もちろん家計は火の車

読書と映画、クルマにゲーム……いろんなものを愛しつつ、怠惰な日常を送るオッサンのつぶやき。

オトコの生き様を熱く語る好エッセイ、『杉作J太郎が考えたこと』を読んだ。

2011年07月15日 | 

ブログ主の場合、とにかく読書が大好きで
1週間あたり、もうバカみたいに大量の本を読むのだが、
中でもお気に入りとなっているのが"エッセイ"の類である。
最近読んだ中で印象的だったのが、
一応は"漫画家&文筆家"ということになっている
杉作J太郎が書いたエッセイ
『杉作J太郎が考えたこと』(青林工藝舎/刊)である。

誤解を恐れず言えば、杉作J太郎……と聞いても、
まずフツ~の日本人は「誰、それ?」というのが相場であろう。
ご存じない方のため、一応説明しておくと
杉作J太郎とは、かつて、あの伝説のコミック雑誌『ガロ』の
連載陣に名を連ねていた、カルト的作風で知られる漫画家である。
ただし、もうかなり前に漫画執筆からは足を洗っており、
ここ最近の杉作J太郎といえば、雑文書きとして活躍するほか、
映画制作集団「男の墓場プロダクション」を設立し、
『任侠秘録 人間狩り』『怪奇!! 幽霊スナック殴り込み』といった
作品を手掛けるなど、ある意味「映画作家」と化していた感がある。
ま、映画のタイトルを見ればお分かりのとおり、
"映画"といっても、きわめて特殊な作品ばかりである(笑)。
杉作の撮る映画は、たとえば現在「『ハリー・ポッター』の
最新作を見に行くのが楽しみ……!!」と言ってるような方には、
まずもって「一生縁がないような」作品ばかりである。

で、え~と……何が言いたいのかというと、
要するに、本書の著者である杉作J太郎は、
ある特定の方面では"超有名人"と化している反面、
ごくごく当たり前の日本人一般の間では、その知名度は
「ほとんどゼロに等しい」と、そういうことである。

で、だ……。
特にエッセイの場合、ま、内容が面白いに越したことはないのだが
本の売れ行きを大きく左右するのは、何よりも
「書いた人間が、有名かどうか」って点だったりする。
ハッキリ言えば、有名人が書いたエッセイなら、
そんなに面白くなくても「そこそこ売れちゃったり」するのだ。
個人的な話をさせていただくと、かつてブログ主は実家に帰省した際、
実のママンの本棚を見ていて、郷ひろみのエッセイ『ダディ』を発見。
思わず悶絶しそうになった経験がある(笑)。
……つまりは「そういうこと」なのである。


そのような観点からすれば、もう思いっきり
不利な立ち位置にある本書『杉作J太郎が考えたこと』なのであるが、
当ブログ読者の皆様におかれては、
まずは騙されたと思って、ぜひとも読んでみていただきたい。

本書は、これもまたマイナーなコミック誌『アックス』に連載中の
杉作のエッセイ『ふんどしのはらわた』をまとめたものとなっており、
基本的には杉作の日常生活&雑感をまとめたものであるが、
全編これ、壮絶な貧乏ライフのドキュメントである。

ただ、貧乏ライフと言っても杉作の場合、どう考えても
「本人に問題がある」としか、書きようがないww。
マンガ家として絶筆し、折からの出版不況のあおりを受け
「金になる」モノ書きの仕事が激減する中、ひたすら
パチンコに熱中(杉作は『エヴァンゲリオン』に登場する
綾波レイの熱烈なファンとして有名で、あの綾波に「会うため(!)」
ひたすらパチンコ『エヴァンゲリオン』を打ち続けている)。
挙句、もう本当にどうしようもなくなった局面で
映画制作集団「男の墓場プロダクション」を設立し、
念願だった映画製作に「うって出る」のである。

こう書くと、中には「金がないとか言っても、ど~せシャレでしょ。
出版とか映画方面の人って、なんだかんだ言っといて
普通のサラリーマンよりは金回り、良さそうだしィ……」なんて
お考えになる人も、いるかもしれない。しかし……
杉作の場合、おそろしいことに本当に「あとがない!」のである(笑)。

