けっこう久々に、読んだ本の感想など……。
以前のエントリでも書いたとおり、このところ“戦国もの”にハマっている関係で
加藤 廣の歴史ミステリー『信長の棺』(上・下巻、文春文庫)を読んだ。
実はこの『信長の棺』、首相在任当時の小泉純一郎が
多忙な日々を縫うようにして読んで「おもしろかった!」との感想をもらし、
各方面で当時話題になった本だったりする。
ま、ミステリーであるからして一応、ネタバレは避けるが
この『信長の棺』、要するにかの“本能寺の変”で
明智光秀によるクーデターに遭い命を落とした織田信長の遺骸を巡る歴史モノである。
文才に優れた実在の武将で、『信長公記』の筆者として知られる“太田牛一”を主人公に、
本能寺での暗殺後、「なぜ信長の遺骸が見つからなかったのか?」……
その謎解きに迫る内容となっている。主人公である“太田牛一”の役どころは、
現代で言えば「探偵兼ルポライター」とか、そんなカンジである
(なんか、こう書くと本作が“安っぽい2時間ドラマ”風に思えるかもしれないがww、
体裁としては結構重厚な“歴史小説”なので、そこらへんはご安心を……!)。
信長に仕えた戦国武将だった牛一は、実際に『信長公記』と題する
「織田信長の伝記」を書き記しているわけだが、本作『信長の棺』における牛一は、
伝記執筆の過程で、信長の前半生に「1つの謎」が隠されていることを知る。
戦国武将=織田信長の鮮やかな“デビュー戦”となった桶狭間の戦い……
そこには、戦史に書かれている実態とは異なる、ある秘密が存在するのではないか?
そして、謎に満ちた反乱劇=“本能寺の変”にも、同じく1つの秘密が隠されており、
どういうわけか最後まで見つからなかった信長の遺骸のありかが、
それら多くの秘密を解くカギとなっているのではないか?
……と、このように考えた牛一は、みずからの主君でもあった信長の遺骸を求め、
独自の調査を開始。歴史の闇に隠された謎の本質に迫っていく……。
ま、信長の遺骸を巡る真相その他、本作のネタバレにつながるので
『信長の棺』の詳細については、ここらへんに留めておくが、
本書を読んでとにかく印象的なのが、主人公=太田牛一が信長に寄せる“想い”である。
信長と言えば「大いなる改革者、前例にとらわれない自由人」といったあたりが
一般的イメージだろうが、悪名高い“比叡山焼き討ち”に代表されるような暗い一面、
残忍で冷酷な独裁者……といったイメージも、またつきまとう。
ところが……牛一からすると“信長さま”は、ただひたすらに「理想主義的な改革者」なのだ。
本書の中に、次のような一幕がある。
ある日のこと。信長が牛一に、南蛮渡来の“コンフェイト”なる菓子を勧める
(要するに、今で言うところの“コンペイトー”ですなwww)。
まか不思議な形をした茜色の菓子を一粒、口に含んだ牛一は
それまで体験したこともない“純粋な甘さ”に驚愕し、信長に尋ねる。
「どのようにして、このような形のものができるのでしょう……?」
「そこよ、そこがわからぬ」と答えた信長は、次のように続ける。
「京の有名な菓子匠5人を呼びつけ、コンフェイトを見せたが皆、
間抜け面をして首を傾げるばかりであった」……と。これが信長には、許せない。
ただ“コンフェイト”を眺めているだけの菓子匠らは、信長にすれば
「不思議を見れば、ひたすらそれを探るという匠の初心を失って」いるのである。
要するに「帝専属の菓子匠という立場にアグラをかくばかりで、向上心がない」と……。
「この国では、どいつもこいつも勿体ぶるだけで、いざとなれば、このとおり。
新しきこと、南蛮の菓子1つ真似することもできぬ。情けない」(『信長の棺』上巻・205ページ)。
ちなみに書くと、この“コンフェイト”をめぐる一件の後、
信長は5人の菓子匠に対し、次のように申し渡したという。
いわく「そなたら、1年たってもこれが作れぬなら、御用達菓子匠の名を返上せよ。
5年たっても作れぬなら、その首もらいうける」……う~ん、まさしくノ・ブ・ナ・ガwww。
そして、このコンフェイトの一件で、信長はある“1つの決心”をする。
「無能な者が権威面をして、偉そうにしている」ことがわが国の最大の問題なのであり、
「これからの余は、この国の無能な者の掃除人になることに決めた」というのだ(!)。
これは……はたして、どうなのであろうか? 史実として、
コンペイトーを巡って実際「このようなやり取りがあったか、どうか」は別として、
たしかに、なかなか印象的なエピソードでは、ある(笑)。
少なくとも牛一にとって、このときから“信長さま”は
果てしない未来に待つ(であろう)理想を追い求める改革者として、光り輝く存在となる
(そして、その偉大な“信長さま”の業績を後世に残したい……との思いが、
牛一にして『信長公記』を書かせる原動力となっているのである。
そのような志半ばで倒れた“信長さま”の遺骸を見つけ出し、
手厚く葬ること……それこそが、生涯をかけて牛一が追い求めた“夢”なのだ)。
たしかに、1つの「どうしようもない有様」「情けない現実」を目にした人間として、
信長の反応にも、一応の理解&共感ができないわけでは、ない。
しかし……世の中、そうそう駆け足で「どうにかできる」ものでもない。それが1つの現実だろう。
でも……いつまでもそんなこと言ってた日には「何も変わらないよ!」ってのも、1つの現実。
はたして、信長とは理想主義的な改革者なのか?
