地元の洋食屋さんなので頑張ってほしいから、あえて今見えるマイナス要素を並べ立ててしまうのですが、テーブルにナプキンがないのもサービス面としては痛いです。デミグラス・ソースやフライ系が多い洋食屋では、食後はもちろん常時口をふける状態であってほしいですね。こういうところは丁寧にしてもらいたいものです。
そのほかにも、BGMの代わりに小型テレビ(店内で見える席は限られるぐらいの小ささ)が天井近くに据えられ、ちょうど吉本新喜劇が放送されていました。これはある意味ご愛嬌ですが、店の雰囲気をオッサン系大衆食堂にしてしまうキラー要素ですよね。
店内の照明が暗いのも惜しいです。美味しいものも暗いと見栄えがしません。ネットクチコミ時代にメニュー画像が増殖することを考えれば、照度を上げるだけで画像の品質も上がり、クチコミを考えたら店の印象は良い方向へ変わり得ます。蛍光灯をパワーアップさせるだけで解決するのでここも丁寧にいってもらいたい部分です。
入りにくい店の雰囲気を醸している外観も問題です。日本特有の技術であるリアルなメニュー見本を並べると、店舗やメニューの独自性・柔軟性が求められる現代では店の品位や魅力を下げる要素になりかねませんが、この店の場合、メニュー見本がなければ洋食屋に見えないという矛盾にも苦しみます。この点も惜しいですね。大衆食堂的雰囲気を残しつつ“街の洋食屋”にアレンジすることで店の印象アップは可能です。まあ、メニュー見本にこだわってあえて“昭和レトロの洋食屋さん”で押すという手法も考えられますが、それなら多少あざとくても、店内に昭和グッズを配置する、クラシカルな洋食メニューにこだわるとかの思い切りが必要ですよね。
店名も考えないといけません。『菊水』というのは和のテイストでいい名前なのですが、コワモテ系のネーミングは女性客に敬遠されかねないですね。店主にどれほどのこだわりがあるかわかりませんが、店のリネーミングは決定的なブランド戦略にもなり得ます。ただ、『菊水』という楠木正成から連綿と続く日本式美的感覚・死生観を体現するネーミングも捨てがたいので、それにこだわるなら、洋食屋としてせめて『KIKUSUI』とか横文字をうまく使うなどの工夫が香里園ブランドとマッチするのですが…。
接客は特に問題はないですが、40代後半に見えるフロア係の女性店員はやや表情に乏しくお世辞にも愛想がいいとはいえません。この部分は大衆食堂が唯一どんな高級な店にも勝てる要素となり得ますが、愛想がよくて愛嬌のあるかわいい店員さん…なんて、たまたまそんな人を雇った…あるいは店主の奥さんがたまたまそんな人だったという、偶然の賜物に期待するしかないですね。
珍が食事を終わり、ここに書いてきたような感想メモを整理していると、くだんの女性店員さんが拒否権なし(笑)とばかりに「相席よろしいでしょうか?」とやってきました。まだ店内半分が空いていたときに入店した珍は四人掛けのテーブルに座っていましたが、気がつけば周りはもはや満席。
珍は「ああ、どうぞ。もう出ますので」と言いながら顔を上げたら、すでにサラリーマンの二人連れが目の前に座っているという状態。ここの常連客同士では、すでに暗黙のルールとして確立されたものなのでしょうが、初めての客が来る機会が増えるであろう雑誌に載った店としては、こういうところは形式的にも客に了解を得てから案内するなどにあらためてほしいところです。
なお、珍は『菊水』の総合評価をまだ行いません。
グルメ評価の珍的要素は、
(1)料理(味・見栄え・コンセプト)
(2)しつらえ(外観・内装・雰囲気)
(3)もてなし(接客・気づかい・会話)
です。さらに洋食屋の場合は(1)が3つに分かれます。
・ハンバーグ
・オムライス
・エビフライ or コロッケ or ビフカツ
の三大王道洋食メニューの評価が加わります。
今回は残念ながらハンバーグでは珍のハートを射ることができませんでしたが、残りで2勝あげれば評価は高まります。そこに期待して、あと1~2回は確実に『菊水』へ行くつもりです。
ほんとはそんなの抜きでゆっくり食べたいですけど…職業病ですね(笑)それに、特に今回の『菊水』は珍にプロデュース、コンサルティングを任してもらったら…と思ってしまうのですが、そういう視点もよくないですね。やっぱり食事は出されたものを楽しむゆとりがあってこそ美味しいのかも。
最後になりましたが、この店だけではないのでしょうが、ランチでそれなりに固定客を掴んで現状に十分だと思ってしまうと、危機感や向上心、欲といったものが希薄になるのでしょうか。ほんの少しの気づきと工夫だけで(変わり過ぎない程度なのが大事)店のグレードアップが図られ、常連客は疎外感なく通い続け、新規客を開拓できると思われるだけに惜しい限りです。これだけは店主の情熱しだいですね。若い息子もいるみたいなので彼にも期待しましょう。
いろいろ書きましたが、これも地元の特徴的洋食屋という、珍的にはぜひ頑張って地域資源、地域ブランドになってもらいたい店なので、愛情、期待の裏返しとしてご容赦いただきたいと思います。
(おわり)