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新国立劇場事件 東京地判平成20年7月31日 その1

2012年04月01日 | 労働百選

新国立劇場事件 東京地判平成20年7月31日
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=37796&hanreiKbn=06
事件番号 平成18(行ウ)459
事件名 不当労働行為救済命令取消請求事件(通称 財団法人新国立劇場運営財団救済命令取消)
裁判年月日 平成20年07月31日
裁判所名 東京地方裁判所 
分野 労働
全文 http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20090707144152.pdf

主文
1 中央労働委員会が中労委平成17年(不再)第42号事件について平成1
8年6月7日付けでした再審査申立棄却命令を取り消す。
2 第2事件原告・第1事件参加人の請求を棄却する。
3 訴訟費用(参加費用を含む。)は、第1事件・第2事件を通じて、これを2
分し、その1を第1事件被告・第2事件被告の負担とし、その余を第2事件
原告・第1事件参加人の負担とする。

事実及び理由

第1 請求
1 第1事件(財団の請求)
主文第1項同旨
2 第2事件(ユニオンの請求)
中央労働委員会が中労委平成17年(不再)第41号事件について平成1
8年6月7日付けでした再審査申立棄却命令を取り消す。

第2 事案の概要
ユニオンは、財団が、①ユニオンの会員であるaを新国立劇場合唱団の契
約メンバーに合格させなかったこと、②ユニオンからaの次期シーズンの契
約に関する団体交渉を申し入れられたにもかかわらずこれに応じなかったこ
とが、いずれも不当労働行為であるとして、救済申立てをしたところ、東京
都労働委員会は、上記①については、不当労働行為に該当しないとしてその
申立てを棄却し、②については、不当労働行為に該当するとして、団体交渉
に応じるべきこと及びこれに関する文書の交付等を財団に対して命じた。ユ
ニオンは、申立棄却部分につき、財団は、救済を命じた部分につき、それぞ
れ再審査を申し立てたが、中央労働委員会は、双方の再審査申立てを棄却し
た。
本件は、財団(第1事件)とユニオン(第2事件)が、それぞれ中央労働
委員会の再審査申立棄却命令の取消しを求めた事案である。
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1 前提事実(争いがない事実又は後掲証拠及び弁論の全趣旨により容易に認
められる事実)
(1) ユニオンは、日本で活動する音楽家と音楽関連業務に携わる労働者の個
人加盟による職能別労働組合である。(乙44)
(2) 財団は、新国立劇場において現代舞台芸術の公演等を行うとともに、同
施設の管理運営を行っている財団法人であり、平成10年4月以降、年間
を通して、複数のオペラ公演を主催している。
(3) 財団は、毎年、主催するオペラに出演する新国立劇場合唱団のメンバー
をオーディションあるいは試聴会を開いて選抜し、合格者との間で、原則
として年間シーズンのすべての公演に出演可能である契約メンバーと、財
団がその都度指定する公演に出演可能である登録メンバーに分けて、出演
契約を締結している。
契約メンバーとの間の契約は、平成10年3月から平成11年6月まで
(1998/1999シーズン)は、各公演ごとの個別契約だけであった
が、平成11年8月以降(1999/2000シーズン以降)は、毎年、
期間を1年とする基本契約が締結された上、各公演ごとに個別公演出演契
約が締結されている。
(4) a(昭和▲年▲月▲日生まれ)は、ユニオンに加入している者であり、
平成10年3月以降、毎年の試聴会等に合格し、新国立劇場合唱団の契約
メンバーとなり(平成13年は当初不合格とされたが、交渉の後、契約メ
ンバーとなった。)、平成11年8月から平成15年7月まで、1年ごとの
各期間(1999/2000シーズンから2002/2003シーズンま
で)、基本契約を毎年締結した上、各公演ごとに個別公演出演契約を締結し、
公演に出演していた。
ところが、aは、財団から、平成15年2月20日、同年8月から始ま
るシーズン(2003/2004シーズン)について、試聴会の結果、契
約メンバーとしては不合格であると告知された(以下、財団がaを不合格
