歌舞伎見物のお供

歌舞伎、文楽の諸作品の解説です。これ読んで見に行けば、どなたでも混乱なく見られる、はず、です。

「二人椀久」 ににん わんきゅう

2008年11月24日 | 歌舞伎
所作(しょさ、踊りね)ものです。

「傾城買い(けいせいがい)」ものという古典的なジャンルがあります。
「傾城(けいせい)」というのはランクの高い美しい遊女のことです。男をまどわして城(国)を傾けるほどの美女、という意味です。

「傾城買い」にはいくつかパターンがあるのですが、この作品が京阪で人気があったパターンのひとつです。

大金持ちのボンボンが出てきます。これが尋常な大金持ちではありません。
庶民が殆ど小判なんて持ってなかった江戸の初期に、大名家相手に数百万両の取引をしていた、上方商人たちの息子です。
ゼイタクを知り尽くしているだけでなく、たいへん教養も深く、芸事全般にもすぐれた、
つまり今日びの成金のおにいちゃんと違い、一種の貴族階級でした。

このボンボンが、これまた贅を尽くした遊郭にいるキレイな遊女に惚れます。相思相愛になります。
そして大金を使って廓で遊ぶのです。
お金を使いすぎて実家から勘当されます。ここまでが定番の展開です。

初期の「傾城買い狂言」は、ボンボンが遊女と楽しく遊ぶ様子がそのまま上演されましたが、
だんだん「勘当されたボンボンが「やつし」た姿で傾城と会う」、「やつし」芸が、このジャンルの中心になりました。

歌舞伎では、今残るこの種類のお芝居の代表が、「廓文章(くるわ ぶんしょう)」です。
おちぶれた主人公がみすぼらしい身なりで遊女に会いに来るのです。

ここまで前置きです。

で、この「二人椀久」も「傾城買い狂言」のバリエーションなのですが、
遊女狂いの若旦那は、多くの場合は勘当されて落ちぶれて放浪しますが、
この「椀久(わんきゅう)」こと「椀屋久兵衛(わんや きゅうべえ)」ぼっちゃんは、恋人の「松山太夫(まつやまだゆう)」にお金を使いすぎて座敷牢に閉じこめられてしまいます。

いとしい松山太夫に会えなくて椀久は、気が狂ってしまいます。
狂って座敷牢を出て外にさまよい出た椀久、夢の中で松山太夫と出会い、楽しく踊ります。
でも全部夢なので、夢が覚めたらがっかりです。泣き崩れます。

という悲しい内容ですが、
メイン部分が「夢」ですから幻想的かつ、たいへんキレイな舞台です。
夢からさめたあとの現実とのギャップがあわれをさそう演出です。

「椀久」の他に椀久の羽織を着た松山太夫が出て踊るので、「二人椀久」と呼ばれます。
椀久さんがふたり出るわけではありません。

歌舞伎のジャンル的には「傾城買いもの」の1バージョンと言えますが、
踊りのジャンルとしては「物狂(ものぐるい)」というのに入ります。
「物狂」は、その名の通り、狂ったヒトの踊りです。
男の「物狂」で有名なのは、これと「保名」、「江島生島」があります。
どれもきれいなお兄さんが悲しく踊る作品です。

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