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小田急高架本案最判平成18年11月2日

2012年03月27日 | 労働百選

小田急本案
http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?hanreiid=33756&hanreiKbn=02
事件番号 平成16(行ヒ)114
事件名 小田急線連続立体交差事業認可処分取消,事業認可処分取消請求事件
裁判年月日 平成18年11月02日
法廷名 最高裁判所第一小法廷
裁判種別 判決
結果 棄却
判例集等巻・号・頁 民集 第60巻9号3249頁
原審裁判所名 東京高等裁判所
原審事件番号 平成13(行コ)234
原審裁判年月日 平成15年12月18日
判示事項 
都知事が行った都市高速鉄道に係る都市計画の変更が鉄道の構造として高架式を採用した点において裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとして違法であるとはいえないとされた事例
裁判要旨 
都知事が都市高速鉄道に係る都市計画の変更を行うに際し鉄道の構造として高架式を採用した場合において,(1)都知事が,建設省の定めた連続立体交差事業調査要綱に基づく調査の結果を踏まえ,上記鉄道の構造について,高架式,高架式と地下式の併用,地下式の三つの方式を想定して事業費等の比較検討をした結果,高架式が優れていると評価し,周辺地域の環境に与える影響の点でも特段問題がないと判断したものであること,(2)上記の判断が,東京都環境影響評価条例(昭和55年東京都条例第96号。平成10年東京都条例第107号による改正前のもの)23条所定の環境影響評価書の内容に十分配慮し,環境の保全について適切な配慮をしたものであり,公害対策基本法19条に基づく公害防止計画にも適合するものであって,鉄道騒音に対して十分な考慮を欠くものであったとはいえないこと,(3)上記の比較検討において,取得済みの用地の取得費等を考慮せずに事業費を算定したことは,今後必要となる支出額を予測するものとして合理性を有するものであることなど判示の事情の下では,上記の都市計画の変更が鉄道の構造として高架式を採用した点において裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとして違法であるということはできない。
参照法条 都市計画法(平成4年法律第82号による改正前のもの)13条1項,都市計画法(平成4年法律第82号による改正前のもの)21条2項,都市計画法(平成11年法律第87号による改正前のもの)18条1項,公害対策基本法19条,東京都環境影響評価条例(昭和55年東京都条例第96号。平成10年東京都条例第107号による改正前のもの)23条
全文 http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20061102165402.pdf

主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人らの負担とする。
理由
上告代理人斉藤驍ほかの上告受理申立て理由(原告適格に係る所論に関する部分
を除く。)について
第1 事案の概要等
1 原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
(1) 建設大臣は,昭和39年12月16日付けで,旧都市計画法(大正8年法
律第36号)3条に基づき,世田谷区喜多見町(喜多見駅付近)を起点とし,葛飾
区上千葉町(綾瀬駅付近)を終点とする東京都市計画高速鉄道第9号線(昭和45
年の都市計画の変更以降の名称は「東京都市計画都市高速鉄道第9号線」であ
る。)に係る都市計画(以下「9号線都市計画」という。)を決定した。
(2) 被上告参加人は,9号線都市計画について,都市計画法(平成4年法律第
82号による改正前のもの)21条2項において準用する同法18条1項に基づく
変更を行い,平成5年2月1日付けで告示した(以下,この都市計画の変更を「平
成5年決定」という。)。平成5年決定は,小田急小田原線(以下「小田急線」と
いう。)の喜多見駅付近から梅ヶ丘駅付近までの区間(以下「本件区間」とい
う。)について,成城学園前駅付近を掘割式とするほかは高架式を採用し,鉄道と
交差する道路とを連続的に立体交差化することを内容とするものであり,小田急線
の複々線化とあいまって,鉄道の利便性の向上及び混雑の緩和,踏切における渋滞
の解消,一体的な街づくりの実現を図ることを目的とするものである。
- 2 -
(3) 平成5年決定がされた経緯等は,次のとおりである。
