もとは近松の作品です。長いです。
今出すのは作品の一部を脚色したもので、所作仕立てのものです。新作と見ていいです。
もともと長いものがたりの一部ですから、設定が少しわかりにくいかもしれません。
あとタイトルと内容はまったく関係なくなっています。
ジャンルとしては「平将門もの」です。
「平将門の乱」の後日譚です。
今も霞ヶ関だかに「首塚」あるくらいですから、死んだ将門の「呪い」は、当時、かなりリアリティーのあるネタだったようです。
登場人物です。
ええほうのひと
・源頼信(みなもとの よりのぶ)
たしかに有名な武将ですが、実際にこのかたが平定したのは将門の乱じゃなくて、その数十年後の平忠恒(たいらの ただつね)の乱です。いいけど。
清和源氏の祖とされる、八幡太郎義家(はちまんたろう よしいえ)のおじいさんにあたります。
・伊予の内侍(いよの ないし)
頼信さんの奥さんです。病気ですよ。朝廷からお姫様がお見舞いに来ます。
・源頼平(みなもとの よりひら)
頼信の弟さんです。実在したのかはよくわかりません。
通しで出すとこのかたが主人公です。思い込み激しい一本気な熱血派です。若いなあ。
という設定は今回まったく生かされていないですよ。まあいっか。
・源頼光
頼信や頼平のお兄さん、この脚色だと出ません。
・頼光四天王(よりみつ してんのう)
源頼光の家来の四天王です。今回頼光は出ませんが、四天王は出ますよ。
悪いほう
・小蝶(胡蝶)
キレイなお姉さん、平将門の娘なので、父の遺志を継いで日本征服をたくらんでいます。
そのために以前頼信のお屋敷に入り込んで働いていたのですが、頼信を好きになってしまい、いろいろ騒ぎを起こして(この部分が原作前半のメイン)斬られてしまいました。
今回、モノノケと化してお姫様に化けて、恋しい頼信のにくらしい奥さんを殺しに来たのです。
・平良門
将門の息子さん。原作ではこのヒトと頼平との対立のあれこれが見せ場です。
妹と力を合わせて日本征服をたくらんでいます。
ストーリー
頼信の奥さんの伊予の内侍が病気です。四天王の奥さんたちが心配しています。
庭の築山(つきやま)に都の観光名所を再現して心を慰めようということになります。
これは、大きくストーリーには関係ない場面なのですが、
名作古浄瑠璃「頼光跡目論(よりみつ あとめろん)」に、病気の源頼光をなぐさめるために四天王が相談して、
庭に塩釜(松島=観光名所)の様子を再現する、という場面があるのを意識していると思います。
「関八州繋馬」自体、もともとは源頼光が中心の物語です。
頼光はあまり出てこないのですが、当時(江戸時代)の感覚では、頼光は将軍みたいな地位にいたと思われていたのです。
なので、まずお話の核として頼光を出して、で、その周辺の人々、弟の頼信や頼平なんかを出していくような書きかたをしたのです。
というわけで、上で「将門もの」と書きましたが、
江戸中期以降は存在しなくなる「頼光もの」とでもいうべきジャンルにもこれは入ると思います。
細かい部分でも「頼光跡目論」を意識しているかんじです。
お話の説明に戻ります。
伊予の内侍登場。
「奥様」というから奥様っぽいのが出るのかと思ったら、朱鷺色(ときいろ、薄ピンク)の大振袖のお姫様だからびっくりしますよ。
「嫁入りして間もないのでまだ娘の恰好」という設定です。
伊予の内侍は「胡蝶の夢」でうなされています。そのせいで病気なのです。
頼信が登場、
「胡蝶」という人物にまつわる過去バナをします。↑に書いたようなことです。
胡蝶は死んだのですが、どうもモノノケに変じて伊予の内侍にとりついたらしいのです。
ここで如月姫(きさらぎひめ)というのが登場します。朝廷からのお見舞いの使者ですよ。伊予の内侍にお薬を持ってきます。
こっちは赤姫です。朱鷺色と赤、色違いのお姫様がふたりでキレイですよ。
薬がよく効くようにと、如月姫が踊ります。
ていういか、頼信と伊予の内侍と3人で踊ります。わけわかりませんが、完全に「舞台映え」重視だと思います。
ここまでのストーリーはセリフだけで説明されるので、聞き取れないとつらいかもしれませんが、
まあ、いろいろしゃべっていますが↑でやっているような感じのことです。それほど複雑ではありません。
弟の頼平が登場です。
頼平が「朝廷に「如月姫」なんていねえぞ」、と言ったことから、如月姫の「見顕わし」になります。
てか御殿に入れる際の身元認証てきとうすぎ。
庭に作った大文字の火のミニチュアが、ミニチュアとはいえ御神火なので、その火に照らされると如月姫が蜘蛛の精にぶっかえるのです。
糸をばんばん投げてかっこよく逃げる胡蝶
前半終わり。
「つなぎ」の場、村人の踊り、
ここで「伊予の内侍が死んだ」とか里に蜘蛛やガマが出て大変、とかの説明が入ります。
後半
モノノケ本体の土蜘蛛(つちぐも)登場です。
まず花道で四天王が名乗ります。名前割愛です。
四天王が頼信とともに舞台に来ると、悪役の平良門と、胡蝶が変じた土蜘蛛の精が登場ですよ。
怖いです。
四天王と頼信、頼平が闘いますが、悪役二人の方が強いです。
というわけでせっかくの四天王ですが、あまり見せ場がありません。ちぇ。
蜘蛛の精が糸をたくさん投げてかっこいいですよ。
最後に頼信が刀を抜きます。「膝丸」という名刀です。名前の意味わかりません、すまん。
膝元に置く名刀?
