こんな本を読みました

気ままで偏りのある読書忘備録。冒頭の文章は、読んだ本からの引用です。

『地図を燃やす』(沢木耕太郎)

2018-01-18 | ルポ・エッセイ
二十代の私には、やはりすべてが可能だという幻想があった。地図が見える
未来がやってくるなどということを信じてはいなかった。


 二十代半ばの沢木氏が、三十代後半の小澤征爾にインタビューした時のエピソード。小澤は「三十までは
なんでもできると思っている。ところが三十すぎると自分に可能なことが、地図のようにはっきり見えてく
るんですよ」と語り、当時の沢木氏はその言葉を面白がる。なにせ、地図を持たずに世界を放浪する沢木だ
ったから。しかし、いざ自分が三十を過ぎてみて、その言葉が生々しく実感されてくるのだ。この短いエッ
セイは、「脳裏に浮かぶ地図を、どうしたら燃やし尽くせるのだろう」と締めくくられている。
 約四半世紀ぶりに再読。思えば、当時私も二十代だった。きっかけははっきり覚えている。勤めていた会
社で課されていた朝礼スピーチで後輩がこの話をして、とても印象に残り、即座に本を手にしたのだ。「地
図を燃やす生き方って、かっこええやん」。確かに、なんだってできると信じていた時代だった。社会にも
まだまだ勢いがあったし自分も調子に乗っていたし(?)。それが、いつごろから?気がつけばぼんやりと
ではあるが地図をなぞるように生きているぞ。すでに人生を折り返し、もう冒険はできないというあきらめ
があり、なんとか平穏に日々を過ごしていければという妥協があり。挙句、地図が描けるだけでもラッキー
じゃないの?自分で燃やすどころでなく、無意識でなくしたり破けたりしちゃってるほうが怖いよ!という
のが辛い現実だったりもする。ああ、なんて夢のない。それでも、今よりはるかにがむしゃらだった若き日
々を思い出し、喝を入れられた気分。現在七十歳を越えた沢木氏はどう思うのか聞きたい。
 再読しようと思ったきっかけは、新年早々に見た夢にある。手放して5年がたった、楽しい思い出がつま
ったマンションにしのびこんで、あれこれ取り戻そうと画策しているさなか、火事を出してしまうというと
んでもない悪夢。「不法侵入の上、出火!どうしよう、もう犯罪者や〜新聞に名前でるやん」とパニックに
なったところで目が覚めたのだけど・・・まずは過去への執着を捨てろ、過去を燃やせということだなと思
った時に、この表題を思い出した次第。処分しないでおいてよかった。
 とらわれてはいけない過去と同時に、やはりいくつになっても決めつけてはいけない未来がある。(計画
と蓄えは大前提だけど)
 明日は何ができるだろうと、生を終える瞬間までワクワクできる生き方がしたいと、あらためて思った。