ア東京都は,9号線都市計画に係る区間の一部である小田急線の喜多見駅から
東北沢駅までの区間において,踏切の遮断による交通渋滞や市街地の分断により日
常生活の快適性や安全性が阻害される一方,鉄道の車内混雑が深刻化しており,鉄
道の輸送力が限界に達しているとして,上記区間の複々線化及び連続立体交差化に
係る事業の必要性及び緊急性について検討するため,昭和62年度及び同63年度
にわたり,建設省の定めた連続立体交差事業調査要綱(以下「本件要綱」とい
う。)に基づく調査(以下「本件調査」という。)を実施した。
本件要綱は,連続立体交差事業調査において,鉄道等の基本設計に当たって数案
を作成して比較評価を行うものとし,その評価に当たっては,経済性,施工の難易
度,関連事業との整合性,事業効果,環境への影響等について比較するものとして
いる。
本件調査の結果,成城学園前駅付近については掘割式とする案が適切であるとさ
れるとともに,環状8号線と環状7号線の間については,高架式とする案が,一部
を地下式とする案に比べて,工期・工費の点で優れており,環境面では劣るもの
の,当該高架橋の高さが一般的なものであり,既存の側道の有効活用などでその影
響を最小限とすることができるので,適切な案であるとされた。
なお,本件調査の結果,本件区間の東側に当たる環状7号線と東北沢駅の間(以
下「下北沢区間」という。)の構造については,地表式,高架式,地下式のいずれ
の案にも問題があり,その決定に当たっては新たに検討する必要があるとされた
が,平成5年決定に係る9号線都市計画においては,従前どおり地表式とされた。
もっとも,その後,東京都の都市計画局長は,平成10年12月,都議会におい
- 3 -
て,下北沢区間の線路の増加部分を地下式で整備する案を関係者で構成する検討会
に提案して協議を進めている旨答弁し,東京都は,同13年4月,下北沢区間を地
下式とする内容の計画素案を発表した。
イ被上告参加人は,本件調査の結果を踏まえた上で,本件区間の構造につい
て,① 嵩上式(高架式。ただし,成城学園前駅付近を一部掘割式とするもの。以
下「本件高架式」という。),② 嵩上式(一部掘割式)と地下式の併用(成城学
園前駅付近から環状8号線付近までの間を嵩上式(一部掘割式)とし,環状8号線
付近より東側を地下式とするもの),③ 地下式の三つの方式を想定した上で,計
画的条件(踏切の除却の可否,駅の移動の有無等),地形的条件(自然の地形等と
鉄道の線形の関係)及び事業的条件(事業費の額)の三つの条件を設定して比較検
討を行った。その結果,上記③の地下式を採用した場合,当時の都市計画で地表式
とされていた下北沢区間に近接した本件区間の一部で踏切を解消することができな
くなるほか,河川の下部を通るため深度が大きくなること等の問題があり,上記②
の方式にも同様の問題があること,本件高架式の事業費が約1900億円と算定さ
れたのに対し,上記③の地下式の事業費は,地下を2層として各層に2線を設置す
る方式(以下「2線2層方式」という。)の場合に約3000億円,地下を1層と
して4線を並列させる方式の場合に約3600億円と算定されたこと等から,被上
告参加人は,本件高架式が上記の3条件のすべてにおいて他の方式よりも優れてい
ると評価し,環境への影響,鉄道敷地の空間利用等の要素を考慮しても特段問題が
ないと判断して,これを本件区間の構造の案として採用することとした。
なお,上記の事業費の算定に当たっては,昭和63年以前に取得済みの用地に係
る取得費は算入されておらず,高架下の利用等による鉄道事業者の受益分も考慮さ
- 4 -
れていない。また,2線2層方式による地下式の事業費の算定に当たっては,シー
ルド工法(トンネルの断面よりわずかに大きいシールドという強固な鋼製円筒状の
外殻を推進させ,そのひ護の下で掘削等の作業を行いトンネルを築造する工法)に
よる施工を本件区間全体にわたって行うことは前提とされていないが,被上告参加
人は,途中の経堂駅において準急線と緩行線との乗換えを可能とするために,1層
目にホーム2面及び線路数3線を有する駅部を設置することを想定しており,その
ために必要なトンネルの幅は約30mであったところ,平成5年当時,このような
幅のトンネルをシールド工法により施工することはできなかった。
ウ上記のように本件高架式が案として選定された本件区間の複々線化に係る事
業及び連続立体交差化に係る事業について,それぞれの事業の事業者であるA株式
会社及び東京都は,東京都環境影響評価条例(昭和55年東京都条例第96号。平
成10年東京都条例第107号による改正前のもの。以下「本件条例」という。)
に基づく環境影響評価に関する調査を行い,平成3年11月5日,環境影響評価書