で、いわゆる「名刀」には精霊が宿っているのです。悪心を持つ反逆者である良門ヤ、モノノケである蜘蛛の精は名刀の霊力には勝てないのです。
というわけで、追い詰められるふたり、ふたりを取り囲む四天王その他(その他のほうがエライです)。
双方にらみ合って、幕、です。
というわけで、能由来の松羽目ものの名作「土蜘蛛」とだいたい流れは同じです。
登場人物がどういうヒトなのかだけ押さえておけば、とくに混乱はないと思います。
チナミに「土蜘蛛」の解説でも書きましたが、「土ぐも」は古事記にも出てくる古いことばです。
大和朝廷はもともと九州高千穂にいて、福岡から山陽経由で東進、大阪、熊野をかすめて大和に入りました。(出雲勢力圏との講和に成功したので東進したらしい)。
で、当然大和地方には土着の先住部族がいて、抗争があったわけです。
古事記ではそれらの先住部族を「土雲」「土ぐも」と表現しています。
ようするに大和朝廷に従わない武装土着勢力の総称が「つちぐも」なのです。
おそろしげな蜘蛛の精は、そのデンジャラスさや強い呪術性の象徴です。
出雲の山間部に潜み、農業集落を襲って娘や収穫物を奪う無頼の集団を「オロチ」に象徴したのと同じだと思います。
あ、全ての先住民を「つちぐも」と呼んだわけではなく、一定の文化レベルと政治組織を持った部族の長は、「国つ神」と呼んだみたいです。
古事記も深読みしだすとキリがない。
=索引に戻る=
今出すのは作品の一部を脚色したもので、所作仕立てのものです。新作と見ていいです。
もともと長いものがたりの一部ですから、設定が少しわかりにくいかもしれません。
あとタイトルと内容はまったく関係なくなっています。
ジャンルとしては「平将門もの」です。
「平将門の乱」の後日譚です。
今も霞ヶ関だかに「首塚」あるくらいですから、死んだ将門の「呪い」は、当時、かなりリアリティーのあるネタだったようです。
登場人物です。
ええほうのひと
・源頼信(みなもとの よりのぶ)
たしかに有名な武将ですが、実際にこのかたが平定したのは将門の乱じゃなくて、その数十年後の平忠恒(たいらの ただつね)の乱です。いいけど。
清和源氏の祖とされる、八幡太郎義家(はちまんたろう よしいえ)のおじいさんにあたります。
・伊予の内侍(いよの ないし)
頼信さんの奥さんです。病気ですよ。朝廷からお姫様がお見舞いに来ます。
・源頼平(みなもとの よりひら)
頼信の弟さんです。実在したのかはよくわかりません。
通しで出すとこのかたが主人公です。思い込み激しい一本気な熱血派です。若いなあ。
という設定は今回まったく生かされていないですよ。まあいっか。
・源頼光
頼信や頼平のお兄さん、この脚色だと出ません。
・頼光四天王(よりみつ してんのう)
源頼光の家来の四天王です。今回頼光は出ませんが、四天王は出ますよ。
悪いほう
・小蝶(胡蝶)
キレイなお姉さん、平将門の娘なので、父の遺志を継いで日本征服をたくらんでいます。
そのために以前頼信のお屋敷に入り込んで働いていたのですが、頼信を好きになってしまい、いろいろ騒ぎを起こして(この部分が原作前半のメイン)斬られてしまいました。
今回、モノノケと化してお姫様に化けて、恋しい頼信のにくらしい奥さんを殺しに来たのです。
・平良門
将門の息子さん。原作ではこのヒトと頼平との対立のあれこれが見せ場です。
妹と力を合わせて日本征服をたくらんでいます。
ストーリー
頼信の奥さんの伊予の内侍が病気です。四天王の奥さんたちが心配しています。
庭の築山(つきやま)に都の観光名所を再現して心を慰めようということになります。
これは、大きくストーリーには関係ない場面なのですが、
名作古浄瑠璃「頼光跡目論(よりみつ あとめろん)」に、病気の源頼光をなぐさめるために四天王が相談して、
庭に塩釜(松島=観光名所)の様子を再現する、という場面があるのを意識していると思います。
「関八州繋馬」自体、もともとは源頼光が中心の物語です。
頼光はあまり出てこないのですが、当時(江戸時代)の感覚では、頼光は将軍みたいな地位にいたと思われていたのです。
