歌舞伎見物のお供

歌舞伎、文楽の諸作品の解説です。これ読んで見に行けば、どなたでも混乱なく見られる、はず、です。

「供奴」 ともやっこ

2015年08月19日 | 歌舞伎
「奴さん」の踊りです。とくにストーリーもなく単純ですので
気楽にお楽しみいただけるかと思います。

風俗としては元禄のころになります。なので古風で派手な雰囲気です。

奴さんのご主人はお侍で色男です。今日も吉原の遊郭に遊びに行きます。
お供についてきた奴さんは、ついうっかり遅れてしまって田んぼの中の近道を走って行くところです。
提灯を持っていますから急いで追いつかないといけません。

奴さんの仕事は忙しいものです。
一日中、あちこちにお使いにやらされます。冬は寒いからあかぎれもできるし。
しかしかっこいい旦那が自慢なので、今日もさぼらずがんばって走るぜ、と奴さんは言います。

さらに自分の主人がどんなにかっこいいか、旦那様の吉原での様子を真似してみせます。
元禄の特徴的な風俗である「丹前振り(たんぜんぶり)」というもので、
豪勢な衣装でゆったりと歩きます。
ここで、長唄の文句で「浪華師匠(なにわししょう)に似たか」と言っています。
これは、この踊りを初演した「三代目中村歌右衛門(なかむら うたえもん)」のことを言っています。
非常な名優であったため、今もリスペクトを込めてこの文句は残されています。

さらに遊女との口説きの色っぽい踊りもあるのですが、最近はわりとカットになります。
長唄の文句が聞き取れない人が多く、何故急に女っぽい動きになるのか伝わらないためかと思います。

このあと、お座敷で楽しく遊ぶ様子からおふとんの中でのちょっと肌もあらわな描写があって、
ふと気がつけばすごく急いでるのを思い出した奴さん、
あわててまた走っていきます。

おわりです。

男踊りの中でもかなり激しく動きます。とくに後半の「足拍子」は見どころのひとつです。
もともとは「七変化(しちへんげ)」と呼ばれる、七役を早変わりで踊り分ける長い踊りの一部です。
これ単体で踊っても動きの激しさからけっこう息が上がると聞きますので、
初演ではこれは2番目の演目だったようですが、
これを入れて七役というのは、ちょっと、たいへんそうすぎて想像もつきません。

三代目歌右衛門について書いておきます。
化政期、だいたい1800年台のひとで。
顔はイマイチだったそうで、父親の二代目歌右衛門は役者にしないでおこうと思ったらしいのですが、
けっきょく非常な名優になりました。
大阪の人気役者でしたが、江戸にも何度もやってきて江戸でも大人気で、
歌右衛門が出ると他の劇場が不入りになるってそこの役者さんが怒るほどでした。
お芝居では、「逆櫓(さかろ)」の、
「樋口次郎兼光(ひぐちのじろう かねみつ)」の演技の工夫で有名です。

奴さんの持つ提灯の家紋や、後半は襦袢(じゅばん)を見せて踊りますが、その襦袢にも大きく家紋が染めてありますが、
これらも歌右衛門の家紋である「祇園守」を使うことにきまっています。

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