案(以下「本件評価書案」という。)を被上告参加人に提出した。本件評価書案に
よれば,本件高架式を前提として工事完了後の鉄道騒音について予測を行ったとこ
ろ,地上1.2mの高さでの予測値は,高架橋端からの距離により現況値を上回る
箇所も見られるが,高架橋端から6.25mの地点で現況値が82から93ホンの
ところ予測値が75から77ホンとされるなど,おおむね現況とほぼ同程度かこれ
を下回っているとされている。
本件評価書案に対し,被上告参加人は,鉄道騒音の予測位置を騒音に係る問題を
最も生じやすい地点及び高さとすること,騒音防止対策の種類とその効果の程度を
明らかにすること等の意見を述べ,これを受けて,東京都及びA株式会社は,予測
- 5 -
地点の1箇所につき高架橋端から1.5mの地点における高さ別の鉄道騒音の予測
に関する記載を付加した環境影響評価書(以下「本件評価書」という。)を同4年
12月18日付けで作成し,被上告参加人に提出した。本件評価書によれば,上記
地点における鉄道騒音の予測値は,地上10mから30mの高さで88ホン以上,
地上15mの高さでは93ホンであるが,事業実施段階での騒音防止対策として,
構造物の重量化,バラストマットの敷設,60kg/mレールの使用,吸音効果の
ある防音壁の設置等の対策を講じるとともに,干渉型の防音装置の設置についても
検討し,騒音の低減に努めることとされ,これらによる騒音低減効果は,バラスト
マットの敷設により軌道中心から6.25mの地点で7ホン,60㎏/mレールの
使用により現在の50㎏/mレールと比べて軌道中心から23mの地点で5ホン,
吸音効果のある防音壁により防音壁だけの場合に比べ1ホン程度,防音壁に干渉型
防音装置を設置した場合3ないし4ホンであるとされている。
以上の環境影響評価は,東京都環境影響評価技術指針が定める環境影響評価の手
法を基本とし,一般に確立された科学的な評価方法に基づいて行われた。
なお,高架橋より高い地点での現実の騒音値は,線路部分において生じる騒音が
走行する列車の車体に遮られることから,上記予測値のような実験値よりも低くな
るとされている。また,平成5年決定当時の鉄道騒音に関する唯一の公的基準であ
った「新幹線鉄道騒音に係る環境基準について」(昭和50年環境庁告示第46
号)においては,騒音を測定する高さは地上1.2mとされていた。
一方,小田急線の沿線住民らは,小田急線による鉄道騒音等の被害について,平
成4年5月7日,公害等調整委員会に対し,公害紛争処理法42条の12に基づく
責任裁定を申請し,同委員会は,同10年7月24日,申請人の一部が受けた平成
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5年決定以前の騒音被害が受忍限度を超えることを前提として,A株式会社の損害
賠償責任を認める旨の裁定をした。
エ被上告参加人は,本件調査及び上記の環境影響評価を踏まえ,本件高架式を
採用することが周辺地域の環境に与える影響の点でも特段問題がないと判断して,
本件高架式を内容とする平成5年決定をした。
オ東京都は,公害対策基本法19条に基づき,東京地域公害防止計画を定めて
いたところ,平成5年決定は,その目的,内容において同計画の妨げとなるもので
はなく,同計画に適合している。
(4) 建設大臣は,都市計画法(平成11年法律第160号による改正前のも
の)59条2項に基づき,平成6年5月19日付けで,東京都に対し,平成5年決
定により変更された9号線都市計画を基礎として,本件区間の連続立体交差化を内
容とする別紙事業認可目録1記載の都市計画事業(以下「本件鉄道事業」とい
う。)の認可(以下「本件鉄道事業認可」という。)をし,同6年6月3日付けで
これを告示した。
また,建設大臣は,世田谷区が同5年2月1日付けで告示した東京都市計画道路
・区画街路都市高速鉄道第9号線付属街路第9号線及び第10号線に係る各都市計
画を基礎として,同項に基づき,同6年5月19日付けで,東京都に対し,上記各
付属街路の設置を内容とする別紙事業認可目録2及び3記載の各都市計画事業の認
可(以下「本件各付属街路事業認可」という。)をし,同年6月3日付けでこれを
告示した。上記各付属街路は,本件区間の連続立体交差化に当たり,環境に配慮し
て沿線の日照への影響を軽減すること等を目的として設置することとされたもので
ある。
- 7 -
2 本件は,本件鉄道事業認可の前提となる都市計画に係る平成5年決定が,周
辺地域の環境に与える影響,事業費の多寡等の面で優れた代替案である地下式を理
由もなく不採用とし,いずれの面でも地下式に劣り,周辺住民に騒音等で多大の被
害を与える本件高架式を採用した点で違法であるなどとして,建設大臣の事務承継
