うな風呂

やる気のない非モテの備忘録

作家の肖像  栗本薫・中島梓   うな

2009年01月07日 | 栗本薫
作家の肖像
中島 梓,栗本 薫
講談社





栗本薫・中島梓が雑誌や他人の本の巻末で書いた解説などを一冊にまとめたもの。
芸風は大体3パターンにわけられる。

1.評論家ヅラして小難しいことをがんばって云っているもの
2.「~~さん好きなんです~」という完全なるファントーク
3.ファントークかと思いきや、気がついたらいつの間にか評論めいているもの。

1は『道化師と神』の項で散々こき下ろしたように、そもそも梓に評論家は無理。
一般的な評に逆らってやろう、という気持ちが先行しすぎて、なにいいたいのかわからんのがほとんど。論自体がピンぼけしているのも多い。

2は、素直にファンなんだなあ、という感じで微笑ましい。およそ解説にはなっていないが、作品や作家が楽しそうに見えてくるので、とても良いことだ。

3は、梓の真骨頂。のちに『わが心のフラッシュマン』などに結実する、駄話を聞いているうちに勉強になったような気になってしまうという、梓ならではの芸風。
いわばこのハーフ評論こそが、中島梓独自にして最適な語り口。

五木寛之論は1。
カッコイイと思いながらカッコよさそうなことをやるのはカッコ悪いことだが、それを承知のうえでなおカッコイイことをやる五木寛之はやっぱりカッコイイ、というどうでもいいことをぐねぐねと語っている。

野坂昭如論は1。
結局最後に引用された筒井康隆の一文「黒メガネをかけた、あまりうまくない新人歌手がいる。この歌手がたまたま書いた小説を読んだが、まことに面白かった。本業よりもうまいくらいだ」をまずい言葉で言い直しているだけだ。

筒井康隆論は1と2。
本人も云っているとおり、論が固まっていないため、支離滅裂。
『男たちのかいた絵』の解説は2のファントークになっているため良い。
ただ、筒井先生もきっとヤクザ映画が好きなんだろうって、筒井先生が役者くずれだって知らんかったのか、梓は。

星新一論、小松左京論、光瀬龍論は3。
『道化師と神』よりよっぽとまともでもあれば面白いことを云っている。なによりご三方の本が読みたくなる。つうか光瀬龍は読もう。

矢野徹、田中光二、赤川次郎、阿久悠、池波正太郎は2。
作品に対してというよりか、ときたま作者への勝手な思慕がにじみ出ていて可愛らしい。
特に池波正太郎作品への「ご飯おいしそうだから最高!」という言は最高に無邪気でいい。自分を「食いたしんぼ」(自分の許容量よりも食べだがり、腹いっぱいでも未練がましく口に物入れて舌で味わいたがる人種らしい)と云っているし。実に云いえて妙。

林真理子、小泉喜美子、佐藤愛子、田辺聖子は2。
勝手に女学校の先輩後輩みたいな気持ちを抱いて気安く接している頭の弱そうな感じが可愛らしい。

都築道夫、鮎川哲也、横溝正史、江戸川乱歩へはなぜか1。
都築道夫へは、オリジナリティを追求しないから色々やるし、だからこそその形式でなにが読者の気持ちをとらえているかを理解している、という、それお前の勝手な親近感だろという論を展開。
横溝正史には「正史世界は母が云々」とぶっていたが、なんかピンぼけ。
正史ワールドの基本は「人間関係は狭ければ狭いほどこじれた時に陰惨になる」というだけの話だと思うので、薫の論は牽強付会に過ぎる。

まったく余談だが、そういえば薫はミステリーにおいて、トリックが暴かれる瞬間のカタルシスをまったく重視しない、というか味わったこともないようだ。
自分的にはミステリーの一方の楽しみとは、犯人という芸術家によって築かれた比類のない幻想が、名探偵という破壊者によって他愛のない現実へと落ちてくる、その瞬間のカタルシスにある。
そしてまた、破壊者でありながら、だからこそ名探偵こそが犯人の芸術をもっとも理解しているという奇妙な共犯関係こそが、あの世界を彩るいかがわしさの本質だ。
薫はミステリーにおいて、そういったいかがわしさはあまり感じなかったのかな?
栗本ミステリーの色気のなさは伊集院大介の性格によるものかと思っていたが、どうも薫の読者体験の偏りによるもののような気がしてきた。

太宰治には2で、昔かぶれていたけど、あとで三島の方に傾倒したし、いまとなっては太宰ちゃんかわいいよね、という感じで、いずれにせよ、太宰は女心をくすぐるのだなあ、と感心した。

埴谷雄嵩には1で、SF論をぶっていた。
全体的に。寝言なので読み飛ばした。


時々、一人称が「ぼく」で書かれている論があるが、それは総じて出来が悪い。
ぼくはオタクなので痛い「ボク女」がけっこう嫌いではない。
だが薫、てめーはダメだ。
だってなんか板についてないし。

総じて、やはり薫は評論家ではなく、よくしゃべる一ファンなんだな、と思った。
その立場でいる間は、薫は非常に輝いている。
言葉の端々からさまざまな本への愛がうかがえるし、なにより読書量がマジパネェ。
これがのちに解説を受けた本すら読まなくなるというのだから、月日というのはおそろしいものだ……




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