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としたことを「本件不合格措置」という。)。
(5) ユニオンは、平成15年3月4日、財団に対し、文書により、「aの次期
シーズンの契約について」を議題とする団体交渉申入れ(以下「本件団交
申入れ」という。)を行った。これに対し、財団は、同月7日、「a氏と当
財団との関係が雇用関係にないので、これを前提とする団体交渉申し入れ
は受諾出来ない」などと文書で回答した。(乙41、42)
(6) ユニオンは、平成15年5月6日、東京都労働委員会に対して、本件不
合格措置及び本件団交申入れに対する財団の対応が不当労働行為に当たる
として、本件不合格措置を撤回し、aを契約メンバーとして就労させるこ
と、本件団交申入れを拒否しないこと等を求めて、救済申立てをした。東
京都労働委員会は、平成17年5月10日付けで、本件団交申入れに対す
る財団の対応は不当労働行為に該当するが、本件不合格措置は不当労働行
為に該当しないとして、以下のとおり、命令を発した(以下「本件初審命
令」という。)。
「1 財団は、ユニオンが平成15年3月4日付けで申し入れた団体交渉を
ユニオン会員aと財団が雇用関係にないとの理由で拒否してはならな
い。
2 財団は、本命令書受領の日から1週間以内に、下記内容の文書をユ
ニオンに交付しなければならない。

年月日
ユニオン
代表運営委員b 殿
財団
理事長c
当財団が、平成15年3月4日付けで貴ユニオンの申し入れた団体
交渉を拒否したことは、不当労働行為であると東京都労働委員会で認
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定されました。
今後、このような行為を繰り返さないよう留意します。
(注:年月日は文書を交付した日を記載すること。)
3 財団は、前項を履行したときは、速やかに当委員会に文書で報告し
なければならない。
4 その余の申立てを棄却する。」
(7) ユニオンは、本件初審命令のうち、本件不合格措置を不当労働行為と認
めず救済申立てを棄却した部分(主文4項)を不服として、再審査を申し
立てた(平成17年(不再)第41号不当労働行為再審査申立事件)。
財団は、本件初審命令のうち、本件団交申入れに対する財団の対応を不
当労働行為であると認め救済を命じた部分(主文1ないし3項)を不服と
して、再審査を申し立てた(平成17年(不再)第42号不当労働行為再
審査申立事件)。
中央労働委員会は、上記各再審査申立事件を併合し、平成18年6月7
日付けで、本件初審命令と同様の理由により、財団及びユニオンの各再審
査申立てを棄却する旨の命令を発した。財団は同年8月1日、ユニオンは
同月7日、それぞれこの命令を受領した。
財団及びユニオンは、それぞれ再審査申立てが棄却された部分につき、
命令の取消しを求めて、各訴えを提起した。
2 争点
(1) aは労働組合法(以下「労組法」という。)上の労働者であるか。(第1
事件・第2事件)
(2) 本件団交申入れに応じないとした財団の対応は、労組法7条2号の不当
労働行為に該当するか(本件団交申入れにかかる事項は義務的団交事項か、
財団の対応に正当な理由があるか。)。(第1事件)
(3) 本件不合格措置はaがユニオンの会員であることを理由とする不利益取
扱い(労組法7条1号)に該当するか。(第2事件)
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3 争点に対する当事者の主張
(1) aは労組法上の労働者であるか(争点(1))
(財団)
労組法上の労働者、使用者は、それぞれ労働契約関係を元に成立した労
使関係の一方当事者であることを要する。以下の諸要素を総合的に検討す
ると、財団とaとの間にそのような関係は認められないから、aは労組法
上の労働者に当たらない。
ア契約の方式、方法
財団と契約メンバーは、シーズンの開始に当たり、年間スケジュール
を示す出演公演一覧が添付された基本契約を締結しているが、それによ
り出演公演一覧の演目について法的な出演義務が生じるものではなく、
出演義務は個別公演出演契約を締結して初めて生じる。基本契約と個別
公演出演契約という二段階の契約方式の採用は、大部の個別公演出演契
約書を作成する煩雑さを避けて作成事務を合理化したものに過ぎない。
イ契約メンバーの業務内容の決定
