2幕目と3幕目はこちらです。
1幕目は=こちら=です。
4、5幕目は=こちらです。
一応、おさらい的に全体の構成をここにも書いておきます。
4つのお話が交差しながら進みます。
・「お祭り左七(おまつりさしち)」という町人のイケメンと。「お糸(おいと)」という芸者の筋
・「糸屋」という大きなお店(おたな)の一人娘の「お房(おふさ)」の婿取りをめぐる陰謀やゴタゴタの筋
・とある大名家のお家騒動で濡れ衣を着せられた「本庄綱五郎(ほんじょう つなごろう)」というイケメン武士の筋
この3つが交錯しながら進み、これに過去の話、
・「本庄綱五郎」には婚約者がいたが、その娘が家来だった男と恋仲になってお屋敷のお金を盗んで逃げて行方不明
というのがジワジワと絡んでいきます。
悪人たちがこの3つのお話をつなげています。
・「山角 五平太(やまずみ ごへいた)」、お侍です。ライバルを蹴落とすためとお金のために悪だくみをします。
・「左五兵衛(さごべえ)」、「糸屋」の番頭です。「糸屋」のの乗っ取りをたくらんでいます。
・「百川 東林(ももかわ とうりん)」医者です。金欲しさに二人に協力します。
という3人です。
2幕目は、「糸屋」の話です。
メインの悪人は番頭の「左五兵衛(さごへえ)」」です。
本町糸屋の場
「本町(ほんちょう)」というのは「日本橋本町」のことです。
ここにあるお店(おたな)ですから「糸屋」はかなり大きな店です。
展開を追いながら設定を説明するとわかりにくいと思うので、先に書きます。
「糸屋」の主人は死んでしまっており、未亡人の「おりつ」さんが今は店の女主人です。
「おりつ」さんは後妻ですのでまだ若く、お店のことはわからないので
番頭の「左五兵衛(さごべえ)」が店を仕切っています。
一応まじめに仕事をしているのでお店は順調ですが、左五兵衛は店を乗っ取ろうと画策しています。
さらに娘の「お房(おふさ)」ちゃんも狙っています。とてもきれいな子です。
お房ちゃんにはもともとは姉がいました。「小糸(こいと)」ちゃんといいます。
とある大名家でお屋敷奉公をしていて婚約者までいたのですが、
他の男と駆け落ちして行方不明です。父親は激怒して「小糸」ちゃんを勘当、
心労で病死したのでした。
なので今はお房ちゃんが跡取り娘です。
お房ちゃんに婿取りの話が舞い込みます。とても条件のいい話です。
あわてる左五兵衛。
お房ちゃんもあわてます。好きな人がいるのです。
お房ちゃんが好きなのは、最近店の裏で占いの屋体を出している若い浪人ものです。
これが前の幕で出てきた「本庄綱五郎(ほんじょう つなごろう)」なのですが、このへんは後半の話になります。
では展開に沿って書いてみます。
ところで、今は別バージョンの展開が存在し、どちらが採用される風潮なのかちょっと判断できません。
一応初演時の内容を中心に書きます。
糸屋の店先です。みんな仕事をしています。左五兵衛が仕切っています。
女主人の「おりつ」さんが戻って来ます。「宿老(しゅくろう)の妻」だという「おこの」さんと一緒です。
「宿老」というのは、「名主(なぬし)」さんとほぼ同義です。町内会長と思えばいいです。
「糸屋」がずっと女所帯なことを心配していた「宿老」の世話で、このたびお婿さんが来ることになりました。
五百両分の土地を持参金に持ってくるという好条件です。
急ですがさっそく今晩、式を上げる段取りになっています。
お房ちゃんを狙う左五兵衛はあわてていろいろ反対しますが、もう決まってしまっています。
店の「ゆずり状」も名主さんに見せて手続きしてきました。
「ゆずり状」は、つまり全権委任書ですが、セリフで「ゆずり状」と言ったり「沽券(こけん)」と言ったりしています。
同じものです。
出かけていたお房ちゃんが戻って来ます。
お付きの下女や丁稚と一緒に、魚屋さんの「勝(かつ)」も途中で一緒になってやってきます。
りっぱな干し鮭を持ってきます。
お房ちゃんは婚礼の話を聞いて断固拒否します。
行方不明だけど姉さんがいるんだからそっちを跡取りにすればといいますが、
上に書いたような事情なので姉娘を跡取りにする案は却下です。すでに除籍届けも出ています。
チラっと好きな人がいる話もしますが片思いなのでヒミツです。
奥に逃げ込んだお房ちゃんは後でどうにかすることにして、みんなで式の準備を始めます。
魚屋の「勝」が、ちょうど持ってきた鮭もあるので料理を作ります。
勝に言われて丁稚の「与茂吉(よもきち)」が胡椒(こしょう)を買いに行きます。
ここで「本郷まで行くのか」とか「乾物屋で若衆を売るのか」とか言うかもしれませんが、
「胡椒」と「小姓」を間違えた小ネタです。カットかもしれません。
この丁稚の与茂吉は、阿呆なのでとんちんかんなことをやっているのか、全部わかっていてイヤガラセをしているのかよくわからない
見ていて楽しい役です。
準備のために全員奥に行きます。
残った左五兵衛があわてています。お房ちゃんを嫁にして店を乗っ取る計画が台無しです。
とりあえず、さっきの店の「ゆずり状」を盗もうと取り出すのですが、
