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日本アイ・ビー・エム(組合員資格)事件 東京高判平成17年2月24日 全文2/2

2012年03月31日 | 労働百選

第3 当裁判所の判断
1 X1ら3 名の利益代表者性について
X1 ら3 名はいずれも労働組合法2 条ただし書1 号の利益代表者に該当しないというべ
きである。その理由は,原判決事実及び理由の「第3 争点に対する判断」の1 項に記載の
とおりであるから,これを引用する(ただし,原判決25 頁2 行目の「X1 は,」を「X2 は,」
に改める。)。
参加人は,仮にX1 ら3 名がこれまでかかる地位に基づいて,現実にライン専門職の人
事権行使を助言等したり,人事上の機密事項に接したことがなかったとしても,それはX1
ら3 名が置かれている地位を否定するものではない旨主張する。しかし,X1 ら3 名が現
実にライン専門職の人事権行使を助言等したり,人事上の機密事項に接したことがなかっ
たというだけでなく,参加人においては,X1 ら3 名が置かれているスタッフ専門職とし
ての地位そのものが,直接には人事評価を行ったり,人事情報等に接することができない
ものであり,X1 ら3 名が使用者の利益を代表する者に該当するということはできない。
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2 本件条項の効力について
(1)当裁判所が認定した事実は,次のとおり付加訂正するほか,原判決事実及び理由の「第3
争点に対する判断」の2 項(1)に記載のとおりであるから,これを引用する。
ア原判決29 頁10 行目の末尾に「当時被控訴人支部の中央執行委員は全員一般職であっ
た。」を加え,同頁11 行目の「(乙1 の1 ないし3)」を「(乙1 の1 ないし3,乙227)」
に改める。
イ同30 頁17 行目及び18 行目を「参加人が明らかにした参加人の社員についてのデー
タによって,昭和57 年12 月当時と平成4 年12 月当時を比較すると,全社員数は1 万3327
人から2 万5032 人へ約1.8 倍に,一般職・主任の数は1 万0497 人から1 万8479 人へ約
1.7 倍に,ライン専門職の数は1481 人から3001 人へ約2.0 倍に,全社員数に占めるライ
ン専門職の割合は11.1%から12.0%へ0.9%増に,専任以上のスタッフ専門職の数は1349
人から3552 人へ約2.6 倍に,全社員数に占める専任以上のスタッフ専門職の割合は10.1%
から14.2%へ4.1%増になっている(丙4)。(ライン専門職やスタッフ専門職の各階層毎の
内訳を明らかにする証拠は提出されていない。)」に改める。
ウ同36 頁21 行目の末尾に「そして,X3 が,ストライキに招集されておらず通常勤務
の予定である旨答えたところ,Y3 はそれ以上の言動をしなかった。」を加える。
(2)本件条項の法的性質について
ア本件確認書(原判決別紙5)(省略)は,使用者である参加人と労働組合である被控訴
人支部が労働条件その他に関して合意し,書面を作成して署名押印したものであるから,
労組法14 条の労働協約に該当する。また,その有効期間についての定めはされていない。
そして,前記認定の事実(原判決引用)によれば,本件確認書は,参加人が導入した新人事
制度の下で,中労委和解成立以降の労使関係の安定化を図るために,協議の結果合意に至
った事項を確認したものということができる。
イ本件条項は,「ライン専門職および専任×××部員以上のスタッフ専門職は非組合員
とする。」と定め,1 項全体からみてもその適用範囲について特別の限定はされておらず,
また,前記認定(原判決引用)の本件条項が設けられた経緯からみても,単に労働協約の適
用を受けるべき人的範囲を画したものと解することはできず,非組合員の範囲そのものに
ついて労使が合意したものというべきである。
ウところで,使用者の利益代表者の範囲は,企業の規模や組織,その中の特定の地位に
ある者の職務権限等によって千差万別であるから,各企業の実態を離れて一律,一義的に
これを定めることは困難である。したがって,各企業において,各企業の実態に即して労
使が労働協約をもって組合員となる資格を有しない使用者の利益代表者の範囲を具体的に
