700系のぞみ155号での珍の席は指定席、2人掛けの窓側。ホームで買ったミネラル水のペットボトルを持って、列車到着とともに乗り込んだ珍は、すぐに席を見つけ、読みかけの宮部みゆき「模倣犯」第3巻とペットボトル以外の荷物を棚に置き、座席に腰かけた。
座席のもう一方の主はなかなか現れなかったが、まあどうせ出張帰りのオッサンやろし、大して気にも留めず眠気が襲うまでの貴重な時間で本を読み始めた。
すると、「東京ばな奈」が覗くおみやげの袋とバッグを抱えた女の子がやってきて、俺の隣に座った。手荷物はそのまま足元に置いた。後から思えばこのとき「お荷物を上げましょうか?」と聞いてあげればよかったと後悔。これを言い出すタイミングは席に着いた瞬間しかない。それも相手が上げないと確信できるその一瞬を逃すともう変態の領域に一歩近づき、2時間半ずっと警戒されてしまう。
さて、彼女はというと位置的に顔はよく見えないし、ましてや顔を覗き込むこともできないが、かなり若そうで上品なブラウンの髪から垣間見えるだけでもかわいい雰囲気が伝わってきた。しかも脱いだコートの下は、細身なのに思いのほかグラマーでかなりのミニスカート。これは僥倖。いや、神が今回の旅で珍に与えた2度目の試練なのか…。荷物を上げなかった後悔を、俺の目の前で両手を万歳状態で荷物を上げる彼女のイメージ画像が打ち消してくれた。ただし、結局荷物は床に置いたのでそれはありえなかったわけだが。
ところが、彼女は脱いだ大きめのコートをささっと膝にかけたので、ミニスカの露出は約2秒ほど。おぇーッ!警戒されたか?そんなはずはないのに…。ちなみにこちらはずっと本を読んでる態勢なので顔は文庫本に向いたままで、目と意識のセンサーを最大効率で左横の彼女に振り向けていた。自信と確信を持って簡単に悟られるはずはない。
のぞみが発車。彼女は前の座席に付いているテーブルを起こした。駅弁でも食べるのかと思ったが、定期入れと携帯電話を置いただけであった。駅弁食べるとこ見たかった…と一瞬思ったが、よくよく考えたら、こんなんされたらこっちがトイレに行くとき困る。ん?待てよ…これは会話のきっかけになる。
「すいません、通していただけますか?」
「あ、すいません」
とトイレに立った振りをして車内販売で飲み物を買ってくる。
「よろしかったらどうぞ」
「あら、ありがとうございます」
「東京へはお仕事ですか?」
「いえ、友だちの結婚式で…。あなたは?」
「はい、仕事のあと一日休みを取って湘南方面へ…」
とか何とか言って、デジカメ画像を見せるという流れ。
ただ、現実の彼女はまず携帯でメールをしだした。送信したら携帯電話はテーブルに。置いても何度も手に取りチェックしていた。その後返事が着信したのかどうか不明だが、またメールをし始めた。イマ風といえばイマ風な女の子ではある。
こちらは本を読んでいたが(センサー効率を高めると、リソース不足で読書効率が下がり同じ行を読んだりして停滞するのだが)、彼女は携帯電話を手放し、コートを少し上に引っ張り上げて、寝る態勢に入った。うひょー、膝が出た。
(つづく)