人が来るのであわててどこかに隠そうとします。
そこにあった鮭の口の中に突っ込みます。人間あわてるとすごいことを考えつくものです。
やってきたのは医者の「東林(とうりん)」です。じつは最初からいます。
関係ないですが、この東林や、あとから出る按摩(あんま)さんの「得都(とくと)」は、
ふつうに代金お店持ちで下働きの従業員たちの治療をします。もちろん、毎日の風呂や髪結いも店持ちです。
江戸時代の商家の福利厚生はしっかりしているなと思います。
東林と左五兵衛が、1幕目でちょっと話していた毒薬の打ち合わせを始めます。
お房ちゃんの結婚を阻止するのですから、古典的な方法だと婿入りする人を殺します。
お芝居で言うと「白木屋(しろきや)」が舞台の事件「恋娘昔八丈(こいむすめ むかしはちじょう)」です。
セリフでも「ちょっと城木屋(白木屋)めいていて古い」と言って、今回は却下します。
今回はお房ちゃんを殺してしまう計画です。
もちろん本当に殺してしまっては意味がないので、あとで生き返らせる薬を使います。
本当に生き返るか不安な左五兵衛のために東林は証文を書きます。
しかし契約違反の場合どこに訴えるんでしょうか。
お芝居の中でも自己ツッコミしていますが
この契約書は人手に渡ったら本人たちが困るだけのシロモノです。
そしてもちろんこのあと人手に渡ります。
南北の作品では証文は必ず落とすか盗まれるかすることになっています。
このあと譲り状を隠した鮭を台所に持って行かれたり、
急病人が出たと人が呼びに来て、医者の東林が生き返る薬を渡す前に連れて行かれたりします。
あわてる左五兵衛。
鮭はどうにか残った頭だけもらう約束をします。
医者の東林は連れて行かれる途中で、胡椒を買って戻って来た丁稚の与茂吉に会ったので
与茂吉に気付けの薬の袋を渡します。
戻った与茂吉は、漢字が読めないので袋の区別がつかなくなり、
お約束通りに胡椒が入ったほうの袋を左五兵衛に渡します。
いろいろバタバタしているうちに、花婿がやってきます。
「神原屋 左五郎(かんばらや さごろう)」という人です。
悪人が「左五兵衛(さごへえ)」でお婿さんが「左五郎(さごろう)」ですからわかりにくいのですが、
なんとかついていってください。
ここでは区別しやすいようにフルネームで「神原屋左五郎」と書くようにします。
ところでたぶん覚えていないと思いますが、1幕目に「金六」という質屋さんが出てきて、
五平太は、盗んだ家宝の色紙を質にいれてこの「金六」からお金を借りたのですが、
「神原屋」というのは、その「金六」が勤めている質屋なのです。
というのは後に向けての伏線で、この段階だと一部のお客さんが「あれ?神原屋?と気付く程度です。
ロコツに敵意むき出しの左五兵衛も交えてのいろいろあいさつがあり、
三三九度の杯になります。
お房ちゃんはものすごくいやいやですが、とにかく盃のお酒を飲みます。
苦しがって倒れます。
大騒ぎになります。
別バージョンというのは、どうしても婚礼が嫌なお房ちゃんが
東林に頼んでこの毒をもらい、自分で飲むのです。
もともとはここはは店を乗っ取ろうとする「左五兵衛」の悪だくみがメインテーマで
恐ろしい悪だくみと、それがいろいろなアクシデントでなかなかうまくいかない様子を
ハラハラにやにやしながら眺める舞台だったのだと思います。
「お房」ちゃんの恋バナを見どころのメインにすると、こういう展開もアリなのかなと思います。
さて、お房ちゃんが倒れたあとも、状況がよくわからずにひとりでウロウロしていた婿の「神原屋左五郎」ですが、
お房ちゃんに毒が盛られたと気付き、自分も飲むところだったと気付いて「くわばらくわばら」と逃げ帰って
この場面はおわりです。
この左五郎という役はここだけ見るとぼっとしているようで鋭い、よくわからない印象です。
最後まで見るとすごくいい役ですが、そのわりにお芝居にはあまりからみません。
これは、初演でのこの役がまだ若かった七代目市川團十郎なので、
あまり重い役ではないが相応に目立つ役、というような
加減がむずかしい立ち位置にあったせいではないかと想像します。
夜の場面になります。糸屋の台所です。
お房ちゃんはいよいよ死にそうです。悲しむ母親のおりつさん。
当時は死んだ人は、頭を剃って出家した形にして、死に装束を着せて埋める決まりでした。
しかし後で生き返らせて嫁にしたい左五兵衛は、お房ちゃんが坊主頭になっては困ります。
いろいろ言いくるめて頭も婚礼衣装もそのままで、
さらに、婚礼の準備金の百両があったのですが、
小銭を入れて首から下げる袋にこの百両を入れて葬る手はずにします。
みなさん一度寝ます。
深夜です。左五兵衛が鮭の頭を、というかその中の「ゆずり状」をやっと回収します。
火の番をしていた丁稚の与茂吉が怪しんで声をかけます。
ここでのセリフ回しや動きが、ちょっと他の場面と違って意味わからないかもしれません。
急に立ち回りを始めたりします。
これは前年にやった、南北のお芝居一場面のパロディになっているのだそうですが