歌唱技能を提供する態様、実施方法、年間の個別公演の件数、演目を
財団が一方的に決することは、合唱団員と外部芸術家と異ならないから、
aの労働者性を肯定する要素とはなりえない。
ウ報酬に関する算定基準や方法の決定及び計算
財団によって報酬等が決定されることは、請負や委任といった非労働
契約においても同様であるから、財団の使用者性、aの労働者性を肯定
する要素ではない。
エ出演諾否の自由の有無
基本契約の締結によって個別の公演出演が義務となるものではない。
契約メンバーが、基本契約締結後、出産、育児等の理由以外の理由で
個別公演契約締結を断る事例は毎年5ないし7あるが、これらの個別公
演契約締結を断った者が翌シーズンの契約メンバー選抜において不利益
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を被った事実はない。契約メンバーが個別公演に出演するに当たり、両
当事者は、契約メンバーの個別公演への出演を確定し、当該個別公演の
出演業務の内容及び出演条件等を定めるため「個別公演出演契約」を締
結するという基本契約の文言からも、基本契約の締結により個別公演出
演契約の締結が法的義務となるものではないことは明らかである。
オ指揮監督関係の有無、程度
契約メンバーが公演と稽古について時間的場所的に拘束を受けている
ことは、そもそもオペラ公演というものが多人数の演奏・歌唱・演舞等
により構築される集団的舞台芸術であり、オペラ合唱団の一翼を担うと
いう契約メンバーの業務の特性から必然的に生じるものであるから、労
働者性の判断指標とならない。稽古に欠席、遅刻等をすれば報酬を減額
されることは外部芸術家においても変わらない。個々の歌唱について細
かな指示はなく、契約メンバー各人に大きな裁量がある。
カ専属的拘束性
契約メンバーが、財団が主催する公演以外の公演に出演したり、教室
を運営して生徒に教えたりすることは自由であり、音楽家としての活動
は禁止されていない。個別公演出演契約を締結すると、公演や稽古への
参加が義務付けられるが、多くは1日3時間程度の拘束時間に過ぎず、
平成15年2月など月に3日間しか拘束されない月もあった。
キ報酬の労務対価性
契約メンバーの業務の中核は、公演本番に出演して歌唱を行うことで
あり、稽古への参加はその業務遂行のための従たるものに過ぎない。2
000/2001シーズンまで、本番出演料及びGP(本番前の最終リ
ハーサル)稽古手当は拘束時間と無関係に1回当たりの定額、音楽稽古
/立ち稽古の稽古手当は1コマないし10コマが一律5万円と定められ
ており、拘束時間との対応性は強くなかった。2001/2002シー
ズンからは報酬が本番出演料に一本化され、拘束時間との関係性は絶た
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れた。報酬全体として労務対価性を肯定することはできない。
(被告)
アaは、契約メンバーであった当時、財団と契約を締結して公演等にお
いて歌唱技能を提供し、財団の決定及び計算による報酬を受けており、
自己の計算において事業を営んでいたとはいえないから、その労組法上
の労働者性は明らかである。
イもっとも、本件は、aが労組法の労働者であることに加え、さらに財
団との関係でも労組法により保護されるべき労働者といえるか、即ち、
aと財団との間に労組法上の保護を及ぼすべき関係があり、財団が労組
法上又は不当労働行為制度上の使用者であるかが検討されなければなら
ない。その判断のためには、契約内容を形式的にみるだけではなく、当
時のaと財団との関係にみられる諸種の事実を多面的に取り上げて総合
的な判断を行う必要がある。
aら契約メンバーは、財団による個別公演出演の発注に対して諾否の
自由が制約されており、特段の事情がない限り当然に応諾するものとみ
なされて、財団による個別公演に不可欠の人員とされ、財団が一方的に
指定した契約内容に基づいて、年間を通じて財団の指揮監督の下、演目
のほか公演や稽古の日時場所等についても財団の指示に従って歌唱技能
を提供し、その役務の対価としての報酬を受けていたものと認められる
から、aと財団との間には労働契約ないしこれに類する関係があり、a
は財団との関係でも団体交渉により保護されるべき労働者である反面、
財団は労組法上の使用者たる地位を有するものと認められる。
ウ契約メンバーは、財団が一方的に指定した契約内容に基づいて、年間
