明日香の細い道を尋ねて

生きて行くと言うことは考える事である。何をして何を食べて何に笑い何を求めるか、全ては考える事から始まるのだ。

悠々自適(16)個人的な、余りにも個人的な神泉の想い出

2023-07-13 11:58:00 | 今日の話題

バナナマンの日村が街歩きして蕎麦など食べる番組「ひむ太郎」を見ていたら、何か映像に見覚えがあって、昔この辺りを歩き回った記憶が蘇って来た。映像はゴミゴミした下町の風景で、駅の近くのトンネルから電車が出てくるシーンである。そう言えば、会社帰りの夜遅くにこの辺りを調べた事があったなぁ、と思い出した。実は本屋の平積みに並んでいたノンフィクションの新刊を、どういう理由からかは忘れたが買って帰って「その日」のうちに読み切ってしまった、という若い頃の話である。

その本は佐野眞一のノンフィクション「東電OL殺人事件」だった。

本は次の日に、会社の同僚に読んでみたら?と廻したように思う。そして私は事件現場を見てみたくなり、神泉までわざわざ行ったというわけである。渋谷から京王線で神泉駅に行き、一人でウロウロ歩き回ったりして八百屋の女主人に道を尋ねるなど、トンネルや坂道やアパートの密集する暗がりの街灯を眺めたりした。勿論、事件現場を探し当てることは出来なくて、何となく町の雰囲気を味わって帰っただけである。夜の九時頃と時間が遅いこともあり、人通りの無い裏寂しい路地を歩いていると、如何にも「陰惨な事件」が起きても不思議はない場所という気になってくる。

折しも「ネパール国籍のゴビンタ」が殺人犯とされて裁判になり、二転三転して丁度再審請求が行われているとニュースになっていた。その頃は大して政治や社会問題に興味を持つ訳でもなく、ただ被害者の勤め先が一流企業の東電だと言うことと、そのOLが夜な夜な神泉の安アパートで売春していた、ということに三面記事的な興味を覚えただけである。ただ外国人、特にネパール人というアジア系の男が警察に追及されて、自分の無実を信じてもらうのは難しいだろうな、くらいに思っていたのだった。

神泉は大都会「渋谷」から一駅という近さなのに、その陰に隠れて信じられない位に落ちぶれた下町の様相を見せていた。その頃は犯罪の事件現場というのはどこか遠い場所にあるかのように思っていたが、実は華やかな都会の煌めきの直ぐ裏に「こっそりと静かに潜んでいる」ものなのだ。それから暫くの間、私は社会の暗部を身近に知った証言者のように眉をひそめた険しい顔をして、秘密を悟られまいとするかのように人目を避けて会社に出勤していたのである。私自身は何もやましいことはしていなかったが、要するに何にでもすぐ影響される単純な性格なのだ。これは今でも変わっていない。

まあ神泉自体は今は当時と違って、もっと明るい住宅街に変身していることだろうと思う。だが私にとっては神泉という地名は、永遠に「東電OL殺人事件」の物寂しいイメージのままである。

そんな事を思いながらチューハイのお茶割りをグビッと飲み干した。神泉に最近引っ越して住まわれている方には、ひたすら「ごめんなさい」と謝るしかない。私のただただ個人的な思い出である。



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