当該作品をチェックしていませんすみません。
おもしろいですが今はカットかもしれません。
さらに場面変わって、今度は糸屋の裏の通りです。
易者さんが店を出しています。
これが主人公のひとりの「本庄綱五郎(ほんじょう つなごろう)」です。
浪人して易者で生計を立てています。
ここに、前幕でも出た悪役の侍の「山角五平太(やまずみ ごへいた)」が通りかかり、綱五郎に気付きます。
実際はふたりは敵同士ですが、表向きは同輩ということで、警戒しつつ情報交換をします。
盗まれた色紙はこのへんの質屋に入っているらしい。
綱五郎はどうにか請け出したいがお金がない。
みたいな話をしていると、五平太がスリに紙入れをすられます。
あわてて追いかける五平太。五平太退場。
チナミに五平太のこの紙入れには、前幕で書いた「色紙を質入れして二百両受け取った」というあのヤバい証文が
まだ入っています。
この証文をめぐるさわぎは、次の幕になります。
裏木戸から魚屋の勝と丁稚の与茂吉が出てきて、
えらいさわぎでびっくりしたみないなことを漫才のようなやりとりで話します。
胡椒(コショウ)は結局使わずじまいでした。
というか、勝がここで袋の文字を読み、やっとこれが胡椒でないことに気付きます。
捨てて退場します。
与茂吉が拾いますがあとでまた捨てます。
綱五郎が与茂吉に声をかけ、いろいろ聞き出します。
花嫁が死んだことや花嫁衣装のまま葬ることや、百両を首にかけていることなどです。
さらに、物陰に主人公のひとり、ならず者の「半時九郎兵衛(はんとき くろべえ)」がいます。話を立ち聞きしています。
「娘が百両持って花嫁姿のまま埋められる」という情報を、
左五兵衛、医者の東林、綱五郎、九郎兵衛の4人が知っていることになります。
さて与茂吉が捨てた薬を綱五郎が拾います。
字が読める人が見ればちゃんと効能も用法も書いてあります。気付け薬です。
「天水で飲ませろ」と書いてあります。「天水」は雨水です。雨水と一緒に飲まないと効果がないのです。
なぜ雨水とお思いでしょうが、こういうのは感覚は一種の魔法なので整合性を気にしたら負けです。
あとここでチラっと、以前占ってくれと言われて受け取った恋文の話をしますが、この説明は次でやります。
3幕目
大通寺(だいつうじ)門前の場
死んだお房ちゃんをのお葬式をやっています。ひとが大勢います。
スリが参列客の一人の紙入れを盗みます。すぐに捕まります。
一応書くと、「紙入れ」というのは細かい書類や懐紙を入れてフトコロに入れて持ち歩くものですが、
携帯用の薬や小銭も入れていました。ポーチみたいなかんじです。
スリは最近盗んだ紙入れを4こ持っていて、
今盗んだのがどれかわからないから好きなのを持っていけというのがおもしろいです。
スリは残り3つの紙入れを置いて逃げていきます。
処理に困っているとスリを捕まえたひとが「自分が使う」と言ってもらって行きます。
田舎の人なのでおみやげに持って帰るようです。どうせ中身は空だし。
大通寺墓所の場
夜になります。墓場です。
「本庄綱五郎(ほんじょう つなごろう)」がやってきます。
家宝の色紙を請け出すためにお金がどうしてもいるのです。娘と一緒に埋葬されるというお金を取りに来ました。
もともと真面目な男なので、おっかなびっくりです。
ところで、同じ日にもう1件お葬式がありました。
「糸屋」の幕で、急病人が出て医者の「東林」が連れていかれた場面がありましたが、
その病人が死んだのです。こっちも女性です。
こっちはいろいろ滑稽な話になっており、いろいろ大騒ぎになっておもしろいのですが、
ごっそりカットになっている可能性があります。
一応初演の設定では死人は2人いてお墓の穴は2個掘ってあります。
ようするに葬礼が2件あって1件目のふるまい酒でみんな酔っ払ってしまい、
死人の髪を剃らなければならないのに誰も剃る人がいない。死んだ女性の夫が怒って暴れる。
坊さんも生臭坊主で反撃して、手近にあった卒塔婆(そとば)で叩き合う。
みたいなかんじです。
「卒塔婆(そとば)」というのは、墓石ができるまで仮に立てておく、薄い木でできた、フチがギザギザのあれです。
今もお墓でよく見かけると思います。
今回ちょうど2本「卒塔婆」がそのへんに立てかけてあったのは死人が2人いるからです。
それで叩き合ったのです。
やっと仲直りをしたのですが、2本あった「卒塔婆」の、どっちが誰のものかわからなくなりました。
あいにくそこにいる全員が字を読めないので書かれた戒名も読めません。
しかたないのでてきとうに大きい方を自分のお墓に立てて、死人が入った桶をを穴におろし、
埋めるのはひと仕事ですからその前に仲直りの酒盛りに行きます。
全員退場。
つまり、埋めていないお墓が2個あってどちらにも女性が入っており、髪も剃っていない。
しかも「卒塔婆」は間違って立てられている。
という状態です。
ついでに言うと一方の首には百両入りの袋、もう一方には故人が好きだった大福入りの袋がかかっています。