合意することは,組合員となる資格を有しない者の範囲をめぐる労使間の紛争を防止する
ものであり,意味のあることといえる。労働組合はその自主的判断に基づき組合員の範囲
を決定することができるのであるから,その判断に基づいで使用者との間で労働協約をも
って非組合員の範囲を定めることは,何ら妨げられるものではない。また,使用者にとっ
ても,非組合員の範囲は人事制度や労務管理にかかわることであり,これを定めるについ
て一定の利益を有していることは否定できない。
したがって,非組合員の範囲について労働協約が結結された以上,労使の合意として効
力を有するものである。
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しかし,使用者の利益代表者の範囲は,現実にはその判別が困難を伴うとしても,各企
業の実態に即して客観的に定まるものであって,労使の合意によって左右されるものでは
ない。しかも,組合員となる資格を有しない者の範囲の裏返しである組合員となる資格を
有する者の範囲は,本来,組合の自主的判断に委ねられるべきものであり,しかも,非組
合員の範囲を広いものとするか狭いものとするかは,組合員となり得る者の多少,組合員
のままで昇進したり就くことのできる職種の範囲に直接関係し,組合活動に及ぼす影響は
大きいものである。労働協約中の非組合員の範囲を定める条項の効力を考えるに当たって
は,このような事情は充分考慮すべきである。
(3)本件一部解約の効力
ア使用者と組合との間で,いったん労働協約が締結された場合であっても,労働協約の
解約の要件(労組法15 条3 項前段,4 項)を満たす場合には,一方当事者において,これ
を有効に解約をすることができる。
ところで,本件確認書の1 項は組合員の範囲に関するもの,2 項,及び3 項は組合員の
就業時間中の組合活動に関するもの,4 項は組合員の昇進問題の解決方法に関するもので
あり,一つの労働協約において複数の事項が協定されている。このような場合,各合意事
項は相互に関連を有し,又はある事項についての一方の譲歩と他の事項についての他方の
譲歩により全体の合意が成立するなど,労働協約全体が一体をなすものとして成立するの
が通例であるから,一方当事者が自己に不利な一部の条項のみを取り出して解約すること
は原則として許されないと解すべきである。ただ,その条項の労働協約の中での独立性の
程度,その条項が定める事項の性質をも考慮したとき,契約締結後の予期せぬ事情変更に
よりその条項を維持することができなくなり,又はこれを維持させることが客観的に著し
く妥当性を欠くに至っているか否か,その合意解約のための十分な交渉を経たが相手方の
同意が得られず,しかも協約全体の解約よりも労使関係上穏当な手段であるか否かを総合
的に考え合わせて,例外的に協約の一部の解約が許される場合があるとするのが相当であ
る。
イこれを本件について見ると,次のとおりである。
本件確認書は,全体としては,新人事制度下において中労委和解成立以降の労使関係の
安定化を図るために,協議の結果合意に至った事項を確認するものであるところ,1 項イ
と2 項は,スタッフ専門職である主任に組合員資格があることを確認した上で,その就業
時間内組合活動について一定の枠組みを定めるものであるから,相互に関連性を有するも
のである。
そして,ライン専門職および専任以上のスタッフ専門職を非組合員とする1 項ロの条項
(本件条項)は,組合員となり得る者の範囲を画するという点では同項イと関連性を有する
ものの,その部分のみの効力が失われ,協定が存在しない状態となっても,1 項イ及び2
項の効力に直接影響を及ぼすものではないから,独立性を有する条項と認めることができ
る。また,3 項及び4 項は,本件条項と直接関連するものではない。
もっとも,本件条項を含む本件確認書は,昭和57 年12 月に,それまで被控訴人支部等
と参加人との間で争われてきた複数の不当労働行為救済命令申立事件を全面的に解決する
ものとして成立した中労委和解,この和解成立と同日に被控訴人支部等と参加人との間で
作成された覚書と同日付けで作成されたものであり,覚書の3 項で「組合員の範囲および
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中央執行委員の就業時間中の組合活動に関する取扱い等については,会社,組合で別途協