者である被上告人に対し,上告人らが本件鉄道事業認可の,別紙上告人目録2記載
の上告人らが別紙事業認可目録2記載の認可の,別紙上告人目録3記載の上告人ら
が別紙事業認可目録3記載の認可の,各取消しを求めている事案である。
第2 本件鉄道事業認可の取消請求について
1 平成5年決定が本件高架式を採用したことによる本件鉄道事業認可の違法の
有無について
(1) 都市計画法(平成4年法律第82号による改正前のもの。以下同じ。)
は,都市計画事業認可の基準の一つとして,事業の内容が都市計画に適合すること
を掲げているから(61条),都市計画事業認可が適法であるためには,その前提
となる都市計画が適法であることが必要である。
(2) 都市計画法は,都市計画について,健康で文化的な都市生活及び機能的な
都市活動を確保すべきこと等の基本理念の下で(2条),都市施設の整備に関する
事項で当該都市の健全な発展と秩序ある整備を図るため必要なものを一体的かつ総
合的に定めなければならず,当該都市について公害防止計画が定められているとき
は当該公害防止計画に適合したものでなければならないとし(13条1項柱書
き),都市施設について,土地利用,交通等の現状及び将来の見通しを勘案して,
適切な規模で必要な位置に配置することにより,円滑な都市活動を確保し,良好な
都市環境を保持するように定めることとしているところ(同項5号),このような
- 8 -
基準に従って都市施設の規模,配置等に関する事項を定めるに当たっては,当該都
市施設に関する諸般の事情を総合的に考慮した上で,政策的,技術的な見地から判
断することが不可欠であるといわざるを得ない。そうすると,このような判断は,
これを決定する行政庁の広範な裁量にゆだねられているというべきであって,裁判
所が都市施設に関する都市計画の決定又は変更の内容の適否を審査するに当たって
は,当該決定又は変更が裁量権の行使としてされたことを前提として,その基礎と
された重要な事実に誤認があること等により重要な事実の基礎を欠くこととなる場
合,又は,事実に対する評価が明らかに合理性を欠くこと,判断の過程において考
慮すべき事情を考慮しないこと等によりその内容が社会通念に照らし著しく妥当性
を欠くものと認められる場合に限り,裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したも
のとして違法となるとすべきものと解するのが相当である。
(3) 以上の見地に立って検討するに,前記事実関係の下においては,平成5年
決定が本件高架式を採用した点において裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用した
ものとして違法となるとはいえないと解される。その理由は以下のとおりである。
ア被上告参加人は,本件調査の結果を踏まえ,計画的条件,地形的条件及び事
業的条件を設定し,本件区間の構造について三つの方式を比較検討した結果,本件
高架式がいずれの条件においても優れていると評価し,本件条例に基づく環境影響
評価の結果等を踏まえ,周辺地域の環境に与える影響の点でも特段問題がないとし
て,本件高架式を内容とする平成5年決定をしたものである。
イそこで,上記の判断における環境への影響に対する考慮について検討する。
(ア) 前記のとおり,都市計画法は,都市施設に関する都市計画について,健康
で文化的な都市生活の確保という基本理念の下で,公害防止計画に適合するととも
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に,適切な規模で必要な位置に配置することにより良好な都市環境を保持するよう
に定めることとしている。公害防止計画は,環境基本法により廃止された公害対策
基本法の19条に基づき作成されるものであるが,相当範囲にわたる騒音,振動等
により人の健康又は生活環境に係る著しい被害が発生するおそれのある地域につい
て,その発生を防止するために総合的な施策を講ずることを目的とするものである
ということができる。また,本件条例は,環境に著しい影響を及ぼすおそれのある
一定の事業を実施しようとする事業者が,その実施に際し,公害の防止,自然環境
及び歴史的環境の保全,景観の保持等(以下「環境の保全」という。)について適
正な配慮をするため,当該事業に係る環境影響評価書を作成し,被上告参加人に提
出しなければならないとし(7条,23条),被上告参加人は,都市計画の決定又
は変更の権限を有する者にその写しを送付し(24条2項),当該事業に係る都市
計画の決定又は変更を行うに際してその内容について十分配慮するよう要請しなけ
ればならないとしている(25条)。そうすると,本件鉄道事業認可の前提となる