まず、医者の東林がやってきます。東林も百両のことを知っているので奪いに来ました。
運良く正しい桶のフタを開けて、お房ちゃんの首にかけた百両を奪います。
このときセリフで「二十四時がそのうちは(本当には死なない)」と言います。
当時は「十二時(じゅうにとき)」で1日ですから、「二十四時」は今で言うとまる2日です。
綱五郎が駆け寄ってこれを奪い取ります。
もみあいになります。
場面が変わります(回り舞台って便利)。墓場の裏の通りです。
左五兵衛もやってきました。物陰に九郎兵衛も来ています。ふたりはちょっと出遅れているかんじです。
もとの場面になり、もみあった末に東林は気絶します。
ここでの綱五郎はちょっと悪そうなかんじの演出になっていてこれもかっこいいです。
お金を取った綱五郎は逃げようとするのですが、雨が降ってきます。
雨水が口に入ったのでお房ちゃんが息を吹き返します。
このまま捨てて行こうと思った綱五郎ですが、そういえば気付け薬っぽいものを拾って持っているし、
人として助けないわけには行かない。
持ち主が生き返ったらお金は返さないとだけど、まあ本人に頼んでみよう、ということで
お房ちゃんを生き返らせます。
お約束で、薬は口移しに飲ませてお互いの肌を付けてあたためます。えろいです。
生き返ったお房ちゃんの第一声が「結婚はイヤーゆるしてー」(意訳)です。
状況わかってないからそうなりますが、かわいいです。
いろいろ説明され、そのお金貸してと頼まれたお房ちゃんは快諾します。
そもそも自分のお金じゃないし。
ところで、ここは夜の墓地なので真っ暗だという設定です。お房ちゃんは相手の顔がわかりません。
いろいろ話して、相手が「店の裏の易者」だと気付きます。きゃー!!
というわけで、立ち去ろうとした綱五郎をお房ちゃんは引き止め、連れて行ってほしいと頼みます。
以前「墨色(すみいろ)を見てほしい」と頼まれた恋文があったと思うけど
あれは私が書いたものだ。どうしても読んで欲しかったのだ。
あれを読んだなら気持ちはわかってくれると思う。連れて行ってください
そんなかんじです。
「墨色を見る」というのは、
「花押(かおう)」というものがあり、絵的にデザインされた本人のサインみたいなものです。
つまり本人の名前を墨で書き、その色の部分的な薄い濃いなどから吉凶を占うものなのですが、
そう言って頼まれて渡された紙を広げてみたら、中身が「花押」ではなく恋文だったことがあったのです。
不思議に思ってはいたのです。そういうことだったのか!!
家に帰って結婚するのは嫌。連れて行ってくれないならここで死ぬ、と言われた綱五郎は
お房ちゃんを連れて逃げる決心をします。
お互いいいムードになったところに、後ろの垣根がメリメリ言って左五郎がやってきます。
あわてて隠れるふたり。
左五郎は「火縄」を振りながらやってきます。縄の先に火をつけてぐるぐる回すと遠心力でなかなか火が消えないのです。
暗闇でのちょっとした光源になります。
いまも京都市内でお正月に「若水くみ」に行くときにこれを振ると思います。
しかし、明かりを使って「卒塔婆」の文字を読んでしまったために間違ったお墓を開けてしまいます。
そっちは大福を持っている方だー。
しかも、左五兵衛が大事に持っている「気付け薬」は胡椒の粉です。
あとは、左五兵衛が死体に胡椒を飲ませたりくしゃみをしたり、裸になって死体をあたためたり、
お金が大福になっていて驚いたり、
そこに九郎兵衛がやってきてお互いが百両取ったと思って争ったりと
大騒ぎをします。
このへんはずっと暗闇だという設定です。
その間に綱五郎とお房ちゃんが逃げようとしますが、
お房ちゃんの衣装が真っ白なのでさすがに暗闇でも気づかれます。
このへんから「だんまり」の演出になっていきます。
「だんまり」については1幕目でざくっと説明書きましたが、
暗闇で複数人数が手探りで相手と争ったり何かを探したり奪い合ったりする、立ち回りの演出の一種です。
さわいでいる間に左五兵衛は自分の紙入れを落とします。
途中から人数が増え、お房ちゃんのお墓参りに来た結婚相手の「神原屋左五郎」と、間違ったほうのお墓の関係者の人が参戦します。
後の方の人は鳶(とび)の親方で、最初の幕に出た「お祭り左七(おまつり さしち)」の親分にあたるのですが、
ここではあまり関係ないのでスルーでいいです。出ないかもしれません。
お房ちゃんの片袖を九郎兵衛が持ち、
左五兵衛の紙入れを、神原屋左五郎が持ちます。
そう。左五兵衛の紙入れには毒薬に関する証文と、糸屋の「ゆずり状」が入っているのです。
これを「神原屋左五郎」が持ったことになります。
初演時の客の感覚ですと「神原屋左五郎」を團十郎がやっている時点で味方にきまっているので、
この時点で事件は大体解決しています。
あとは細かいゴタゴタが収束するのをながめるだけです。というかそのゴタゴタがおもしろいのですが。
この幕おわります。
4、5幕目は=こちらです。
1幕目は=こちら=です。
=50音索引に戻る=
1幕目は=こちら=です。