議するものとする。」と定めたのを受けたものである。そして,覚書は,中労委和解で,
参加人は組合員38 名の内一定の人員を一定期間内に専門職への昇進の措置をとるものと
するとされたのを受けて,その職位を主任×××部員とすることなどの具体的措置や実施
の時期を具体的に定めた1 項,専門職に昇進した者の職務に臨む態度について定めた2 項,
前記3 項,中労委和解で参加人が被控訴人支部に支払うものとされた解決金金一封の金額
を具体的に定めると共に,関係者はその金額を公表しないことを定めた4 項からなってい
る。これらの事実によれば,本件確認書は,中労委和解及び覚書の内容と実質的に関連し
ていることは明らかであり,本件条項を含む本件確認書が合意に至ることを前提として,
参加人が一定数の組合員の専門職への昇進や解決金支払の合意に応ずる関係にあったもの
と推認される。
他方,本件確認書が締結された後約10 年を経る間,参加人が導入した組織機構再編成
によりライン専門職のポストが減少し,その反面として,必ずしもそのすべてが労組法2
条ただし書1 号の利益代表者に該当するとは認められない専任以上のスタッフ専門職はそ
の実数でも全社員に対する比率でも大きく増加しており,これは同時に,ファーストライ
ンに所属する専任の増加,ひいてはその現実の職責において主任と大差のない専任の増加
を容易に推認させるものである。そのような状況下においては,組合員資格を一般職及び
スタッフ専門職のうちの主任のみにとどめることの妥当性,合理性は一層低下している。
また,被控訴人支部においては,この間,組合員の半数近くが主任に昇進しており,本件
条項を前提とすると,これらの者が専任に昇進すると組合員資格を失うこととなる。これ
を被控訴人支部の側から見れば,組合員が被控訴人支部にとどまる限り,専任及びこれと
対応関係にある職群III への昇進ないし昇格は断念せざるを得ず,当然これに伴う労働条
件の向上も果たせないこととなって,労働組合としての組織維持に影響を及ぼしかねない
事態といえる。このような事態は,本件確認書締結の時点で,被控訴人支部としてもある
程度は予測可能であり,組織維持は一般職からの加入により果たすべきものともいえ,い
わゆる事情変更とは異なる側面を有する。しかし,先に述べたとおり,組合員の範囲をど
のように定めるかという問題について使用者側にも一定の利益はあるとはいえ,本来労働
組合が自主的に定めるべきものであること,加えて,本件条項を含む本件確認書の協定に
より,労使関係の安定という労使双方の意図は約10 年にわたって一応実現されたと考え
られること,以上を勘案すれば,本件確認書締結後,約10 年を経過してもなお,被控訴
人支部が本件条項を解約することを認めないとするのは,著しく妥当性を欠くといわなけ
ればならない。
さらに,本件一部解約に至る経緯をみると,前記引用の原判決事実及び理由の「第3 争
点に対する判断」の2 項(1)エに認定したとおり,被控訴人が平成3 年7 月以降本件条項
の見直しを求めて参加人に協議を申し入れたのに対し,参加人は,表現に多少の違いはあ
るにせよ,一貫して見直しはあり得ないとの態度を取っており,本件一部解約の前後を通
じて,実質的な協議に応じていないこと,被控訴人支部は,そのような状況下のままいた
ずらに時間が経過するという事態を打開するため,やむなく本件一部解約の予告に至った
ことが認められる。なるほど,本件確認書3 項の一般職組合員の時間内組合活動の正常化
問題に対する被控訴人支部の対応は,必ずしも誠実であったとはいえないが,前記認定の
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経過をみると,被控訴人支部が年間300 時間という対案を提案したこともあり,参加人の
提案する年間200 時間との間に隔たりがあったとはいえ,被控訴人支部としても並行して
この問題を協議することを拒否していたわけではなく,本件条項に関する協議が進まなか
った理由は,主として参加人側の強硬な態度にあったことは否めない。
また,労使関係に与える影響を考えれば,本件条項のみを白紙に戻す一部解約が協約全
体の解約より穏当な手段といえる。
ウ以上,イで摘記した事実関係に基づいて総合的に勘案すれば,本件確認書がその成立
