歌舞伎見物のお供

歌舞伎、文楽の諸作品の解説です。これ読んで見に行けば、どなたでも混乱なく見られる、はず、です。

三社祭 さんじゃ まつり

2010年11月26日 | 歌舞伎
三社祭は今は半天と褌とお兄さんたちとおみこしのお祭りですが、昔は大きい山車が出ました。
空中に電線がなかった時代です。
もともとはその山車人形が踊る、という趣向の踊りなのですが、現行上演その部分はカットです。
本当は「神宮皇后(じんぐうこうごう)」と「竹ノ内宿禰(たけのうちの すくね)」が踊り、
そこから衣装を引き抜いて漁師ふたりになります。

ここに「善」と「悪」という丸いものが降って来てふたりに取り付きます。
これは、江戸末期にはやった「心学」というのを舞台に取り入れたものなのです。
ちょっと「心学」の説明をします。

「心学」というのは、「心理学」ではなく、倫理学に近いです。ああでも心理学でもあります。
人間の意志を越えたところに「善の心」と「悪の心」というものが存在し、
これが人間の行動ををあやつっている、
というような考え方です。
「善の心」を常に持っていれば「悪」は入り込む隙はないというように思われていたようです。
ここに神仏の助けも入ったようです。

江戸でも非常にこれが流行ったので、踊りにも取り入れられました。
イメージとしては、マンガでよくある天使と悪魔が交互に主人公にささやく、あの感じが近いかと思います。
あれで心の動きを全て説明しようとしたのです。

というわけで「善」と「悪」とはそれぞれ取り付いたふたりは、元の人格を失い、「善」「悪」の権化となり、踊ります。

今はここで終わります。
動きのある踊りなのでそれを楽しめばいいと思います。

本当は、浅草が舞台ですから吉原が近く、この道を通る人々を「悪」がいろいろと誘惑するという
面白い場面がこのあとあります。
「善」が導いて吉原に行くのをやめるという展開が皆無なのがリアルです。

そのあと急に景色が変わり、お獅子が出てきて「連獅子」のようなかんじで踊ります。
昔のこういう展開はようするに、役者さんのいろいろな踊りを見せるのが目的なので、
とくに整合性はありません。ショーのようなものです。
今はお獅子の部分は絶対に出ないと思います。

そんなかんじです。

=50音索引に戻る=


最新の画像もっと見る

1 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (シャオツ)
2020-12-08 10:34:30
いつも拝読させております。

三社祭、時々通しで出ております。
初演通りかはよく分からないのですが、現在もお書きになられた筋で最後の石橋まで上演されます。
ネットで調べると何故か漁師の件以外は廃絶みたいな扱いですが、たぶん百科事典でそうなっているのが原因かと。
大変参考になる良いblogですのでご訂正下さると助かります。不躾に失礼をいたしました。
返信する

コメントを投稿