を通じて財団の指揮監督の下、歌唱技能を提供し、その対価として報酬
を受け、これを主な収入源として生計を維持していたのであって、この
ような実態に照らせば、契約メンバーが財団との団体交渉すら許されな
いとの結論は余りに不当である。
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(ユニオン)
労組法3条は、労働基準法9条とは異なり、労働者の定義に「使用され
る者」という文言を用いていない。労組法上の労働者についても、講学上
は使用従属関係にある者をいうとされているが、「賃金、給料その他これに
準ずる収入によつて生活する者」である点が重要な指標である。したがっ
て、労組法上の労働者性は、使用従属関係を基本としながらも、団体交渉
の保護を及ぼす必要性と適切性が認められる場合には肯定される。その判
断基準は、①仕事の依頼についての諾否の自由、②業務上の指揮命令関係
及び場所的・時間的拘束性、③報酬の労務対償性の3つである。aと財団
との間には、基本契約の締結により、以下のとおり、労働契約ないしこれ
に類似する関係があるから、aは財団との関係でも団体交渉により保護さ
れるべき労働者である。
ア仕事の依頼についての諾否の自由
契約メンバーは、年間公演スケジュールを示されて、これに出演可能
であることが条件とされて基本契約を締結し、基本契約により、当該シ
ーズンにおいて財団が主催又は共催する公演等において出演業務を遂行
すべき義務を負っていた。契約メンバーは、財団が興行として実施する
個別公演に不可欠の人員とされており、個別公演出演の発注に対して当
然に応諾するものとみなされ、個別公演の出演をしない場合には、基本
契約の再締結がされず、ただ、子育て等やむを得ない事情によるときは
個別公演出演契約を締結しなくても、それだけで契約違反としないとい
う取扱いがされていたに過ぎない。基本契約には、虚偽の事実を告げた
場合の契約解除や損害賠償に関する条項が新設されるなど、個別公演出
演の義務は強化されている。実際にも、契約メンバーが個別公演に出演
しなかった割合は著しく低い。
イ業務上の指揮命令関係及び場所的・時間的拘束性
年間の個別公演の件数、演目、各公演の日程と日数、これに要する稽
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古の日数やその時間割、その演目の合唱団の構成、合唱団員がいかなる
態様で歌唱技能を提供するかは、財団がその判断に基づいて一方的に決
定し、契約メンバーは、その決定に従って、公演及び稽古に参加する義
務を負い、指揮者や音楽監督の演出に従って歌唱技能を提供するという
関係にあった。契約メンバーは、公演と稽古を合わせると、年間230
日前後も新国立劇場に出勤していた。このように契約メンバーは財団か
らの指揮命令を受けている以上、公演と稽古以外の時間に、他の公演に
出演したり、個人的に生徒をとって教えたりしていても、その労働者性
が失われるものではない。
ウ報酬の労務対償性
契約メンバーは、出演した公演の時間及び稽古に参加した時間・実績
に応じて報酬が計算され、稽古が超過した場合には超過手当が支払われ
ていたから、労務の提供に対する報酬を受けていたといえる。
( ) 本件団交申入れに応じな2 いとした財団の対応は不当労働行為か(争点
(2))
(財団)
aは労組法上の労働者ではなく、財団も団体交渉応諾義務を負う労組法
上の使用者に当たらないから、本件団交申入れに対する財団の対応は、労
組法7条2号の不当労働行為に当たらない。
仮に、aが労組法上の労働者であり、財団が労組法上の使用者であると
しても、既に試聴会が実施されてaの不合格は決定し、次期シーズンの処
遇は確定しており、財団としては、ユニオンとの交渉により契約の締結や
役務提供の条件等を改めて決定する余地はないから、aの次期シーズンの
契約に関する本件団交申入れに応じる義務はない。
本件の救済命令は、本件団交申入れにかかる事項に、試聴会の在り方、
審査方法や合否判定等の契約締結のための手続事項を含みうるとして、こ
れが義務的団交事項であるとするが、「aの次期シーズンの契約について」
- 10 -
との文言から到底そのような趣旨を読み取ることはできない。
(被告)
財団は、aとの関係で、労組法上の使用者たる地位を有するものと認め
られるから、aが構成員たる労働組合であるユニオンが義務的団交事項を
議題とする団体交渉を申し入れた場合には、合理的な理由がない限りこれ