都市計画に係る平成5年決定を行うに当たっては,本件区間の連続立体交差化事業
に伴う騒音,振動等によって,事業地の周辺地域に居住する住民に健康又は生活環
境に係る著しい被害が発生することのないよう,被害の防止を図り,東京都におい
て定められていた公害防止計画である東京地域公害防止計画に適合させるととも
に,本件評価書の内容について十分配慮し,環境の保全について適正な配慮をする
ことが要請されると解される。本件の具体的な事情としても,公害等調整委員会
が,裁定自体は平成10年であるものの,同4年にされた裁定の申請に対して,小
田急線の沿線住民の一部につき平成5年決定以前の騒音被害が受忍限度を超えるも
のと判定しているのであるから,平成5年決定において本件区間の構造を定めるに
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当たっては,鉄道騒音に対して十分な考慮をすることが要請されていたというべき
である。
(イ) この点に関し,前記事実関係によれば,① 本件区間の複々線化及び連続
立体交差化に係る事業について,本件調査において工期・工費の点とともに環境面
も考慮に入れた上で環状8号線と環状7号線の間を高架式とする案が適切とされた
こと,② 本件高架式を採用することによる環境への影響について,本件条例に基
づく環境影響評価が行われたこと,③ 上記の環境影響評価は,東京都環境影響評
価技術指針が定める環境影響評価の手法を基本とし,一般に確立された科学的な評
価方法に基づき行われたこと,④ 本件評価書においては,工事完了後における地
上1.2mの高さの鉄道騒音の予測値が一部を除いておおむね現況とほぼ同程度か
これを下回り,高架橋端から1.5mの地点における地上10mないし30mの高
さの鉄道騒音の予測値が88ホン以上などとされているものの,鉄道に極めて近接
した地点での値にすぎず,また,上記の高さにおける現実の騒音は,走行する列車
の車体に遮られ,その値は,上記予測値よりも低くなること,⑤ 本件評価書にお
いても,騒音防止対策として,構造物の重量化,バラストマットの敷設,60kg
/mレールの使用,吸音効果のある防音壁の設置等の対策を講じるとともに,干渉
型防音装置の設置も検討することとされ,現実の鉄道騒音の値は,これらの騒音対
策を講じること等により相当程度低減するものと見込まれるとされていること,⑥
平成5年決定当時の鉄道騒音に関する公的基準は地上1.2mの高さで騒音を測
定するものにとどまっていたこと,⑦ 被上告参加人は,本件調査及び上記の環境
影響評価を踏まえ,本件高架式を採用することが周辺地域の環境に与える影響の点
でも特段問題がないと判断して,平成5年決定をしたこと,⑧ 平成5年決定は,
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東京地域公害防止計画に適合していること等の事実が認められる。
そうすると,平成5年決定は,本件区間の連続立体交差化事業に伴う騒音等によ
って事業地の周辺地域に居住する住民に健康又は生活環境に係る著しい被害が発生
することの防止を図るという観点から,本件評価書の内容にも十分配慮し,環境の
保全について適切な配慮をしたものであり,公害防止計画にも適合するものであっ
て,都市計画法等の要請に反するものではなく,鉄道騒音に対して十分な考慮を欠
くものであったということもできない。したがって,この点について,平成5年決
定が考慮すべき事情を考慮せずにされたものということはできず,また,その判断
内容に明らかに合理性を欠く点があるということもできない。
(ウ) なお,被上告参加人は,平成5年決定に至る検討の段階で,本件区間の構
造について三つの方式の比較検討をした際,計画的条件,地形的条件及び事業的条
件の3条件を考慮要素としており,環境への影響を比較しないまま,本件高架式が
優れていると評価している。しかしながら,この検討は,工期・工費,環境面等の
総合的考慮の上に立って高架式を適切とした本件調査の結果を踏まえて行われたも
のである。加えて,その後,本件高架式を採用した場合の環境への影響について,
本件条例に基づく環境影響評価が行われ,被上告参加人は,この環境影響評価の結
果を踏まえた上で,本件高架式を内容とする平成5年決定を行っているから,平成
5年決定が,その判断の過程において考慮すべき事情を考慮しなかったものという
ことはできない。
ウ次に,計画的条件,地形的条件及び事業的条件に係る考慮について検討す
る。
被上告参加人は,本件区間の構造について三つの方式の比較検討をした際,既に
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取得した用地の取得費や鉄道事業者の受益分を考慮せずに事業費を算定していると
