こんな本を読みました

気ままで偏りのある読書忘備録。冒頭の文章は、読んだ本からの引用です。

『江戸情話集』『三浦老人昔話』(岡本綺堂)

2016-01-15 | 近代小説
仏壇の花生けには蓮の花が供えてあった。綾衣はそのひと枝を押し戴いてとって、
重なり合った花びらをしずかにむしり取ると、匂いのある白い花は彼女の袖に触れ
てほろほろとこぼれて、うす暗い畳の上に雪を敷いた。
 外記は無言で笑った。
(『江戸情話集』箕輪心中より)


 ちょっと引用が長いけど、破滅の予感で胸がぎゅーっと苦しくなる一節をそのまま。
 今年は真面目に…と思いつつ、すっかり遅くなってしまって同時2冊。これはこれでいいのだ。ブック
オフの新春セールで、この2冊買って400円ちょっと!という自慢も一緒にしたかったから。
 ということで、2016年一発目は岡本綺堂。おもろうてやがて哀しき江戸の人々のさまざまな逸話が、
三浦老人のしみじみと丁寧な口調で、あるいはしっとりと端正な地の文章で語られる。装飾ではなく情景
に情感のこもる美文にうっとりとしながら読み進むのは、実に心やすまるひとときだった。まあ、決して
明るくなれる話ではないし新年にはあまりふさわしくないかもしれないが。
 それぞれの話に引きがあり、淡々としつつ深い余韻を残して終わる人間譚。ひとくちに感想を語るのは
難しいが、いちばん心に残ったのはこの時代の人々の「覚悟」かな。なんでも腹切っておさめようとする
な!という「ちょ、待てよ」感はあるけれど。・・・綺堂の名文の感想にこんな駄文を綴る自分が何より
悲しくなったのでこれにて。


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