いよいよ勝負の最終日。最終組から一つ前で出て行ったJJスパウンが何と「出だし6ホールで5ボギー」という大乱調に陥り、為す術もないまま前半で40と大叩きして優勝戦線からすべり落ちてしまった。万事休す!。もはや中継カメラも彼のプレーを映さなくなり、観客からも忘れられて注目は自然にバーンズとスコットの最終組に集まった。
10番まででトップは2アンダーのサム・バーンズ、2打差イーブンでアダム・スコットが続く。そしてそれ以下の選手は3打差以上開いているという状況です。これは普通の試合ならリスクを避けて「安全に残りホールを消化」していれば優勝出来るスコア差です。ところがここ超難関オークモントでの全米オープンでは「そういう選択肢」は許されていないのである!。
選手は「300m先の4畳半」を目指してドライバーを目一杯振り回すのだが、同時に悪魔のような深いラフにも入らないという「飛んで曲がらない」正確性をも兼ね備えないとどんどん自滅してしまうのである。しかもグリーンに乗ったら乗ったで鏡のようにツルツルなのに傾斜だらけ、さらには不規則に曲がるポアナ芝がそこかしこに潜んでいる「予測不能なグリーン」が待ち構えている。こんなグリーンでバーディを取ることが如何に困難か?。正確な読みと針の穴を通す神業パターを併せ持つ数少ない選手だけが、バーディという果実を得ることが出来るという訳なのだ。つまり、バーンズが「2アンダーを守りきれば優勝」、誰もがそう思っていた筈である。
ところが緊張の舞台は突然のスコールに中断した。後から考えればこれが今年の全米オープンの「奇蹟のドラマ」を呼び起こした張本人だと分かる。実は一旦選手がコースを離れてその間水が浮いたグリーンなどをスタッフが手当てしている間に、アガサ・クリスティのミステリードラマで言えば「静かに何かが変わっていた」のである(怖いよ〜)。
そしてそれは11番ホールでトップを走っていたサム・バーンズに「手痛いボギー」となって姿を現した・・。
それからドドーンと坂道を転げ落ちるように最終組上位2人が次々とボギーを叩いて、あれよあれよと言う間に15番を終わった時点ではバーンズとスコットが「+3と圏外に去って」しまったのである、何と言うアクシデントが起きてしまったのだろう。そしてそして、何と一度は死んでいた筈のJJスパウンが「墓場から大復活」してバーディを2つ取り「イーブンパーのトップ」に返り咲いていたんです!(オーマイガッ!)。まさにフィールドは現地の解説者が思わず「サバイバル ライト ナウ」と呟いたように、混乱・裏切り・下克上・歓喜、そして絶望と、何でもありの「死の戦場」と化していたのだった・・・(盛り過ぎ!)。
いよいよ試合も大詰めになり17番を終わった時点で優勝の可能性が残っているのはイーブンのスパウン、+1のクラブハウスリーダー・マッキンタイアー、それに+2のホブランド3人に絞られた。しかしテレビに映るスパウンの顔は全く感情を表に出さず、ドライバーを曲げて何とかフェアウェイに残った時の安堵の表情やアプローチが思った通りに行かない時の悔しさなど「全然見せなくて」、まるで能面か夢遊病者のように黙々とプレーをこなして「完全に無」なのである。それはただひたすら「どうやれば最小ストロークでカップイン出来るか」の最適解を頭の中でフル回転して何回もシミュレーションし、それを実際に「打つ!こと」それだけを考えている人間の「最高度に興奮し、感情を捨て切った」まさに機械の眼そのものであった(しつこいようだが盛り過ぎ!)。
勿論スパウンがこの位置に戻って来るまでには例えば12番の高速グリーンをしかも下りの尚且つ尾根を2つも越える30ヤードオーバーの超ロングパットが何と「奇跡的に入る」というミラクルがあったのは確かである。今季彼の快進撃を支えたゼロトルク・パターの威力があっての大復活劇ではあったが、しかしこの12番のパットは私には「人間業ではない」何か運命的な力が働いたものと感じられた。我々は普通にゴルフの試合を観戦している筈なのだが実は、歴史を作り出す運命の力が登場人物を操って「一人の英雄を生み出す瞬間」の現場にまさに立ち会っている、そう思えるのである。
運命の18番、神がかったスパウンの2打目は何とかグリーンの端の方に乗った。クラブハウスで固唾をのんで見守っているマッキンタイアーとの差は1打しかない。スパウンがボギーを叩いてホブランドがバーディなら「3人でプレーオフ」、優勝の行方は「まだまだ全く分からない」のである。しかしホブランドの2打目はグリーンに乗ったのは良いが、奇しくもスパウンのパッティングライン上の「しかもよりによって」遠いところに乗ってしまったんである!。これじゃスパウンにボギーを叩いて貰うつもりが「逆にラインを教える」羽目になってしまう。まずい、まずいぞ!、だがどうすればいい?・・・。多分ホブランドは「この大事な時に何してくれるねん!」って歯ぎしりして神を呪ったに違いない(実際はホブランドは敬虔なキリスト教だろうからそういう事は考えないと思うけど)。
しかしホブランドはバーディを狙うしかない。バーディで1打差に縮めてやっとプレーオフに残るチャンスが巡って来るのだ。これが勝負の分かれ目である。ホブランドの渾身のパットは惜しくもカップの右側を通って1m先で止まった。スパウンにはまだ30m以上はありそうな尾根越えの下りのパットが残っていて、ちょっとタッチを間違えれば簡単にボギーを打ってしまうに違いない。プレーオフにもつれ込めば3人のうちだれが勝ってもおかしく無いのだ・・・。だが、何と言う偶然だろうか、戦っている相手のホブランドが「先に打ってラインを見せてくれている」のだ!。これで不安は払拭されたようなもんである。
スパウンはホブランドのパットが「入っても入らなくても」自分のパットに専念し、「2パットのパー」でしのげば優である。しかしそんな「たぬきの早とちり」で安心したりするのは見ている側の心理だろう。彼の頭にあるのはただただ今打ったホブランドのルートを目に焼き付けて、その「2cm左を狙う」ことだけだったと思う(それにしても30m先の2cmなんて凄すぎる)。アドレスする彼の見開いた眼から何かの感情を読み取ることは「最後までできないまま」運命のパットは放たれた・・・
ボールは見事なラインを描き、吸い込まれるようにカップに沈んだ。
一瞬の沈黙、そしてコース全体が揺れるほどの大歓声に祝福された優勝を決めるバーディである!。その時右手を高々と突き挙げて拍手に応えるスパウンの眼に薄っすらと涙が光るのを中継カメラは見逃さなかった!・・・やっと終わったよ、スパウンほんとに御目出度う!!
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以上、2025年オークモント開催の全米オープンはJJスパウンの劇的勝利で幕を閉じました。私は(上)を書いてからもう一度撮っておいた録画を見直しておくつもりが「またまた感動の涙」を流してしまったんです。何度見ても素晴らしい試合で涙が出ます。そのせいか(下)の記事はちょっと盛り過ぎの感がプンプンしますがまあそれだけ興奮してるって事でお許しいただきたいと思います。中々こういう試合は見られるものじゃありません。やっぱり世界最高峰の戦いだからこそ、人間の力を超えた「何かが起きる」んですね、これこそスポーツの持つ「最大の魅力」じゃないかと思っています。そうそう、来月の全英オープンでは日本人特に「女子の活躍」が楽しみですね、ではその時まで。
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