4、5幕目は=こちらです。
一応、おさらい的に全体の構成をここにも書いておきます。
4つのお話が交差しながら進みます。
・「お祭り左七(おまつりさしち)」という町人のイケメンと。「お糸(おいと)」という芸者の筋
・「糸屋」という大きなお店(おたな)の一人娘の「お房(おふさ)」の婿取りをめぐる陰謀やゴタゴタの筋
・とある大名家のお家騒動で濡れ衣を着せられた「本庄綱五郎(ほんじょう つなごろう)」というイケメン武士の筋
この3つが交錯しながら進み、これに過去の話、
・「本庄綱五郎」には婚約者がいたが、その娘が家来だった男と恋仲になってお屋敷のお金を盗んで逃げて行方不明
というのがジワジワと絡んでいきます。
悪人たちがこの3つのお話をつなげています。
・「山角 五平太(やまずみ ごへいた)」、お侍です。ライバルを蹴落とすためとお金のために悪だくみをします。
・「左五兵衛(さごべえ)」、「糸屋」の番頭です。「糸屋」のの乗っ取りをたくらんでいます。
・「百川 東林(ももかわ とうりん)」医者です。金欲しさに二人に協力します。
という3人です。
2幕目は、「糸屋」の話です。
メインの悪人は番頭の「左五兵衛(さごへえ)」」です。
本町糸屋の場
「本町(ほんちょう)」というのは「日本橋本町」のことです。
ここにあるお店(おたな)ですから「糸屋」はかなり大きな店です。
展開を追いながら設定を説明するとわかりにくいと思うので、先に書きます。
「糸屋」の主人は死んでしまっており、未亡人の「おりつ」さんが今は店の女主人です。
「おりつ」さんは後妻ですのでまだ若く、お店のことはわからないので
番頭の「左五兵衛(さごべえ)」が店を仕切っています。
一応まじめに仕事をしているのでお店は順調ですが、左五兵衛は店を乗っ取ろうと画策しています。
さらに娘の「お房(おふさ)」ちゃんも狙っています。とてもきれいな子です。
お房ちゃんにはもともとは姉がいました。「小糸(こいと)」ちゃんといいます。
とある大名家でお屋敷奉公をしていて婚約者までいたのですが、
他の男と駆け落ちして行方不明です。父親は激怒して「小糸」ちゃんを勘当、
心労で病死したのでした。
なので今はお房ちゃんが跡取り娘です。
お房ちゃんに婿取りの話が舞い込みます。とても条件のいい話です。
あわてる左五兵衛。
お房ちゃんもあわてます。好きな人がいるのです。
お房ちゃんが好きなのは、最近店の裏で占いの屋体を出している若い浪人ものです。
これが前の幕で出てきた「本庄綱五郎(ほんじょう つなごろう)」なのですが、このへんは後半の話になります。
では展開に沿って書いてみます。
ところで、今は別バージョンの展開が存在し、どちらが採用される風潮なのかちょっと判断できません。
一応初演時の内容を中心に書きます。
糸屋の店先です。みんな仕事をしています。左五兵衛が仕切っています。
女主人の「おりつ」さんが戻って来ます。「宿老(しゅくろう)の妻」だという「おこの」さんと一緒です。
「宿老」というのは、「名主(なぬし)」さんとほぼ同義です。町内会長と思えばいいです。
「糸屋」がずっと女所帯なことを心配していた「宿老」の世話で、このたびお婿さんが来ることになりました。
五百両分の土地を持参金に持ってくるという好条件です。
急ですがさっそく今晩、式を上げる段取りになっています。
お房ちゃんを狙う左五兵衛はあわてていろいろ反対しますが、もう決まってしまっています。
店の「ゆずり状」も名主さんに見せて手続きしてきました。
「ゆずり状」は、つまり全権委任書ですが、セリフで「ゆずり状」と言ったり「沽券(こけん)」と言ったりしています。
同じものです。
出かけていたお房ちゃんが戻って来ます。
お付きの下女や丁稚と一緒に、魚屋さんの「勝(かつ)」も途中で一緒になってやってきます。
りっぱな干し鮭を持ってきます。
お房ちゃんは婚礼の話を聞いて断固拒否します。
行方不明だけど姉さんがいるんだからそっちを跡取りにすればといいますが、
上に書いたような事情なので姉娘を跡取りにする案は却下です。すでに除籍届けも出ています。
チラっと好きな人がいる話もしますが片思いなのでヒミツです。
奥に逃げ込んだお房ちゃんは後でどうにかすることにして、みんなで式の準備を始めます。
魚屋の「勝」が、ちょうど持ってきた鮭もあるので料理を作ります。
勝に言われて丁稚の「与茂吉(よもきち)」が胡椒(こしょう)を買いに行きます。
ここで「本郷まで行くのか」とか「乾物屋で若衆を売るのか」とか言うかもしれませんが、
「胡椒」と「小姓」を間違えた小ネタです。カットかもしれません。
この丁稚の与茂吉は、阿呆なのでとんちんかんなことをやっているのか、全部わかっていてイヤガラセをしているのかよくわからない
見ていて楽しい役です。
準備のために全員奥に行きます。
残った左五兵衛があわてています。お房ちゃんを嫁にして店を乗っ取る計画が台無しです。
とりあえず、さっきの店の「ゆずり状」を盗もうと取り出すのですが、
人が来るのであわててどこかに隠そうとします。