それとも、残忍にして冷酷なパラノイアだったのか?
その答えは、おそらく誰にも下すことができないのだろう。
そして、そのような「振幅の大きさ」こそが、とりもなおさず
信長という人物が“魔王”という異名をとった所以であろう。
ただ、少なくとも信長の場合、あまりに「先を急ぎすぎた」一面があるのは、否めない。
そして、そのような信長の足取りこそが、そのまま一直線に“本能寺”へつながっていたのである。
おりしも、であるが……。今の政界を見ていると、維新だなんだと
「われこそは改革者!」といった手合いがゴロゴロしている
(中には“太陽のなんちゃら”とか言って、どう見ても「過去の体制の遺物」としか思えない
骨董品までが、しゃしゃり出てくる始末。ホラ、そこのシンタロー、お前のことだよ!wwww)。
はたして、彼らをどのように評価するか……?
その点について考えるにあたり、歴史書をひもといてみるのは、決して無駄なことではないかもしれない。
そこには、牛一が“信長さま”に惚れ込んだように
「この人なら……」と信じるに足るだけの人物が、いるのか、どうか……?
次期総選挙が「12月16日に決まった」とのことでもあり、こいつはホントに悩ましい問題である。
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「無能な者が権威面をして、偉そうにしている」ことがわが国の最大の問題なのであり、
「これからの余は、この国の無能な者の掃除人になることに決めた」
というくだりに、大拍手です!!!!たとえ信長自身は先を急ぎすぎた、としても、このような心意気は、自分が、今、最も共鳴できるものです。
このような心意気を高く掲げている政治家が、現代の日本にもいてほしい。
ある種の極端さって、見ていて気持ちいいものがありますよね!
でも、それを現実の“政治”に当てはめて考えると、
「はたしてどうなんだろう……?」。
そのような思いから、今回のエントリは書きました。
なんつ~か、単なる「弱者切り捨て」&見せかけだけの「勢い」を、
実行力だとか決断力とカン違いしてる政治家が
多すぎるような気がしています。
このところの「維新」という言葉の大安売りを見ていると、
そのような思いがいっそう強くなります。
そういう奴らをかつての信長が見たら、
それこそ全員“斬首”だったりして……(笑)。
わざわざお返事、ありがとうございます。
もちろん、このような「極端さ」を装っている人は、「現代の日本」にもたくさんいるのですが、極端さにつきものの「討死」「斬首」という要素を、信長のように(信長も余儀なかったのかもしれませんが・・・・)受け入れる意向の人はいないようです。だから、その意味では、現代の日本に「第2の信長がいるか?」と言われれば、「偽物」はいても「心意気を受け継いでいる」人はいないんでしょうね・・・・
XXXと△△△は、合併し、第2極を作る、ということですが・・・・
「その覚悟もないクセして」
表面的に「おとこ気がある、決断力がある」
“フリ”をしている偽者ばかり
……ってことかもしれないですね。
第3極結集の問題に関して言えば、
石原シンタロー“閣下”(w)は、なんと
最初に組む構えを見せていた「減税日本」を
アッサリ放り出して、「維新の会」と組むんだそうで(笑)。
あれでいて、ご本人は自分のことを
「義理・人情を大切にする」
古きよき日本男児……みたいに思ってるんだろうから、
ホント笑うしかないです。