このところ、わりと時間に余裕のある生活が続いており、
連日“読書三昧”という幸せな日々を送ってたりする(う~ん、素晴らしい!)。
……というわけなので、これから何回かに分けて、
ここ最近に読んだ本の感想など、書いていくこととしたい。
で、まずは第一弾。
『オカルトゼネコン 富田林組(とんだばやしぐみ)』(蒲原二郎・著、産業編集センター・刊)。
この本、“第10回ボイルドエッグズ新人賞受賞作”というキャッチコピーで分かるとおり、
ぶっちゃけ、あまり知名度の高くない新人作家=蒲原二郎のデビュー作である。
帯のキャッチコピーにあるとおり「リーマン・ショック小説」という触れ込みだが、
もちろん、エリート・ビジネスマンが主役の国際金融小説……であるワケがない(笑)。
「サラリーマン(=リーマン)が、すごいショックを受ける小説」、それが本書である(なんだよ、そりゃw)。
とにかく本書の場合、設定が素晴らしい。
舞台は、あの“大林組”を彷彿とさせる架空の大手ゼネコン“富田林組”。
厳しい就職氷河期を乗り越え、みごと富田林組に入社した
新人サラリーマン“田中たもつ”が主人公である。
この主人公、とにかくトンデモないダメ人間(Fランク校として知られる
私立パンゲア大学卒業!)で、このご時勢に
天下の大手ゼネコンに入社できたのは「まさに奇跡!」と、自分でも考えている。
しかし当然、それにはワケがあった。
大手ゼネコン“富田林組”には、知られざる「裏の業務」が存在しており、
その「富田林組の裏稼業」要員として特別に採用されたのが、田中たもつだったのである。
……で、のっけからネタバレなのだが、この「富田林組の裏稼業」が、最高にイカす!
日本古来から存在してきた悪神、魑魅魍魎、妖怪などなど、
要するに「オカルト方面のオッカナイ連中」を、
現代のテクノロジーを駆使して封じ込めるのが、富田林組の裏稼業なのだ。
(言ってみれば“オカルト版・公共事業”みたいなもんである・笑)。
もちろん、筋金入りの悪霊&怨霊が相手の業務だけに、仕事はいつでも「命がけ」。
そんなワケで富田林組では、絶対に世間に知られてはいけない“裏の業務”のため、
「いつ死んでも惜しくないような」使い捨ての人材を特別に採用しており、
今回、その貧乏クジを引いたのが「我らが田中たもつ君だった」と、そういうわけである。
(サラリーマンとして入社して初めて真相を知らされたので、
文字通り“田中君、リーマン・ショ~ック!”……と、そういうワケだw。
「神様仏様、俺を、俺をこの会社からリストラしてくれ~!」という田中君の叫びが、笑える)。
それにしても、国からの依頼を受け、大手ゼネコンが業務として
「悪霊を退治する」……このアイディアは、なかなかに秀逸だと思う。
ま、このテの路線がお好きな人の中には、ヒューゴー賞を受賞している
チャールズ・ストロスの小説『残虐行為記録保管所』を思い浮かべた方もいるかもしれない。
ストロスの小説では、異次元世界から、ひそかに
この世界への侵攻を狙っている侵入者(要するに“クトゥルー”ご一行様)を、
英国のパッとしない国家公務員が「税金と魔術(!)を駆使して」阻止しようと悪戦苦闘していた。
その意味で、本書『富田林組』は、かなりの部分で『残虐行為記録保管所』と重なる部分がある。
ただ、今回の『富田林組』の場合、なんといっても“大手ゼネコン”という切り口が
最高にクールで、独自の魅力を生み出すことに成功しているといってよい。
たとえば、山の中に無意味に築かれている“巨大ダム”……。
どう考えても「単なる税金のムダ」にしか見えない巨大ダムが、
実は「古来から存在してきた“巨大な竜神”を鎮めるために作られた祠」だったりするのだ(!)。
ここらへん、どうして裏稼業に従事する企業が「大手ゼネコンなのか」、
そこらへんを非常に上手に説明していて、素直に「うまいな~!」と思う。
悪霊&怨霊その他もろもろ、全部「コンクリートで固めちゃって、一件落着」というわけだw。
(巨大建造物を作るゼネコンが、実は裏で「○○していた!」……なんて、ちょっとワクワクするよね)
もちろん、危険な“悪霊退治”に従事する見返りとして、
富田林組は、オイシイ公共事業でウハウハ! ……と、このあたりの「いかにも」な感じも面白いw。
ただ、本書の場合……。
設定に素晴らしいセンスが光る反面、いかにも“新人”の小説らしく、
荒削りなところが多いのも、事実だったりする。
たとえば、主人公の“田中たもつ”。
この男、どう考えても「トンデモ」人物だったハズなのに、
物語の終盤には「すっかりイイ人」になってたりして、
もう、人物設定がメチャクチャなのだ。
それも「数々の修羅場を乗り越えたことにより、人間的に成長した」
……という感じではなく、なんだか唐突に「オトナになっちゃう」という……(笑)。
ここらへんのご都合主義は、いかにも「新人のデビュー作!」という感じで、
正直、もう少し何とかならなかったかなぁ……という気がする。
(ま、これについては「担当編集者、もう少し仕事しろよ! 」って話でもあるが・笑)。
また、全体的に「コメディ・タッチのテイスト」でまとめられているわりに、
肝心のギャグが上滑り気味なのも、気になるところ。
(ま、これについても「担当編集者、もう少し仕事しろよ! 」という話で……以下略)。
とはいえ、まずは何より本書の場合、
“オカルト・ゼネコン”という抜群の設定を生み出した段階で、
もう「すべてが許せる」……そんな感じかもしれない。
それくらい、この“オカルト版・公共事業”という概念は秀逸だと思う。
この基本設定だけで、ほんとにいろいろな物語が考えられそうだ。
とにかく、作者である“蒲原二郎”には、
さらにパワーアップした上で、ぜひとも本書をシリーズ化していただきたい。
(なんたって、日本各地に「オッカナイ話」は星の数ほど
存在しているわけで、ネタには決して不自由しないハズなのだから……)。
そんなこんなで、あまり深く考えることなく楽しむには最適の一冊。
興味のある方は、ぜひご一読を……!!
PS.
あと、本書の大きな魅力となっているのが、本の装丁である。
カット写真を見てもらえば分かるが、全体のつくりが、
ポプラ社の往年の“児童名作全集”とか、あのへんの本の“パロディ”となっているのだw。
内容のバカバカしさと考え合わせると、この作りって、なかなかに洒落てると思うなぁ……。