なので、まずお話の核として頼光を出して、で、その周辺の人々、弟の頼信や頼平なんかを出していくような書きかたをしたのです。
というわけで、上で「将門もの」と書きましたが、
江戸中期以降は存在しなくなる「頼光もの」とでもいうべきジャンルにもこれは入ると思います。
細かい部分でも「頼光跡目論」を意識しているかんじです。
お話の説明に戻ります。
伊予の内侍登場。
「奥様」というから奥様っぽいのが出るのかと思ったら、朱鷺色(ときいろ、薄ピンク)の大振袖のお姫様だからびっくりしますよ。
「嫁入りして間もないのでまだ娘の恰好」という設定です。
伊予の内侍は「胡蝶の夢」でうなされています。そのせいで病気なのです。
頼信が登場、
「胡蝶」という人物にまつわる過去バナをします。↑に書いたようなことです。
胡蝶は死んだのですが、どうもモノノケに変じて伊予の内侍にとりついたらしいのです。
ここで如月姫(きさらぎひめ)というのが登場します。朝廷からのお見舞いの使者ですよ。伊予の内侍にお薬を持ってきます。
こっちは赤姫です。朱鷺色と赤、色違いのお姫様がふたりでキレイですよ。
薬がよく効くようにと、如月姫が踊ります。
ていういか、頼信と伊予の内侍と3人で踊ります。わけわかりませんが、完全に「舞台映え」重視だと思います。
ここまでのストーリーはセリフだけで説明されるので、聞き取れないとつらいかもしれませんが、
まあ、いろいろしゃべっていますが↑でやっているような感じのことです。それほど複雑ではありません。
弟の頼平が登場です。
頼平が「朝廷に「如月姫」なんていねえぞ」、と言ったことから、如月姫の「見顕わし」になります。
てか御殿に入れる際の身元認証てきとうすぎ。
庭に作った大文字の火のミニチュアが、ミニチュアとはいえ御神火なので、その火に照らされると如月姫が蜘蛛の精にぶっかえるのです。
糸をばんばん投げてかっこよく逃げる胡蝶
前半終わり。
「つなぎ」の場、村人の踊り、
ここで「伊予の内侍が死んだ」とか里に蜘蛛やガマが出て大変、とかの説明が入ります。
後半
モノノケ本体の土蜘蛛(つちぐも)登場です。
まず花道で四天王が名乗ります。名前割愛です。
四天王が頼信とともに舞台に来ると、悪役の平良門と、胡蝶が変じた土蜘蛛の精が登場ですよ。
怖いです。
四天王と頼信、頼平が闘いますが、悪役二人の方が強いです。
というわけでせっかくの四天王ですが、あまり見せ場がありません。ちぇ。
蜘蛛の精が糸をたくさん投げてかっこいいですよ。
最後に頼信が刀を抜きます。「膝丸」という名刀です。名前の意味わかりません、すまん。
膝元に置く名刀?
で、いわゆる「名刀」には精霊が宿っているのです。悪心を持つ反逆者である良門ヤ、モノノケである蜘蛛の精は名刀の霊力には勝てないのです。
というわけで、追い詰められるふたり、ふたりを取り囲む四天王その他(その他のほうがエライです)。
双方にらみ合って、幕、です。
というわけで、能由来の松羽目ものの名作「土蜘蛛」とだいたい流れは同じです。
登場人物がどういうヒトなのかだけ押さえておけば、とくに混乱はないと思います。
チナミに「土蜘蛛」の解説でも書きましたが、「土ぐも」は古事記にも出てくる古いことばです。
大和朝廷はもともと九州高千穂にいて、福岡から山陽経由で東進、大阪、熊野をかすめて大和に入りました。(出雲勢力圏との講和に成功したので東進したらしい)。
で、当然大和地方には土着の先住部族がいて、抗争があったわけです。
古事記ではそれらの先住部族を「土雲」「土ぐも」と表現しています。
ようするに大和朝廷に従わない武装土着勢力の総称が「つちぐも」なのです。
おそろしげな蜘蛛の精は、そのデンジャラスさや強い呪術性の象徴です。
出雲の山間部に潜み、農業集落を襲って娘や収穫物を奪う無頼の集団を「オロチ」に象徴したのと同じだと思います。
あ、全ての先住民を「つちぐも」と呼んだわけではなく、一定の文化レベルと政治組織を持った部族の長は、「国つ神」と呼んだみたいです。
古事記も深読みしだすとキリがない。
=索引に戻る=
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