在イタリア、ソムリエワインノートとイタリア映画評論、他つれづれ appunti di degustazione

ソムリエ 20年、イタリアワインのテイスティングノートと、なぜか突然のイタリア映画評論、日本酒、日本茶、突然アートも

Bella e perduta di Pietro Marcello イタリア映画 イタリアの失われた美

2016-01-21 20:36:13 | 何故か突然イタリア映画
Bella e perduta イタリアの失われた美
監督 ピエトロ・マルチェッロ

イタリアの美しい歌



今まで見た(この上映会という意味)映画の中でも、最もと言ってもいいほど不思議な映画だった。見ていて、うーん、難しい。。。と思った。しかし、印象はとてもいい。
淡い色合い、おそらくバッハだろうか(いや、違うかも)、流れる音楽、情景、これらが、まるで詩のような雰囲気を醸し出している。
映画のあらすじは、事前に読んでいて、役に立つような立たないような。。。
オペラやバレエはあらすじを知らなければ読んで行くにこしたことはないが、映画の場合は、読んでいても読んでいなくてもあまり変わらないことも(実は多々)あるものだと思った。

映画のカテゴリーはドキュメンタリー。しかし、プルチネッラが登場??
プルチネッラは、イタリアのコメディア・デッラルテCommedia dell’arte(即興喜劇とでも言えるか?)の人気役柄の一つで、ナポリを代表する。(そこで、ナポリに行くと、お土産屋でプルチネッラ関連のものが巷に多数見られる)鷲鼻に白い服をきて、白い帽子を被り、仮面は黒。愚かで騙されやすく、ちょっと意地悪だったり、おどけたような、悲しみを含んだような面もある。

ドキュメンタリーというのは、本当に実在した人物のストーリーが元になっているかららしい。
私は知らなかったが、その死はニュースで報道されたので、知っている人はいたと思う。

さて、ローマからナポリへ行く手前に、ヴェルサイユ宮殿を真似して造ったという壮大なカセルタ王宮というのがある。今では世界遺産になっているので、日本人も多く訪れるようになった。18世紀の、ナポリが王国だった時代の壮大な建物で、当時建てられた王宮は他にもまだある。そのうちの一つが、カセルタ王宮からさほどの距離でないところにあるカルディテッロの王宮である。
カセルタ王宮とは対照的に、完全に放置され、周辺はナポリのヤクザ、カモッラ達による違法なゴミ捨て場と化していた。
その変わり果てた王宮を完全にボランティアで守っていたのが羊飼いのトマソ・チェストローネという人物で「カルディテッロの天使」と呼ばれ、動物たちを飼って暮らしていたらしい。が、2013年のクリスマスの夜、48歳、若くして、突然、心臓発作で天に召された。
そのトマソが守り抜いたカルディテッロの王宮の話を、まるで詩のように、語りかける童話のように作ったのがこの映画。

トマソは、生前、殺される運命のオスの水牛を救って飼っていた。
オスは、種牛として生かされる運命にあるのは一握りで(何度か水牛を見学に行ったことがあるが、確かメス200頭に対してオス1頭程度だったと思う)、あとはすぐに殺されてしまう。監督曰く、普通の牛は成長が早いので肉にもなるが、水牛は成長するまでに数年かかるので生かすこともしないのだそうだ。
さて、そのトマソが救った水牛サルキアポーネは話ができる。
突然逝ってしまったトマソ亡き後、彼の優しい心をたたえ、水牛を引き受けたのがプルチネッラ。水牛を連れて旅に出る。

トマソの実際の生涯、カモッラがどれだけ土地を虫喰っているか、ナポリを代表するプルチネッラ、おとぎ話のような話のできる水牛、これらが、複雑に絡み合ってストーリーが作られている。

さて、映画がとにかく難しかったのにはもう一つ訳がある。
最後まで見れなかったのである。(涙)
なにせ私的な上映会なので、時々というか、まあまあ頻繁に(笑)機械の故障が起こる。正式に手に入れているディスクであるが、ディスクに問題がある場合もあるだろう。(ちゃんと動作を確かめたと監督自身が言うにもかかわらず。ここはイタリア。。。)
小一時間で調子が悪くなり始め、ぶつっと途切れてしまった。
早送りで、もう一度最初から。(この時、ちょうどいい復習になる、と言った人がいて、難しいのは私だけではないと少しだけ、ほっ)
そして、なんとか続きを見ていたところ、また、途切れてしまった。
ここで断念。15分程度だろうか、残りのストーリーは監督自身に話してもらったのである。(モレッティの映画も最後の5分で途切れ、不本意だったようだが、監督自身に話してもらった。。。)

最後は、恋をしたプルチネッラが、生身の人間(と言っていいのか?)になり、仮面を取る。すると、水牛の言葉を理解することができなくなり、サルキアポーネはされてしまうということらしい。

監督はカセルタ、つまり、カルディテッロの王宮のあるあたりの出身。長編のドキュメンタリーを多く手がけているらしく、30代で、若いが賞も取っている。
お金はなくてもいいが自由が欲しい、と言い切ったが、これからも意欲的に作品を作ると思う。
笑ったのが、画面全体の色が淡い感じで、雰囲気が出ていて良かった、という話に、それは期限切れのフィルムを使ったから、という回答。古いフィルムを使うとこんな感じになるんだよー、と。(笑)
制作費はかなり安いが、この作品の評価は非常に高い。
なお、トマソ亡き後、運度があって、現在王宮は国の財産となったそう。

Comuni nel vino コムーネ・ネル・ヴィーノ

2016-01-21 20:16:02 | Campania カンパーニア
Comuni nel vino コムーニ・ネル・ヴィーノ
Stefania Barbot
De'Gaeta
RaRo



