5)マルクス主義
敦子がアメリカへ行ってから、行雄は虚脱したような毎日を送っていた。 夏休みも終りに近づき、行雄は不承不承、学校の宿題を片づけるようになったが、その合間をみて向井の家に遊びに行ったり、自転車に乗って荒川べりにくつろぎに出かけたりした。
土手の草むらに寝転がって青空に浮かぶ雲を見ていると、その中から敦子の白い顔が幻となって現われてくる。 彼女は今頃、もうシカゴに着いているかも . . . 本文を読む
4)愛、そして別れ
敦子がアメリカへ出発する日も、あと数日に迫ってきた。 行雄が書いた詩は敦子を非常に感動させ、彼女はそれを大切にとっておくと言った。彼の熱烈で、ひたむきな思慕の情が敦子の心を打ったのだ。 彼女はお返しに、この前見せてくれた自分の新しい写真を十数枚も行雄にくれた。彼は敦子の写真を無性に欲しがっていたので、大喜びでそれらを受け取った。
敦子の写真は以前、長瀞で撮ったものなど十 . . . 本文を読む
3)「若草物語」
翌朝、行雄は遅い食事をすませると、すぐ敦子に電話をかけた。 「行雄ちゃん、昨日はどうしてあんなに不機嫌だったのですか? 私と一緒にいるのが嫌でしたら、正直にそう言って下さい。 私は貴方と一緒にいることが嬉しいんです。でも貴方が嫌でしたら、考え直さなくてはなりません」 敦子が不満をぶつけてきたが、それを聞いて逆に行雄は胸をなで下ろした。
「敦子ちゃん、ごめん。 昨日は本当に僕 . . . 本文を読む
2)長瀞
その日から行雄は、敦子の幻を朝から晩まで追い求める陶酔の日々を送るようになった。 おかしなもので、敦子への愛に焦がれる自分を知ってから、行雄は気楽に森戸の家へ行く気持になれなくなった。 今度彼女に会ったら何を話し何をしようかと、いろいろ思いあぐねるようになってしまった。
敦子が横浜港から船でアメリカへ出発するのは、三週間ほど後の八月中旬である。 それまでに自分の思いを告白して、一 . . . 本文を読む
〈前書き〉・・・この小説の時代背景は、1959年(昭和34年)から1964年(昭和39年)となっている。 当時、高校から大学にかけての私自身をモデルにした、自伝的小説である。小説である限り、勿論これはフィクションである。 第一部では恋と革命、第二部『青春の苦しみ』では欲情(リビドー)と煩悩がモチーフとなる。
第一部
1)恋の芽生え
敦子の白い二の腕が、月の光でおぼろに浮かび上が . . . 本文を読む