そこにあった鮭の口の中に突っ込みます。人間あわてるとすごいことを考えつくものです。
やってきたのは医者の「東林(とうりん)」です。じつは最初からいます。
関係ないですが、この東林や、あとから出る按摩(あんま)さんの「得都(とくと)」は、
ふつうに代金お店持ちで下働きの従業員たちの治療をします。もちろん、毎日の風呂や髪結いも店持ちです。
江戸時代の商家の福利厚生はしっかりしているなと思います。
東林と左五兵衛が、1幕目でちょっと話していた毒薬の打ち合わせを始めます。
お房ちゃんの結婚を阻止するのですから、古典的な方法だと婿入りする人を殺します。
お芝居で言うと「白木屋(しろきや)」が舞台の事件「恋娘昔八丈(こいむすめ むかしはちじょう)」です。
セリフでも「ちょっと城木屋(白木屋)めいていて古い」と言って、今回は却下します。
今回はお房ちゃんを殺してしまう計画です。
もちろん本当に殺してしまっては意味がないので、あとで生き返らせる薬を使います。
本当に生き返るか不安な左五兵衛のために東林は証文を書きます。
しかし契約違反の場合どこに訴えるんでしょうか。
お芝居の中でも自己ツッコミしていますが
この契約書は人手に渡ったら本人たちが困るだけのシロモノです。
そしてもちろんこのあと人手に渡ります。
南北の作品では証文は必ず落とすか盗まれるかすることになっています。
このあと譲り状を隠した鮭を台所に持って行かれたり、
急病人が出たと人が呼びに来て、医者の東林が生き返る薬を渡す前に連れて行かれたりします。
あわてる左五兵衛。
鮭はどうにか残った頭だけもらう約束をします。
医者の東林は連れて行かれる途中で、胡椒を買って戻って来た丁稚の与茂吉に会ったので
与茂吉に気付けの薬の袋を渡します。
戻った与茂吉は、漢字が読めないので袋の区別がつかなくなり、
お約束通りに胡椒が入ったほうの袋を左五兵衛に渡します。
いろいろバタバタしているうちに、花婿がやってきます。
「神原屋 左五郎(かんばらや さごろう)」という人です。
悪人が「左五兵衛(さごへえ)」でお婿さんが「左五郎(さごろう)」ですからわかりにくいのですが、
なんとかついていってください。
ここでは区別しやすいようにフルネームで「神原屋左五郎」と書くようにします。
ところでたぶん覚えていないと思いますが、1幕目に「金六」という質屋さんが出てきて、
五平太は、盗んだ家宝の色紙を質にいれてこの「金六」からお金を借りたのですが、
「神原屋」というのは、その「金六」が勤めている質屋なのです。
というのは後に向けての伏線で、この段階だと一部のお客さんが「あれ?神原屋?と気付く程度です。
ロコツに敵意むき出しの左五兵衛も交えてのいろいろあいさつがあり、
三三九度の杯になります。
お房ちゃんはものすごくいやいやですが、とにかく盃のお酒を飲みます。
苦しがって倒れます。
大騒ぎになります。
別バージョンというのは、どうしても婚礼が嫌なお房ちゃんが
東林に頼んでこの毒をもらい、自分で飲むのです。
もともとはここはは店を乗っ取ろうとする「左五兵衛」の悪だくみがメインテーマで
恐ろしい悪だくみと、それがいろいろなアクシデントでなかなかうまくいかない様子を
ハラハラにやにやしながら眺める舞台だったのだと思います。
「お房」ちゃんの恋バナを見どころのメインにすると、こういう展開もアリなのかなと思います。
さて、お房ちゃんが倒れたあとも、状況がよくわからずにひとりでウロウロしていた婿の「神原屋左五郎」ですが、
お房ちゃんに毒が盛られたと気付き、自分も飲むところだったと気付いて「くわばらくわばら」と逃げ帰って
この場面はおわりです。
この左五郎という役はここだけ見るとぼっとしているようで鋭い、よくわからない印象です。
最後まで見るとすごくいい役ですが、そのわりにお芝居にはあまりからみません。
これは、初演でのこの役がまだ若かった七代目市川團十郎なので、
あまり重い役ではないが相応に目立つ役、というような
加減がむずかしい立ち位置にあったせいではないかと想像します。
夜の場面になります。糸屋の台所です。
お房ちゃんはいよいよ死にそうです。悲しむ母親のおりつさん。
当時は死んだ人は、頭を剃って出家した形にして、死に装束を着せて埋める決まりでした。
しかし後で生き返らせて嫁にしたい左五兵衛は、お房ちゃんが坊主頭になっては困ります。
いろいろ言いくるめて頭も婚礼衣装もそのままで、
さらに、婚礼の準備金の百両があったのですが、
小銭を入れて首から下げる袋にこの百両を入れて葬る手はずにします。
みなさん一度寝ます。
深夜です。左五兵衛が鮭の頭を、というかその中の「ゆずり状」をやっと回収します。
火の番をしていた丁稚の与茂吉が怪しんで声をかけます。
ここでのセリフ回しや動きが、ちょっと他の場面と違って意味わからないかもしれません。
急に立ち回りを始めたりします。
これは前年にやった、南北のお芝居一場面のパロディになっているのだそうですが
当該作品をチェックしていませんすみません。