まずは大変素晴らしいオーガナイスに久々に、ほう、と思った。
何をするにも時間は過ぎる。そこで、忙しいか忙しくないか、自ら進んでかそうでないか、そこに支払いが生じているか生じていないかなど別にしても1日の幾らかの時間を割いいているわけである。その時間を気持ちよく過ごせるかそうでないか。さらにその時間が有意義であればなお良いが、気持ちの良い時間を過ごせないと悲しく思う。
今回の、ヴィンチェンツォ・メルクーリオ氏と非常に素晴らしい女性であるモニカのオーガナイズによる試飲会は、それは気持ちの良いものだった。



ゆったり空間の取られている部屋にはすでにきちんと全てが揃っていた。
各テーブルにファイルが置かれ、とてもオシャレだったのは、各テーブルでファイルの色が変えてあること。一体何色あっただろうか。中にはきちんとファイルされたインフォメーション、メモ用紙、ボールペンがきれいに入っていた。日本では当たり前かもしれないが、イタリアの試飲会でこれだけこまやかな心使いがあるのは非常に珍しい。
グラスもきちんと置かれ、シートにはちゃんとワインの名前、ヴィンテージが印刷され、ワンプレートが出ることになっているので、ナイフ、フォークもナフキンに綺麗に包まれてセットされていた。
パンまでが非常に綺麗に並べてある。
高級レストランに行くわけでもなく、招待された一試飲会なのであるが、完璧とも言えるサービスは、久々に心から気持ちが良かった。

実は少し前のある試飲会で、全く逆の経験をした。
決して安くはない試飲会なのだが、黒い紙のテーブルクロスはホテルのものなので仕方ないとして、グラスの下に敷かれているシートは赤い紙の市販品で、これではワインの色も見れない。しばらくして白い紙ナフキンが数枚あるのに気がついたが、人のところまで手を伸ばさないと取れない。
グラスに注ぐワインも、右に注ぐ人がいるかと思うと左の人もいて、どのワインがどうとかこうとか、オーガナイズしている人が声を張り上げている。
当然紙の1枚も、ペンの1本もなく、自分で紙を持ってきていなければメモも取れない。
せめて、グラスの下のシートくらい赤ではなく白いものを用意してくれれば、メモ用紙がなくても直接書き込めるのに。
タダならともかく。。。。と、かなり気持ちの良くない試飲会であった。


さて、試飲会は「コムーニ・ネル・ヴィーノComuni nel vino」という名の醸造家ヴィンチェンツォ・メルクーリオ氏率いるグループのローマでの初のお披露目会だった。
南のバローロとも言われるアリアニコを使ったワイン「タウラージ」を生産している地域が、カンパーニア州はイルピーニアにある。ちなみにタウラージはDOCGである。
ちょっとややこしいのだが、イルピーニアDOPの中に「カンピ・タウラジー二」という名称の地域限定のワインがあり、今回はそのワインに焦点を当ててのお披露目。

同じイルピーニアの地域の中ではあるが、3つの別なコムーネ(町)の3つのワイナリーが一緒になってグループを作り、メルクーリオ氏に率いられて、一つの製造所で、テリトリーの違い、テロワールの違いを反映しながらワインを造る。数千本からせいぜい1万本を超えるかという生産者にとって、それぞれが別々に施設を持つより、一つの施設で共同で造る方が良いという判断である。刺激しあい、情報交換もできるので、確かに結果を生むと思う。
3つのワイナリーはどれもまだ若い。また全て現在ビオに転換中である。

Stefania Barbot は、グループの中で紅1点。パテルノポリで、夫婦でワインを造っている。標高は420-465mと結構高い。50年以上の樹齢のぶどう畑を徐々に新しく改良している。

De’Gaeta は、兄弟の経営で、カステルヴェテレ・スル・カローレ。490mの標高とかなり高い。2ヘクタールと畑は小さく、2009年から始動、2012年の畑もあり、まだワイナリー、畑ともかなり若い。

RaRo は、30年来の友人の二人が始めた、一人はカンパーニア州でワイナリーを持っているファミリーの一員、もう一人はソムリエ。モンテマラーノで、標高はさらに高く、645mにもなる。

それぞれのカンピ・タウラジーニの2013年とアンテプリマで2014年、合計6種を試飲。
Raro Irpinia Campi Taurasini  アリアニコ 100% ステンレスタンクでの発酵と熟成。
De’Gaeta Irpinia Campi Taurasini  アリアニコ 100% 1本あたり1,1kgというかなり少量の収穫。21日の長いマセレーション。2013年はトノー、2014年はステンレスでの発酵。熟成はステンレスで12ヶ月。
Stefania Barbot Irpinia Campi Taurasini ION アリアニコ 100% マセレーションは20日。発酵、熟成ともステンレス。

あいにく風邪をひいていて、香りはかなり困難で残念。
色は、ラーロのものがわずかだけ薄めだが、どれもかなり濃いしっかりした、深みのある色合い。ラーロのものが一番シンプルで飲みやすく、デ・ガエータのものはフレッシュさがある上、タンニンがしっかりしていてインパクトが強く、フィニッシュにはタンニンの渋みが残る。バルボットのものは、タンニンがしっかりしているが丸みを帯びていて、非常にバランスが良い。
同じ醸造家の指導の元に同じように造っているというものの、やはり違うテロワール、「コムーネ」が反映され、三者三様。どのワイナリーもまだ若く、ぶどうの木も大半が若く、徐々に安定した生産ができるようになってくるとさらに乗ってくるように思う。

ワンプレートもホテルのレストランのシェフが腕をふるったもので、大変美味。