ここらへんを評して、杉作自身はこのように書いている。
「この先完全にジリ貧になったら、ホントに何もできなくなる!!
その前に何かしなくちゃ」と……。
要するに「ないからやるの!!」と、そういう話なのだ。
もう後がない、金もない、だから捨てるものもナイ!
杉作いわく「沈没寸前の船みたいなもんですから、
じっさい沈没する前に、やりたいことやっとかないと!!」(本書29ページより)。
はっきり書けば、いま出版業界も相当ヤバイ状況だが、
日本の映画業界も、かなりデンジャラス&危機的な状況にある。
そのような状況下、「フツーに生活すること」さえ
ままならないような人間が、よりにもよって
映画製作に乗り出そうというのである。
その冒険心たるや、相当なものであるが
「ものごとを深く考えてない」と言えば、まったくその通りである(笑)。

その結果、どういうことになるか……?
詳しくは本書『杉作J太郎の考えたこと』をお読みいただきたいが、
とにかく、杉作の生活はすさまじいこととなる。
真夏には「焦熱地獄と化す」エアコンのない部屋に住み、
明け方4時くらいからは、近所の公園で空を見上げて寝転がる日々
(ちなみに書くと、あまりの炎熱に自宅のPCとスキャナが故障して以来、
杉作は『アックス』掲載用の原稿をなんと、携帯電話で書いていたという)。
最初、格安の居酒屋でやっていたはずの打ち合わせは、
最終的に「公園で、各人が飲み物持参で行うスタイル」に変貌を遂げる。
どうやら製作費ほか、金銭を巡るトラブルもゼロではないらしく、
杉作自身「借りたものを返さない……なんてつもりは、ない。
でも、ちょっと耳が遠くなったようなフリをすることは、あるかも」なんて書く始末w。

そのような日々の積み重ねは、どうやら
肝心の映画製作にも影響を与えているらしく、
原作者の吾妻ひでおから製作の許可を取り付けた
映画版『チョコレート・デリンジャー』は、
足かけ2年の歳月をかけたにも関わらず、いまだ完成に至らず。
それどころか、本書『杉作J太郎の考えたこと』の
章タイトルは、巻末に近づくにつれ
「脱出すればいいじゃないか!」
「生きることにお金は要らない」
「この街にはもう、いられません」
……などと、徐々にではあるが、その凄みを増していくこととなる。

はっきり書けば、本書『杉作J太郎が考えたこと』を読んで
伝わってくるのは、なんというか
「ゆるやかな破滅へと向けた、
確固たる意志
のようなもの」である(笑)。
はたして本人がどこまで自覚しているかは不明ながら、
その、ひたすら下方へと向けてまっしぐらに突き進む疾走感は、
ちょっと他では見たことのないタイプのものだ。
この独特のドライブ感は、単に"異色"なんて言葉では表せない、
「ここでしか見ることのできない何か」なのである。

しかし……そのような「ちょっと尋常でない日々」を送りながら、
当の杉作J太郎自身、なんだかとても楽しそうに見えるのは、どういうことか?
いま「楽しそう」と書いたが、彼は決して「幸せそう」ではない。
すでに50歳に手が届こうかという杉作自身、そのような生活に
行き詰まりを感じ、疲れを覚えているようなフシがあるのだ。
なによりも、みずからが鬱病にかかっていることを
杉作は本書『~考えたこと』の中で、カミングアウトしているくらいである。
にも関わらず……とにかく杉作を見ていると「すんごい楽しそうに」見える。


「好きなこと、やりたいことだけやって生きる」……。
いまの時代、誰にとっても、それは"理想的な生き方"であろう。
しかし、そうした生き方を貫く上で
「どれだけの犠牲を払う必要があり」、
「どれだけの覚悟が要求されるのか」……?
それを知るためだけでも、本書『杉作J太郎が考えたこと』は、読む価値がある。
わたし個人としては、"杉作J太郎的な"生き方にとても共感を覚えるし、
可能であれば「応援してあげたい」と、そのようにすら、考えるものである。
でも……仮に杉作J太郎本人から借金を申し込まれたら
そのときはきっと、こう答えるであろう。
「すみません、よそをあたってください!」。


PS.
ちなみに、本書『杉作J太郎の考えたこと』の最後から2番目の
章タイトルは「地方移住計画、実行します」だ。
ブログ主の場合、コミック誌『アックス』で連載中の
オリジナルには目を通していないため、
はたして現在の杉作J太郎がどうなっているのか、
その最新情報は持ち合わせていないのだが
本書『杉作J太郎が考えたこと』に書いてあることが事実であるのなら、
いまごろ、彼は日本のどこか(おそらくは、四国の地方都市?)で
新しく「アニメ・スタジオを開設している」……はずである。


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