を拒否することができない。
aとの間で次期シーズン(2003/2004シーズン)の契約が締結
されなかったこと自体は不当労働行為とは認められない本件の具体的事情
及び次期契約締結の当否は試聴会の合否にかかっているという財団独自の
制度の下では、既に実施済みの試聴会の結果を受けたaの次期シーズン契
約の不締結は確定的事項であって団体交渉の結果により変更すべきもので
はないから、当該事項は義務的団交事項ではないが、当時の財団とユニオ
ンの協議状況等を勘案すると、本件団交申入れは、試聴会の実施方法、す
なわち審査方法や合否判定の手法等、労働者たるaの処遇ないし契約条件
に関わる多岐の事項を含むものと解釈できるところ、これらについては財
団が団交応諾義務を負うから、本件団交申入れに対し、aが雇用関係にな
いとの理由で財団が行った団体交渉拒否は、不当労働行為に当たる。
(ユニオン)
aの労組法上の労働者性は明らかであり、これを否定し団体交渉を拒否
することは正当の理由のない団体交渉拒否である。
財団は、ユニオンから本件団交申入れの際に説明を受け、aの今後の処
遇を含めた解決条件が交渉のテーマになること、従前から協議していた試
聴会の在り方や審査方法も交渉の内容になることを認識していたから、本
件団交申入れについて応諾義務を負う。また、aの試聴会不合格は不利益
取扱いであったから、財団は、本件不合格措置の撤回と次期シーズンの契
約自体についても団交応諾義務はあった。
(3) 本件不合格措置は不利益取扱いに該当するか(争点(3))
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(ユニオン)
財団は、基本契約について、更新しがたい特別な理由があると認められ
る場合以外は当然に更新する方針を採っている。aについて更新しがたい
特別な理由はなかった。
財団は、試聴会の結果aを不合格としたが、その審査方法は、審査項目
も基準もなく、2人の審査員の感性に任せた著しく不合理なものであった。
aは、ユニオンの会員として積極的に組合活動を行い、オペラ合唱団員の
処遇上の問題点、新国立劇場合唱団への批判、とりわけ試聴会の問題点を
指摘していた。財団の合唱指揮者の発言から、財団がユニオンを嫌悪し、
その会員の排除を意図していたことは明らかである。
aは、二期会時代から約20年間オペラ合唱団員として、50作品以上
のオペラに出演し、新国立劇場合唱団においても3シーズンにわたりパー
トリーダーを務め、推薦を受けてウィーン国立劇場へ留学するなど、オペ
ラ合唱団員としての演奏能力は十分で、試聴会で不合格とされるようなも
のではなかった。aを試聴会で不合格とし、2003/2004シーズン
の基本契約を締結しなかった財団の行為は、恣意的で不当な目的によりa
を排除した結果であり、aがユニオンの会員であることを理由とする不利
益取扱いである。
(被告)
契約書の文言、試聴会の実施状況と契約締結の実態に照らしても、基本
契約は試聴会の審査結果を踏まえてシーズンごとに再締結が繰り返されて
いたものであり、更新が原則であったとの事実は認められない。
試聴会は、審査員の主観による判断を広く認め、審査方法の統一はされ
ていなかったが、審査結果自体に明らかな矛盾はなく、本件不合格措置が
審査員の恣意によりユニオンを排除する目的で行われたとも認められない。
(財団)
仮に、aが労組法上の労働者であるとしても、本件不合格措置は不当労
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働行為に当たらない。基本契約は、シーズン毎の試聴会による厳格な技能
審査に合格した場合に締結されるものであって、更新が予定されているも
のではない。財団は契約メンバーとなった者を定期的に総入替えすること
も考えていないが、終身的に固定化することも考えていない。財団が、舞
台芸術の発展・振興に寄与するというその設置理念の実現のため、試聴会
による審査システムを採用したこと、その審査方法及び審査基準について
審査員の芸術家としての感性に任せることにはいずれも合理性がある。2
003/2004シーズンの試聴会における審査員2人のaに対する評価
結果は、いずれも明らかな不合格レベルではないが、相対的な評価の中で
契約メンバーに残るだけのものを備えていないというものであり、齟齬は
なかった。aがユニオンの会員であることを理由とする不合格措置ではな
い。