の経緯からすると中労委和解や覚書と密接に関連するものであり,参加入が中労委和解及
び覚書で自らが行うべきものとされた事項を全て履行したことを考慮しても,なお,本件
一部解約が信義に反し,あるいは権利の濫用にあたるということはできず,本件条項は,
本件一部解約予告から90 日を経過した平成4 年8 月25 日に有効に解約されたというべき
である。
3 参加人の不当労働行為について
(1)労組法7 条3 号にいう支配介入の不当労働行為が成立するためには,使用者側に主観
的要件すなわち不当労働行為意思が存することを要するというべきであるが,この不当労
働行為意思とは,直接に組合弱体化ないし具体的反組合的行為に向けられた積極的意図で
あることを要せず,その行為が客観的に組合弱体化ないし反組合的な結果を生じ,又は生
じるおそれがあることの認識,認容があれば足りると解すべきである。そして,不当労働
行為に該当するか否かは,その行為自体の内容,程度,時期のみではなく,問題となる行
為が発生する前後の労使関係の実情,使用者,行為者,組合,労働者の認識等を総合して
判断すべきものである。
(2)本件行為②は,被控訴人支部の藤沢分会が,平成8 年7 月18 日付け書面でX1 を含む12
名の同分会役員就任を通知したところ,同日,参加人が藤沢分会に対し,藤沢事業所のY1
所長名で,X1 は専任部員であるため本件条項に基づき組合員資格がなく,分会執行委員
就任はあり得ないため「同氏の執行委員就任を直ちに撤回し,名簿を訂正することを求め
ます。」と記載した文書を発したものであり,前年7 月にも藤沢分会と参加人との間で同
様のやりとりがされたほか,X1 が組合役員として記載されている役員名簿の受領を拒否
し,X1 の上司が藤沢分会とX1 に対し,今後組合活動を行った場合は私的な職務外行為
とみなす旨強く注意するというような経緯の中で行われたものである。Y1 所長が本件行
為②の行為を行ったのは参加人の,本件確認書が締結された経緯に照らし本件条項のみの
一部解約は許されないとの従来からの見解に基づくものであることは藤沢分会やX1 にと
っても明らかであったものであり,本件条項の一部解約を主張する被控訴人支部とこれを
否定する参加人の意見が鋭く対立していた状況の中では,本件行為②は,本件条項の一部
解約を否定する参加人の意見を敷衍したにすぎないものと見ることができる。
また,本件行為③は,X2 の上司であったY2 が,X2 が関連会社であるGBS の非常勤
監査役の辞任を申し出ると共に被控訴人支部に加入したことを伝える書簡を同社の社長に
出したので,平成8 年1 月30 日付けの文書でX2 に対し辞任届の撤回を求めたが,この
文書には,非常勤監査役の職務をY2 に事前の相談なく独断で退任する手続を行うことは
重大な業務命令違反に該当するので,事の重大性を十分認識して対処すべきであるとした
上,職群Ⅱの上級管理者であるX2 は組合員にはなリ得ず,X2 が「使用者の利益を代表
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する上級管理者としての職務と責任に反するような活動を行った場合は,相応の処分を行
わざるを得ない。」旨の記載があったことと,X3 の被控訴人支部加入を知ったX3 の上司
であるY3 が,平成8 年2 月16 日,X3 に対し当日午後予定されていた被控訴人支部によ
るストライキへの参加の有無を尋ねた上,「管理職であるあなたには組合員の資格がな
い。」,「ストライキに参加すれば処分の対象になり得る。」などと口頭で通告したことで
ある。このうち,Y2 のX2 宛の文書は,GBS の非常勤監査役の辞任届の撤回を求めると
共に,上司に相談なく関連会社の非常勤監査役を退任する手続をしたことは重大な業務命
令違反であると警告することに重点があり,X2 には組合員資格がない旨や組合活動を指
すと解される「使用者の利益を代表する上級管理者としての職務と責任に反するような活
動」を行つた場合は,相応の処分を行わざるを得ない旨記載したのは,非常勤監査役の辞
任を申し出たX2 の書簡に被控訴人支部に加入した旨の記載があったことから,本件条項
に基づく組合員資格についての参加人の認識を表明したものと解され,Y3 のX3 に対す
る口頭の通告も,X3 がストライキに招集されていないことを答えるとY3 はそれ以上の
