もちろん家計は火の車

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あの“3億円事件”の知られざる裏側、そして人生を描く小説『閃光』を読んだ!

2010年07月10日 | 

“戦後最大のミステリー”として名高い完全犯罪、あの“3億円事件”を
題材にした異色小説『閃光』(永瀬隼介・著、角川文庫・刊)を読んだ。
ちなみに、本書を原作にした劇場映画が現在公開中なのだが、
そちらのタイトルは『ロストクライム -閃光-』。原作の表題が
映画では“サブタイトル”になってたりして、少し分かりにくい図式となっている。
(私の場合、チケットセンターで映画の前売り券を購入する際、
タイトルを『閃光』と説明したら、店員が「そんな作品、ないんですけど?」とか
言ってきやがったという……w。ま、ちょっとばかり注意が必要かもしれない)。

で、肝心の小説版『閃光』の感想である。
いま、久々に「スゴイものを読んだなぁ……」という満足感だけが、ある。
ハッキリ言って、この小説は“アタリ”だ。
文庫版ながら、実に「600ページ超(!)」という大ボリュームなのだが、
この本は、がんばって読むだけの価値があると思う。

ご存知の方も多いかと思うが、本書『閃光』は、
かの有名な“3億円事件”を題材にしつつ、事件の裏側に存在していたかもしれない
「もう1つの真相」を描く、ノンフィクション風味の“フィクション”である
(要するに「ドキュメント的手法を利用した創作小説」ってことですネ!)
ちなみに、“3億円事件”そのものについて「あまり知らない」という人は、
こちらのサイトをご覧いただくと、事件の概要がつかめるかもしれない。
(ま、「おいおい、ルパン3世かよ!」とツッコミたくなるくらい鮮やかでスマートな、
犯罪史上に残る世紀の大事件、それが“3億円事件”だったと、そういうことである)。

ここで一応、話を分かりやすくするため、本書『閃光』の概略だけ、
下記に説明しておく(ま、ネタバレしない程度に書きますんで……)。


<小説版『閃光』あらすじ>
都内で発見された、男性の他殺体。
捜査に投入された老刑事・滝口は、被害者の男性と
あの“3億円事件”の、奇妙な接点に気づく。
実は、滝口自身がかつて“3億円事件”の捜査に従事した
過去を持っており、当時経験した「ある出来事」は、
その後の滝口の生き方自体に、大きく影響しているのであった。

みずからの過去に決着をつけるべく、
相棒に選ばれた若手刑事・片桐とともに、
すでに時効となっている“3億円事件”を、
独自に調べ始める滝口。地道な捜査は、
世に言う“3億円事件”の、知られざる真相に迫っていく。
しかし、戦後最大のミステリーの深部には、
触れてはならないタブーが隠されていた。
そして、滝口の執念が“禁じられた扉”を開いたとき、
“3億円事件”に関係した人間たちの運命が、大きく転回し始める。
世紀の完全犯罪の裏側に隠されていた真相とは、いったい何なのか……!?


とまぁ、本書『閃光』のストーリーは、だいたい上記のような感じだ。
それにしても、「もと週刊誌記者」という経歴をもつ作者=
永瀬隼介は、なかなかニクイ仕事をしてくれたものである。

あの「“3億円事件”の真相を暴く!」と言いつつ、本書で展開される
事件の大筋は、“3億円事件”に関するノンフィクションを
読んだことのある人にとってはお馴染みの“例のパターン”だったりする。
要するに、キーワードで書けば
「白バイ警官の息子」「事件直後の謎の自殺」「警察の体面」……etc.である。
ハッキリ言ってしまえば、そこに意外性は、ない。

私の場合も、ここらへんを読んだ段階では
「なんだよ、“事件の真相を暴く!”とか大きなこと言っておいて、
この程度かよ……!!」な~んて思ったものである。
ところが、ところが……。
実は、そんなものは「単なるネタフリ」。
作者である永瀬隼介は、その奥に「さらなる“仕掛け”」を施しているのであった。
これには正直、「やられた!」と思いましたね。う~ん、お見事!(笑)。

とにかくストーリー上、「ちょっと想像もしなかったような人間」が
物語のカギを握るのだ。それは、事件の犯人でも警察関係者でもなく、
もちろん「あの少年の父親」ですら、なかったりする。
(ま、実を言うと「あの少年の父親」も、物語上で
大きな役割を演じることになるんですけど、ね……w)
これまで、まったく意識されていなかった、
しかし、まぎれもない事件の“当事者”……。
この大胆な手法には、「う~ん、その手があったか!」と思わされたものである。


ちなみに書くと、本書のタイトル『閃光』は、
はげしい豪雨が降っていた“3億円事件”発生の瞬間、
現金輸送車強奪の現場で閃いたという“冬の雷光”にちなんだもの。
要するに、奪った者&奪われた者、両者が
「その瞬間に」閃光に照らし出されていたと、そういうことである。
そして、それぞれの運命を大きく変えることになる“閃光”は、
奪った者&奪われた者だけでなく、「追いかけた者」の姿をも、
鮮やかに、そして残酷に映し出す……。
すべての関係者が等しく“閃光”を浴びたとき、
それぞれの運命が、大きく、そして取り返しのつかない
方向に変わった……。つまりは、そういうことなのであろう。


それにしても……である。
本書『閃光』の中に、当の“3億円事件”犯人の、こんなセリフが出てくる。

「結局、あとの人生は燃え滓だけ。なにをやっても、見ても、
感動も興奮もできない虚無の中を、わたしは無為に漂ってきた」……。

(『閃光』(角川文庫版) 508ページより)

どうであろうか? 世紀の完全犯罪を成し遂げ、
とんでもない大金を手に入れた人間の、おそろしいまでの孤独、そして虚無……。
おそらく、犯人である“彼”(そして、彼女)の人生は、
あの“閃光”を浴びた瞬間に絶頂を迎え、その後の人生は
ながいながい、退屈な余生に過ぎなかったということなのだろう。

とにかく、事件というよりも、人生を考えさせる、すごい本だった。
前述したとおり、「600ページ超(!)」という長い作品だが、
こいつは、ぜひともご一読いただきたい。マジ、おすすめ!

PS.
ちなみに、劇場映画版『ロストクライム -閃光-』も、一応観てきた。
観てきたんだけど、アレはなぁ……あの「終わり方」は……。
ま、原作だけ読んどけばオッケーかと。そのように思いますです、ハイ(笑)。


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