聖のこと、好きなんですかね?憧れてその人になってみたいって。いい子ちゃんが不良に惹かれる感じ。前の受験のときのエピソードでも思いましたけど、水野蓉子というキャラはもしかしたら作者の投影像なのかもと憶測してしまいます。だって、なんか感情表現がリアルだもの。
ああ、でもわかりますね。環境をかえたら古い自分をリセットして新しく演出してみようとするのって。けっきょく友人たち含めて自然体におちついたあたりが、読後感のさわやかな一品。

江利子さまは、例のフィアンセ(?)の山辺氏といっこうに進展しない仲。が、とつぜん愛娘を紹介されて…。女子校育ちの純粋培養お嬢様がいきなり、こぶ付きの男やもめとつきあうという設定もぶっとんでますけれど。なんだか、ちいさな女の子相手にかわいらしいライバル心を燃やしている、というよりはあの若さで母性愛にめざめている江利子さまが、おもしろい。このひとって、先代薔薇様のなかでは影がうすくて私たまに名前忘れそうになるぐらいさしたる愛着涌かないのですが(失礼)、彼女がでてくるエピソードってなんだかこころ安らぐものが多いんですよね。たぶん一人称で自己語りしたがらないキャラだからと思われますが。

聖さまのエピソードは、に祐巳たちのイタリア修学旅行の裏話。なぜ、いきなり聖さまがあの場所にいたのか、その謎が明かされます。この人も今でもダントツ人気なんでしょうね。

あと気になった話は、志摩子の兄視点から語られた驚愕の事実。なんと志摩子の実の両親は他界していた!なにか、作者の気変わりで書き換えしたエピソードという感じでしたが。もしかしたら、母の形見のロザリオは、いわば志摩子が賢文兄と「妹」の契りをむすぶ道具だったのかもしれないですね。

さて、最後におススメはトリを飾る「青い傘の思い出」
『パラソルをさして』での祐巳がなくした青い傘をめぐって、ほぼ無名の人間があやなす重奏劇。構成の妙もあってとてもおもしろく読めました。

『フレーム オブ マインド』にせよ、『あなたを探しに』にせよ、ひとつの事件を遡及的に多面的な参加者の視点から捉え直したり、すでに固まってしまった人格に縛られない自由闊達なストーリー構成をしてみせたりと、作家としての技能をいかんなく発揮されている今野先生。
エピソードの使い回しは悪くすれば、話の進捗をゆるくして読者をいらつかせることしばしばなのですが。もしかしたら、この作者は「マリみて」のレーベルを用いて、違う路線の方向性を打ち出そうとしているのかなと感じました。
(といいますか、ふつうでしたら「今野緒雪短編集」とでも銘打って売り出せばいいものをわざわざ『マリみて』と題して売りさばいているといえなくもない)

だって女子高生の百合ばかり描くのにも限度がありますものね。祖母と孫、結婚したカップルとそれを見守る友人など、趣向をかえたくみあわせ。ありきたりといえばありきたりな設定であったりもするけれど、閉鎖的な女学園から一歩抜け出た先にそうした人間ドラマをもとめたことが、かえって新鮮だったりする。

そういや『イン ライブラリー』などの本筋に関わらない読み切りエピソードって、アニメ化しないんでしたっけ?なかには名作もあるので映像で観てみたいなと思ってみたり。

で、気になるのがもうすぐ発売される次巻。
このあとがきで「祐巳・祥子編もゴールがみえてきた」という表現から、このシリーズ、祥子さまが卒業なさってもとうめん続きそうですね。惰性で買ってしまって後悔しちゃうこともあるんですが、やっぱりいつまでもいつまでも、好きなキャラが生きながらえてくれてるのって嬉しいもので。作者さまの気力がつづくかぎりは「サザエさん」に追いつくつもりでがんばっていただきたいなと願う私です。ドラマチックな展開にしたいからって、死人が出たりする物語よりは安心して読めますしね。

しかし、はやく読んでない話読まなきゃね…。

ところで、集英社の『マーガレット』って「マリみて」の漫画が載ってることで有名ですが、ふるくは『ベルばら』とか『おにいさまへ…』も載ってたんですね。私はもちろん文庫本で読んで知ったクチです。




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