ころ,このような算定方法は,当該都市計画の実現のために今後必要となる支出額
を予測するものとして,合理性を有するというべきである。また,平成5年当時,
本件区間の一部で想定される工事をシールド工法により施工することができなかっ
たことに照らせば,被上告参加人が本件区間全体をシールド工法により施工した場
合における2線2層方式の地下式の事業費について検討しなかったことが不相当で
あるとはいえない。
さらに,被上告参加人は,下北沢区間が地表式とされることを前提に,本件区間
の構造につき本件高架式が優れていると判断したものと認められるところ,下北沢
区間の構造については,本件調査の結果,その決定に当たって新たに検討する必要
があるとされ,平成10年以降,東京都から地下式とする方針が表明されたが,一
方において,平成5年決定に係る9号線都市計画においては地表式とされていたこ
とや,本件区間の構造を地下式とした場合に河川の下部を通るため深度が大きくな
るなどの問題があったこと等に照らせば,上記の前提を基に本件区間の構造につき
本件高架式が優れていると判断したことのみをもって,合理性を欠くものであると
いうことはできない。
エ以上のほか,所論にかんがみ検討しても,前記アの判断について,重要な事
実の基礎を欠き又はその内容が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くことを認める
に足りる事情は見当たらない。
(4) 以上のとおり,平成5年決定が本件高架式を採用した点において裁量権の
範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとして違法となるということはできないか
ら,これを基礎としてされた本件鉄道事業認可が違法となるということもできな
- 13 -
い。
2 本件鉄道事業認可に係るその余の違法の有無について
原審の適法に確定した事実関係の下においては,本件鉄道事業認可について,そ
の余の所論に係る違法は認められない。
3 なお,原判決は,本件鉄道事業認可の取消請求に係る訴えを却下すべきもの
としているが,本件各付属街路事業認可の取消請求に関して,前記第1の1の事実
関係に基づき,平成5年決定の適否を判断している。原審の判示には,上記説示と
異なる点もあるが,原審は,被上告参加人が,本件の環境影響評価の結果を踏ま
え,本件高架式の採用が周辺地域の環境に与える影響の点でも特段問題がないと判
断したことに不合理な点は認められず,最終的に本件高架式を内容とする平成5年
決定を行ったことに裁量権の範囲の逸脱又は濫用はなく,平成5年決定を前提とす
る本件鉄道事業認可がその他の上告人ら指摘の点を考慮しても適法であると判断し
ており,この判断は是認することができるものである。
4 以上によれば,上告人らによる本件鉄道事業認可の取消請求は棄却すべきこ
ととなるが,その結論は原判決よりも上告人らに不利益となり,民訴法313条,
304条により,原判決を上告人らに不利益に変更することは許されないので,当
裁判所は原判決の結論を維持して上告を棄却するにとどめるほかはない。
第3 本件各付属街路事業認可の取消請求について
原審の適法に確定した事実関係の下において,本件各付属街路事業認可に違法は
ないとした原審の判断は,是認することができ,原判決に所論の違法はない。
第4 結論
以上によれば,論旨はいずれも採用することができない。
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よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官泉徳治裁判官横尾和子裁判官甲斐中辰夫裁判官
島田仁郎)
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事業認可目録
建設大臣がいずれも平成6年5月19日付けで東京都に対してした次の各事業の
認可
1(1) 施行者の名称
東京都
(2) 都市計画事業の種類及び名称
東京都市計画都市高速鉄道事業第9号線
(3) 事業計画の概要
第1審判決別紙事業目録1の「事業計画の概要」欄記載のとおり
2(1) 施行者の名称
東京都
(2) 都市計画事業の種類及び名称
東京都市計画道路事業都市高速鉄道事業第9号線付属街路第9号線
(3) 事業計画の概要
第1審判決別紙事業目録6の「事業計画の概要」欄記載のとおり
3(1) 施行者の名称
東京都
(2) 都市計画事業の種類及び名称
東京都市計画道路事業都市高速鉄道事業第9号線付属街路第10号線
(3) 事業計画の概要
第1審判決別紙事業目録7の「事業計画の概要」欄記載のとおり