こんな本を読みました

気ままで偏りのある読書忘備録。冒頭の文章は、読んだ本からの引用です。

『E.A.ポー』(エドガー・アラン・ポー)

2016-09-09 | ミステリー、ファンタジー
ぼくたちはそれから、腕を組み合って通りに散歩に出かけ、その日の話題について
語りつづけたり、遅くまで遠歩きしたりして、ただあの静かな観察のみがあたえて
くれる無限の精神的興奮を、人口稠密な都会の、凶暴な光と影のなかに求めたので
ある。
(『モルグ街の殺人』)


 詩からゴシックホラー、ミステリーまで全20編、ポーを堪能する1冊。日本人にことのほか愛された
作家であり推理小説というジャンルをはじめて打ち立てた人でもあり・・・要はこの帯のとおり「すべて
の原点にポーがいる」ということをあらためて認識する一冊である。
 大昔に『黒猫』『モルグ街〜』はじめ、代表作をいくつか読んだが、ほとんど内容は忘れていた。モル
グ街なんかえっそんなオチ?だし、やたらと長い『アーサー・ゴードン・ピムの冒険』は荒唐無稽でその
ギリギリな感じは筒井康隆のスラップスティックを彷彿とさせる。しかし、オールOK、なぜなら「原点」
だから。ポーの前に道はなく、すべては彼が独自に築き上げたものという事実を知ると、ただ愕然とする
しかない。また、文体が、仰々しくも実に重厚で端麗。ちなみに引用の訳は丸谷才一先生。あとがきによ
ると歴代の訳者には錚々たる文学者の名が並ぶ。乱歩はもちろん、鴎外、谷崎…小林秀雄や福永武彦まで!
(福永武彦訳のポー、読みたい!)本書のなかには桜庭一樹による「翻案」も含まれていて、さすがにわ
かりやすく読みやすいのだが、やや軽妙さに違和感。やっぱりポーは重く毒々しくなくちゃ!と思ってし
まうのだ。私が求めるポーの真骨頂は『アッシャー家の崩壊』かな。閉ざされた空間の濃密な気配、来る
ぞ来るぞというゾクゾク感がたまらない。その意味で、引用したモルグ街の一文も、これから起こること
への期待感と、腐女子的萌え要素が入り混じって、今読んでも実に新鮮だった。オチも含めてな。(だか
らオチって言うなって?)
 でも、たぶん読む人によって、好みははっきりと分かれるだろうし、だからこその根強い人気なのだろ
うな。いや〜、やっぱり古典はいい。この「ポケットマスターピース」シリーズ、ほかにもいろんな作家
がピックアップされていて、カフカやルイス・キャロルにも興味津々。買っちゃうかも。最近図書館にい
く時間がないので、どんどん本が増えてしまうのが問題〜