そういえば、むかし僕がまだ高校生だったころ。
恋愛につまづいて、自分が嫌いで、何かになりたくて、父さんにたずねた。
ねえ、父さん、僕は豊川悦司になりたいんだよ。
あんな風に背が高くて、クールな指の男になりたい。
しばらく考えて、父さんはゆっくりこう言った。
僕にはその豊川なんとかはわからないけど、それについて言えることは一つだけ。
努力してたどり着けないものに、憧れてはいけない。
僕は 僕がなれるものにしか憧れない。
そんな、言葉がふとした瞬間に頭をよぎる。
ともすると人は、何にでもなれるような夢想をしてしまうけれど、
自分自身の肉体から逃れることはできない。
そうした苦しさが、あっさりと切り捨てられたことが、
当時の僕にはとても小気味良かったように思う。
さて、そんな回想をしたのも、ベックがあまりに格好いいからでして、
親父の小言を思い浮かべつつも、
ああ、こんな男になれたらななんて思ってしまう 秋の空。