おもしろいですが今はカットかもしれません。
さらに場面変わって、今度は糸屋の裏の通りです。
易者さんが店を出しています。
これが主人公のひとりの「本庄綱五郎(ほんじょう つなごろう)」です。
浪人して易者で生計を立てています。
ここに、前幕でも出た悪役の侍の「山角五平太(やまずみ ごへいた)」が通りかかり、綱五郎に気付きます。
実際はふたりは敵同士ですが、表向きは同輩ということで、警戒しつつ情報交換をします。
盗まれた色紙はこのへんの質屋に入っているらしい。
綱五郎はどうにか請け出したいがお金がない。
みたいな話をしていると、五平太がスリに紙入れをすられます。
あわてて追いかける五平太。五平太退場。
チナミに五平太のこの紙入れには、前幕で書いた「色紙を質入れして二百両受け取った」というあのヤバい証文が
まだ入っています。
この証文をめぐるさわぎは、次の幕になります。
裏木戸から魚屋の勝と丁稚の与茂吉が出てきて、
えらいさわぎでびっくりしたみないなことを漫才のようなやりとりで話します。
胡椒(コショウ)は結局使わずじまいでした。
というか、勝がここで袋の文字を読み、やっとこれが胡椒でないことに気付きます。
捨てて退場します。
与茂吉が拾いますがあとでまた捨てます。
綱五郎が与茂吉に声をかけ、いろいろ聞き出します。
花嫁が死んだことや花嫁衣装のまま葬ることや、百両を首にかけていることなどです。
さらに、物陰に主人公のひとり、ならず者の「半時九郎兵衛(はんとき くろべえ)」がいます。話を立ち聞きしています。
「娘が百両持って花嫁姿のまま埋められる」という情報を、
左五兵衛、医者の東林、綱五郎、九郎兵衛の4人が知っていることになります。
さて与茂吉が捨てた薬を綱五郎が拾います。
字が読める人が見ればちゃんと効能も用法も書いてあります。気付け薬です。
「天水で飲ませろ」と書いてあります。「天水」は雨水です。雨水と一緒に飲まないと効果がないのです。
なぜ雨水とお思いでしょうが、こういうのは感覚は一種の魔法なので整合性を気にしたら負けです。
あとここでチラっと、以前占ってくれと言われて受け取った恋文の話をしますが、この説明は次でやります。
3幕目
大通寺(だいつうじ)門前の場
死んだお房ちゃんをのお葬式をやっています。ひとが大勢います。
スリが参列客の一人の紙入れを盗みます。すぐに捕まります。
一応書くと、「紙入れ」というのは細かい書類や懐紙を入れてフトコロに入れて持ち歩くものですが、
携帯用の薬や小銭も入れていました。ポーチみたいなかんじです。
スリは最近盗んだ紙入れを4こ持っていて、
今盗んだのがどれかわからないから好きなのを持っていけというのがおもしろいです。
スリは残り3つの紙入れを置いて逃げていきます。
処理に困っているとスリを捕まえたひとが「自分が使う」と言ってもらって行きます。
田舎の人なのでおみやげに持って帰るようです。どうせ中身は空だし。
大通寺墓所の場
夜になります。墓場です。
「本庄綱五郎(ほんじょう つなごろう)」がやってきます。
家宝の色紙を請け出すためにお金がどうしてもいるのです。娘と一緒に埋葬されるというお金を取りに来ました。
もともと真面目な男なので、おっかなびっくりです。
ところで、同じ日にもう1件お葬式がありました。
「糸屋」の幕で、急病人が出て医者の「東林」が連れていかれた場面がありましたが、
その病人が死んだのです。こっちも女性です。
こっちはいろいろ滑稽な話になっており、いろいろ大騒ぎになっておもしろいのですが、
ごっそりカットになっている可能性があります。
一応初演の設定では死人は2人いてお墓の穴は2個掘ってあります。
ようするに葬礼が2件あって1件目のふるまい酒でみんな酔っ払ってしまい、
死人の髪を剃らなければならないのに誰も剃る人がいない。死んだ女性の夫が怒って暴れる。
坊さんも生臭坊主で反撃して、手近にあった卒塔婆(そとば)で叩き合う。
みたいなかんじです。
「卒塔婆(そとば)」というのは、墓石ができるまで仮に立てておく、薄い木でできた、フチがギザギザのあれです。
今もお墓でよく見かけると思います。
今回ちょうど2本「卒塔婆」がそのへんに立てかけてあったのは死人が2人いるからです。
それで叩き合ったのです。
やっと仲直りをしたのですが、2本あった「卒塔婆」の、どっちが誰のものかわからなくなりました。
あいにくそこにいる全員が字を読めないので書かれた戒名も読めません。
しかたないのでてきとうに大きい方を自分のお墓に立てて、死人が入った桶をを穴におろし、
埋めるのはひと仕事ですからその前に仲直りの酒盛りに行きます。
全員退場。
つまり、埋めていないお墓が2個あってどちらにも女性が入っており、髪も剃っていない。
しかも「卒塔婆」は間違って立てられている。
という状態です。
ついでに言うと一方の首には百両入りの袋、もう一方には故人が好きだった大福入りの袋がかかっています。
まず、医者の東林がやってきます。東林も百両のことを知っているので奪いに来ました。