言動をしていないことからすれば,本件条項に基づく組合員資格についての参加人の認識
を表明したものと解され,本件行為③はいずれも,本件条項の一部解約を主張する被控訴
人支部とこれを否定する参加人の意見が鋭く対立していた状況の中で,本件条項の一部解
約を否定する参加人の意見を敷衍したにすぎないものと見るのが相当である。
そして,前記のとおり,当裁判所は本件一部解約は有効であると判断するもので,客観
的には本件条項は,本件一部解約から90 日を経過した平成4 年8 月25 日には効力を失っ
たのであるが,中労委和解に基づき覚書と本件条項を含む本件確認書が締結されるに至っ
た経緯,中労委和解及び覚書の内容と本件確認書は実質的に関連しており,本件条項を含
む本件確認書が合意に至ることを前提として,参加人が一定数の組合員の専門職への昇進
や解決金支払いの合意に応ずる関係にあったこと,参加人は,中労委和解や覚書で自らが
行うべきものとされた事項は全て履行しているのに,被控訴人支部は本件確認書3 項に定
められた一般職の組合員が中央執行委員として就業時間中組合活動する場合の取り扱いに
ついての協議に誠実に応じていないと感じている上に,被控訴人支部が本件条項のみの一
部解約を主張するのは不公正であると考えていたこと,労働協約の一部である組合員の範
囲を限定する条項のみの解約が認められるか否か,認められるとするとその要件は何かに
ついては最高裁判所の判例もなく,通説というまでの地位を占める学説もなかった状況の
下では,法律専門家にとっても,本件条項のみの一部解約が有効とされるかどうかの判断
は微妙であることを考えると,本件行為②,③の当時,参加人が本件条項の一部解約は認
められないと考えるのも無理からぬ事情があったというべきであるから,本件行為②,③
の当時,参加人が本件条項が有効で,専任以上のスタッフ専門職には組合員資格がないと
考えその自己の考えを意見を表明したり敷衍して説明したりすることを支配介入による不
当労働行為意思の表れと見るのは相当でない。
以上を総合すれば,本件行為②,③を支配介入による不当労働行為と認めるのは相当で
ない。
(3)次に本件行為①について検討する。
チェックオフは参加人による被控訴人支部に対する便宜供与であるところ,参加人と被
控訴人支部との間にチェックオフ協定が存していることが窺われものの,その内容,効力
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を明らかにする証拠はなく,被控訴人支部の組合員についてチェックオフが参加人におい
てどのような取扱いがされていたかはこれを認定するに足りる十分な証拠がない。本件行
為①は,X1 ら3 名についてこれまで実施していたチェックオフを中止したものではなく,
X1 ら3 名についてそれぞれ新たにチェックオフを開始することを求める申請を,X1 ら3
名はいずれも組合員ではないとして,拒否したものである。ところで,当時の被控訴人支
部の組合員約150 名中約20 名についてはチェックオフが実施されずに被控訴人支部が直
接組合費を徴収していたことが認められ,組合員であることとチェックオフ実施の関係は
明確でないのみか,X1 ら3 名について新たにチェックオフを開始することを拒否するこ
とが,被控訴人支部の活動に及ぼす悪影響はほとんどないものと推認される。このような,
被控訴人支部と参加人との間のチェックオフの実情に,前記のとおり本件条項のみの解約
は許されないと参加人が考えるのも無理からぬ事情があり,参加人がX1 ら3 名が組合員
であることに疑義を抱いていたことにはそれなりの理由があることをあわせ考えると,参
加人がX1 ら3 名にチェックオフという便宜供与を拒んだからといって,これが支配介入
による不当労働行為に該当するということはできないというべきである。
4 結論
以上のとおり本件各行為はいずれも不当労働行為である支配介入に当たらないから,本
件各行為について不当労働行為の救済を求める請求を棄却した控訴人の本件命令は正当で
あり,本件命令を取り消した原判決は誤りであるので,原判決を取り消し,本件請求をい
ずれも棄却することととして,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第14 民事部