運良く正しい桶のフタを開けて、お房ちゃんの首にかけた百両を奪います。
このときセリフで「二十四時がそのうちは(本当には死なない)」と言います。
当時は「十二時(じゅうにとき)」で1日ですから、「二十四時」は今で言うとまる2日です。
綱五郎が駆け寄ってこれを奪い取ります。
もみあいになります。
場面が変わります(回り舞台って便利)。墓場の裏の通りです。
左五兵衛もやってきました。物陰に九郎兵衛も来ています。ふたりはちょっと出遅れているかんじです。
もとの場面になり、もみあった末に東林は気絶します。
ここでの綱五郎はちょっと悪そうなかんじの演出になっていてこれもかっこいいです。
お金を取った綱五郎は逃げようとするのですが、雨が降ってきます。
雨水が口に入ったのでお房ちゃんが息を吹き返します。
このまま捨てて行こうと思った綱五郎ですが、そういえば気付け薬っぽいものを拾って持っているし、
人として助けないわけには行かない。
持ち主が生き返ったらお金は返さないとだけど、まあ本人に頼んでみよう、ということで
お房ちゃんを生き返らせます。
お約束で、薬は口移しに飲ませてお互いの肌を付けてあたためます。えろいです。
生き返ったお房ちゃんの第一声が「結婚はイヤーゆるしてー」(意訳)です。
状況わかってないからそうなりますが、かわいいです。
いろいろ説明され、そのお金貸してと頼まれたお房ちゃんは快諾します。
そもそも自分のお金じゃないし。
ところで、ここは夜の墓地なので真っ暗だという設定です。お房ちゃんは相手の顔がわかりません。
いろいろ話して、相手が「店の裏の易者」だと気付きます。きゃー!!
というわけで、立ち去ろうとした綱五郎をお房ちゃんは引き止め、連れて行ってほしいと頼みます。
以前「墨色(すみいろ)を見てほしい」と頼まれた恋文があったと思うけど
あれは私が書いたものだ。どうしても読んで欲しかったのだ。
あれを読んだなら気持ちはわかってくれると思う。連れて行ってください
そんなかんじです。
「墨色を見る」というのは、
「花押(かおう)」というものがあり、絵的にデザインされた本人のサインみたいなものです。
つまり本人の名前を墨で書き、その色の部分的な薄い濃いなどから吉凶を占うものなのですが、
そう言って頼まれて渡された紙を広げてみたら、中身が「花押」ではなく恋文だったことがあったのです。
不思議に思ってはいたのです。そういうことだったのか!!
家に帰って結婚するのは嫌。連れて行ってくれないならここで死ぬ、と言われた綱五郎は
お房ちゃんを連れて逃げる決心をします。
お互いいいムードになったところに、後ろの垣根がメリメリ言って左五郎がやってきます。
あわてて隠れるふたり。
左五郎は「火縄」を振りながらやってきます。縄の先に火をつけてぐるぐる回すと遠心力でなかなか火が消えないのです。
暗闇でのちょっとした光源になります。
いまも京都市内でお正月に「若水くみ」に行くときにこれを振ると思います。
しかし、明かりを使って「卒塔婆」の文字を読んでしまったために間違ったお墓を開けてしまいます。
そっちは大福を持っている方だー。
しかも、左五兵衛が大事に持っている「気付け薬」は胡椒の粉です。
あとは、左五兵衛が死体に胡椒を飲ませたりくしゃみをしたり、裸になって死体をあたためたり、
お金が大福になっていて驚いたり、
そこに九郎兵衛がやってきてお互いが百両取ったと思って争ったりと
大騒ぎをします。
このへんはずっと暗闇だという設定です。
その間に綱五郎とお房ちゃんが逃げようとしますが、
お房ちゃんの衣装が真っ白なのでさすがに暗闇でも気づかれます。
このへんから「だんまり」の演出になっていきます。
「だんまり」については1幕目でざくっと説明書きましたが、
暗闇で複数人数が手探りで相手と争ったり何かを探したり奪い合ったりする、立ち回りの演出の一種です。
さわいでいる間に左五兵衛は自分の紙入れを落とします。
途中から人数が増え、お房ちゃんのお墓参りに来た結婚相手の「神原屋左五郎」と、間違ったほうのお墓の関係者の人が参戦します。
後の方の人は鳶(とび)の親方で、最初の幕に出た「お祭り左七(おまつり さしち)」の親分にあたるのですが、
ここではあまり関係ないのでスルーでいいです。出ないかもしれません。
お房ちゃんの片袖を九郎兵衛が持ち、
左五兵衛の紙入れを、神原屋左五郎が持ちます。
そう。左五兵衛の紙入れには毒薬に関する証文と、糸屋の「ゆずり状」が入っているのです。
これを「神原屋左五郎」が持ったことになります。
初演時の客の感覚ですと「神原屋左五郎」を團十郎がやっている時点で味方にきまっているので、
この時点で事件は大体解決しています。
あとは細かいゴタゴタが収束するのをながめるだけです。というかそのゴタゴタがおもしろいのですが。
この幕おわります。
4、5幕目は=こちらです。
1幕目は=こちら=です。
=50音索引に戻る=
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます