HORSE SENSE を 往く ≫≫

 この道は いつかきたみち

  このみちを また駈ける

   このみちは 心は遠い ・ ・ ・ ・ に

さようならウィッシュボーン

2014年02月02日 | 映画

声優永井一郎さん死去の報を見る 82歳とのこと

永井さんといえば何といつても「ローハイド」のウィッシュボーン
テレビドラマ吹き替え草創期 荒々しさがむんむんの西部劇の中で
食事担当助手マッシーとの珍妙ななやり取りはいつも面白く楽しかつた
のちアニメ「サザエさん」の父波平の吹き替えもやつていたと知つたが
そちらは見ていない

昭和37年エリック・フレミング クリント・イーストウッドとともに
ウィッシュボーンことポール・ブラインガーも来日し その映像や誌面を
見ることができたが 禿げのおやじさん作りの画面とはまつたく異なり
若々しく大柄で また対面した永井さん本人もその声も同じように若々しい
青年であつたことにびつくりした
あれから50数年――さようならウィッシュボーン

『開かずのトランク』

2013年01月25日 | 映画
BS3 <『開かずのトランク』本多猪四郎>より抜く

本多きみへの手紙
「・・・山一つ向ふには王鳳郭の一派が居ると云ふ 朝から雨だつた
途中上等兵が鮮人の若者を銃劍で突き殺す 鮮匪は中々大たんな行動をするらしい
しかし三名は射殺された 秋空のもとでノンビリとこんな記事を書いている
俺も現在の生活になれてしまつたのだ と云つても平気でいられなければ
気でも狂うか自殺でもしなければならない・・・」

親友黒澤明から本多猪四郎への手紙
「・・・実際に戦つている兵隊の苦労はしよせん内地にいちあわかる訳がない
すまんすまんと云うより外はなくそれもまた何か白々しく 結局心の隅の方に
絶えず戦つている兵隊さんのことが良心の呵責のやうに積りつもつて行く・・・」

人間の條件

2011年08月25日 | 映画
  
三一書房新書版(昭和38年2月10日第62刷発行)

8月21日 BS1の映画 「人間の條件」 全6部が終わつた
昭和34年 本州の最西端の田舎町でも 「人間の條件 第一・二部」 が封切された
が その年は錦ちゃんの 「浪花の恋の物語」 に夢中で 本編を観ることはなかつた

その後 昭和37年 連続テレビ映画(ドラマとは言わなかつた)の放映があり
母たちが床に就く頃 ちやぶ台を前にして一人で観た 冒頭のナレーション

『この物語は 戦争という極限状況の中で 自己の良心と生命を守るために
一生を苦しみ続けた男の魂の遍歴の記録である』を いまでもよく覚えている

そして 昭和38年東京勤務となり 当時道玄坂にあつた(と思う)渋谷松竹映劇で
全6部一挙上映ナイトショウがあつた 夜8時過ぎから明け方6時頃まで弁当持参で
何回か通つて観た 日本映画史上最高の戦争映画であり最高のヒューマニズム映画と思ふ
役者もみんなすごく 二度と見られない組み合わせであつた

原作はテレビ放送と同じ頃 三一書房新書版で読んだ いまも手元にある(トップの画像のとおり)
この映画と原作で 戦争といふものの不条理と無慈悲さを知らされ 父や母 祖父母たちが
生きてきた時代と戦争(特に日中戦争 軍隊)について関心を持ち 真剣に考えるきつかけとなつた

ただ 残念なのは このやうな映画(戦争 戦記 特に兵隊モノ)はもう日本では作れないだらう
兵隊をやれる役者がおらず いまの飽食暖衣タレントに初年兵や古兵(二年兵 三年兵 上等兵)
下士官(伍長 兵長 軍曹 曹長 准尉)は無理であらう
そんな面をしたタレントはどこにもいないし もしやつても陳腐になつてしまう
まして帝国陸軍の内務班なんぞできつこなく 大いに不可能

南道郎が生きていたら 『貴様らぁ たるんどる そこに並べぇー』 とか 言うか――

勇気ある追跡 TRUE GRIT

2011年04月21日 | 映画
4月14日 パラマウント映画 「TRUE GRIT」 を観る
先立つて録画済みの昭和44年公開 「勇気ある追跡」 を見ておく
どちらも屈託なくでき良く楽しめた

この二つの映画の大きな違いをいくつか
オリジナルはジョン・ウェイン/ルースター・コクバーンの映画と云え
リメークはヘイリー・スタインフェルド/マティ・ロスの映画といえる
  怜悧で端然としたヘイリー・スタインフェルドも美しい
時代(昭和44年と平成23年)を反映してか片や陽気に こなた追憶のラスト
そのほかウェイン・コクバーンは左隻眼で ブリッジス・コクバーンは右隻眼

馬好きにはワクワク見応えのある場面多し このためにこの映画を見たといえる
ヘイリー・マティの人馬全身水に浸かりながらの渡河
  本来馬は水中は苦手
ライフルと拳銃の二挺を振りかざしながら(手綱を銜えて)のキャンター
  野天をキャンターで御すさえ難しく 手綱を放してはなおさら
  日本人俳優でこれができたのは故三船敏郎だけだらう
  「隠し砦の三悪人」
馬上決闘でコクバーンと馬が怒涛の如く倒れもがくシーンなどなど
  500キロ近くの馬体に敷かれば身動きどころか粉砕骨折如かず

ウェインの馬扱いはさすがナンバーワン
そこに馬が居ないが如く 馬の存在を感じさせないが如く自然に動く
しかしウエィンも晩年
その巨躯に馬も息絶え絶えの態 1分も本当に走ればぶつ倒れるのではと見えた

キム・ダービー/マティと別れを告げ 掛け声もろとも大きく柵越え駆け去るエンディングは圧巻
最高に格好よく見事ッ――
たとえ吹き替えであつても

  
  <若戸大橋>             <東名外環橋と多摩川橋>
昭和44年5月 東名の全線開通式を足柄パーキングエリアで終え 7月北九州若戸大橋に異動となつた
歓迎会二次会で若松本町の或るクラブ行く
ダンスBGMにクールファイブの「長崎は今日も雨だつた」が繰り返し流れていた
カラオケはまだない 酔い覚ましに出ると天空に朱のメインロープが雨にけむつていた
想えばキャバレー クラブの全盛であつた・・・・・・

武士の家計簿

2010年12月22日 | 映画
12月16日 松竹映画 『武士の家計簿』 を観る

原作は朝日Be 『この人その言葉』で馴染みの茨城大准教授
磯田道史著 「武士の家計簿『加賀藩御算用者』の幕末維新」
加賀藩御算用者家の三代にわたる下級武家の年代記
久しく見なかつた斬り合いシーン一切なく刀を抜かない時代劇

物語は明治新政府軍に奉じた三代目伊藤祐輝猪山成之の回想形式で展開
お救い米不正の摘出があるくらいで特別劇的なドラマ大仰な事件はない
御算用者の家庭日々を淡々と追う そこがこの作品の一番の好感
何もないところを描くのはいちばんむつかしい
ただ 『たいじや たいじや たいじや』 は取つてつけた感がなくもない

堺直之の抑制のきいた演技噛みつぶしたやうな表情所作
大躯の仲間駒の体当たりどちらも好印象
特に大八木直之の迎合のない真つ直ぐな演技は
いまどきの子役にめずらしく素晴らしい
おばばさま草笛 信之中村雅俊 常松坂 与三八西村雅彦 みんな良い

顔の極度のアップ 硬さとぎこちなさ感じさせる武家所作も見ず
成瀬作品に通ずる自然な雰囲気を感じさせる
ただ大きなヌボッーとした髷は野暮つたく生活感がない
一体に今のかつらはどうしてあんな大きく長い「一(いち)」をするのか
老若男女みな同じなのはどうしてか リアルさに欠け時代の雰囲気が壊れる
溝口作品をよく見よ
なおタイトルは「武士の・・・」より 『武家の家計簿』 がより相応しいと思ふが如何

Vistaの画面は相変わらず粗くモザイクが気になる 輪郭のやわらかさがない
シネスコ・フィルムが懐かしい

十三人の刺客

2010年08月11日 | 映画
8月10日 映画 『十三人の刺客 』を観る (テレビ朝日・東宝提携作品 試写会 都久志会館)

上映前 役所広司 山田孝之の舞台挨拶とインタビューあり 9月25日全国ロードショー公開
役所はいつものやうにスクリーンも生も変わりなく気さく 山田は初めて見る
それぞれ長崎 鹿児島出身と自己紹介あり
客層は若い女性仲間6割 若年男女2割 高年男女2割といつたところ 若い女性が多い

昭和38年 東映 『十三人の刺客』 のリメーク版
封切も観たが 事前にSVHSビデオで録画保存していたオリジナル版を見なおした
リメーク版で知つている俳優は役所 松方 幸四郎 岸部くらい

<刺客十三人>を比較すると
島田新左衛門(直参旗本):片岡千恵蔵 60歳   :役所広司  54歳
島田新六郎(島田の甥) :里見浩太朗 27歳   :山田孝之  27歳
倉永左平次(与力)   :嵐寛寿郎  60歳   :松方弘樹  68歳
三橋軍太夫(倉永配下) :阿部九州男 53歳   :沢村一樹  43歳
樋口源内(三橋配下)  :加賀邦男  50歳   :石垣佑磨  28歳
堀井弥八(三橋配下)  :汐路章   35歳   :近藤公園  32歳
日置八十吉(倉永配下) :春日俊二  42歳   :高岡蒼甫  28歳
大竹茂助(倉永配下)  :片岡栄二郎 45歳   :六角精児  48歳
石塚利平(倉永配下)  :和崎俊哉  25歳   :波岡一喜  32歳
平山九十郎(島田家食客):西村晃   40歳   :伊原剛志  47歳
佐原平蔵(浪人)    :水島道太郎 51歳   :古田新太  44歳
小倉庄次郎(九十郎の弟子):沢村精四郎 20歳  :窪田正孝  22歳
木賀小弥太(木曽落合宿郷士):山城新伍  25歳 :伊勢谷友介 34歳
 平均年齢              41歳          39歳

千恵蔵御大とアラ寛が60歳で最高齢 最若年は沢村の20歳 精四郎が初々しい
一方 役所54歳とやや若いが 松方68歳と最高齢 いちばん若手が窪田の22歳
平均年齢はそう大差ないがやはり各人の風格がちがう
格式ある武家集団と下郎集団くらいの差か  

そのほか主な役では
松平左兵衛督斉韶(藩主):菅貫太郎  29歳   :稲垣吾郎  37歳
鬼頭半兵衛       :内田良平  39歳   :市村正親  61歳
浅川十太夫       :原田甲子郎 39歳   :光石研   48歳
出口源四郎       :有川正治  ?    :阿部進之介 28歳
間宮図書(江戸家老)  :高松錦之助 ?    :内野聖陽  42歳

土井大炊頭利位(筆頭老中):丹波哲郎   41歳   :平幹二朗  76歳
牧野靭負(木曽上松陣屋詰):月形龍之介  61歳   :松本幸四郎 67歳
牧野妥女         :河原崎長一郎 24歳   :斎藤工   28歳
牧野千世         :三島ゆり子  23歳   :谷村美月  20歳
芸者おえん          :丘さとみ 28歳   :吹石一恵  27歳
加代             :藤純子  18歳
三州屋徳兵衛(木曽落合宿総代):水野浩 ?  :岸部一徳 63歳
ナレーション:芥川隆行 44歳

オリジナルは画面展開 テンポがよく分かりやすい また役者のセリフに切れがあり心地よく響く
御大はじめ 牧野靭負月形はもちろん土井大炊丹波 半兵衛内田 九十郎西村晃等々
菅の演技とも正気ともつかない狂気と面貌は不気味
当時人気だつた芥川隆行のナレーションも抑制的で分かりやすい
モノクローム シネマスコープ フィルムの画面は格調高く美しい 武家屋敷 旅籠 日本風景がよく映える
いつも思うが 最近のカラー ビスタサイズ デジタル処理画面は粒子が粗く汚いのはなぜか 少しも美しさがない

殺陣は 13人対53人から リメーク13人対300人に また火薬を使うなどぐんとスケールアップ
ただ冒頭の切腹シーンを初め血糊とオーバーな擬音は好きになれない
いちばん期待していた騎馬シーンはまずゞ
戦い後の描写はくどい気がする 説明調はいまどきの傾向で仕方ないかとも思うが
オリジナルの刀と槍だけの闘いに爽快感あり
嵐寛が馬を急停止し鐙を踏んで飛び越え下馬するショットがある
簡単に見えるがあれは本当にむつかしい ましてや60歳では さすが元祖鞍馬天狗

しかし なぜ13人が必死に明石藩主斉韶を討とうとするのか いまの観客に理解できるか?
忠と義と不条理と――そこが分からないとこの映画の面白さは半減する リメークはそこが弱い

The Cove

2010年08月03日 | 映画
8月2日(KBCシネマ) 映画 『The Cove』 を観る
映画としては並 可もなく不可もなし
鯨文化の話と思つていたがすべてイルカの話なり
映画では鯨もイルカも同じだと言つていたが 我々の感覚では鯨とイルカはちがう
鯨食文化は昭和30年まであつたが 庶民にイルカ食文化は昔も今もない

これの何処がナショナリズムを刺戟されるのか?
イルカ捕獲で小湾内が血に染まる俯瞰シーンがあるが
漁で銛で多量を刺殺せばこうなるのは想像でき 特別異様な光景とも思えず
上映反対だ賛成だと言うほどの内容のある映画には見えず
これまで報道されてきたIWCでの主張やシー・シェパードの行動を誇張映像化したに過ぎず
特別目を引きしものなかりし

ドキュメンタリーと言つても映画は映画でしかなく実も虚もある そんな映画は過去いくらもあつた
すべて実だけでは面白くもなんともなく また虚だけではうそつぱちになる
虚と実が絡み合つて 何処が実でどこが虚か渾然としているのが映画
それを見分けあるいは楽しむのが観客

地元関係者とスタッフとの撮影立ち入り抗争シーンが多くある
いちばん知りたかつた 地元が拒否する理由は何か 撮影公開されると困ることありやなしや?
最後まで分からなかつた
アカデミー特別賞と言うほどの映画内容に見えず

原節子

2010年07月18日 | 映画




<東名建設工事のため取り壊し中の東宝砧オープンセット 昭和42年12月>
「七人の侍」 「用心棒」 「赤ひげ」などのセットもここに作られた
左端の大きな松と右端奥の大ケヤキは背景によく出てくる

月おくれになつてしまつたが 6月17日は 原節子さん卒寿の日
マスコミで報じられることはほとんどなかつたようだ
映画全盛時代に見たファンにとつては喜ばしく 感慨である
自分たち年代からすると母親というより長姉世代に近い

「永遠の処女」あるいは「伝説の女優」などと 全盛を見たことのない(知らない)後のマスコミが
勝手に神秘化 偶像化してしまつたが 現役時の彼女はそのようなタイプではなかつた
美人であつたが高慢なところはなく 思つていることをはつきり言い 明るく 気さくで行動的な
「頼りになるお姉さん」という感じであつた 平凡明星などのインタビューや対談記事でもそんな印象をもつた

引退表明後 鎌倉に隠棲するまえだつたが
住まいが世田谷区喜多見町(砧の東宝撮影所も近く)にあつた
職場が同じ喜多見町内にあつたので仕事の往き帰りに家の前を何度か通つた
喜多見の奥まつたところで
二階建ての(木造かRCだつたか忘れたが)大女優の家とは見えない簡素なたたずまいだつた
周りの垣根も低く首をちよつと伸ばせば居室が見わたせるくらいで
「会田」か「熊谷」だつたか表札がかかつていた
この辺りでは ここが原節子の住まいであつたことはよく知られていた

映画「山の音」で舅役だつた山村聡(当時44歳)の原節子評――
『普段は冗談言つたりして ものの言い方もがらつぱち それがああいう風情を作るのでしよう
嫁役を作るのも良いけども あそこまで初々しくやることはないんだ』
(ぴあ「成瀬巳喜男と映画の中の女優たち」発行平成17年8月27日より)

これから全盛期のスター女優陣が続々と米寿 卒寿を迎える
そのいちばん手は 日本映画史上最高の女優「デコちやん」こと高峰秀子さん
再来年米寿 「泣きみそ先生」も2014年卒寿――

追記 平成22年8月9日 「原節子 あるがままに生きて」(貴田庄著 2010年6月30日 朝日文庫)を読む
    そこにつぎのようにある 少し長いが引用したい

≪ 33章 狛江に家を買う
その一方で一九四八年は 原にとつて私生活の面でとても重要な年でした
それはこの年の初春 横浜市保土ケ谷から東京都北多摩郡狛江村岩戸(最寄り駅は喜多見)に引つ越したからです 横浜市保土ケ谷の土地は借地だつたようなので 原は狛江村岩戸に土地を買い 気兼ねなく住める我が家を持ちました 原が狛江の自宅で 楽しそうに大きな犬と戯れている写真や掃除をしている写真が残つています
原節子が高峰三枝子と対談したことがあります それは「魅力対談」と題するもので 一九四八年の『映画ファン』に載つています 対談の初めに 狛江に買つた家について高峰が 「お庭が広くて素敵じやあないの」というと
原はつぎのように答えています
  原   田舎なので・・・・・・ あれが街の中にあるといいんですけど
  高峰  ぜい沢 ぜい沢 喜多見なら東宝にも近いし 田舎つて言つたて たいしたことないわ
  原   とにかく 自分の家に落ちつけてほつとしたわ ≫

狛江と喜多見は隣り合わせにある

必死剣 鳥刺し

2010年07月16日 | 映画
7月15日 東映映画 『必死剣 鳥刺し』 を観る
「必死剣」とはなにか 「必殺剣」のまちがいではないか?
と思つていたがその疑問はラストシーンで解けた

藤沢周平短編小説≪隠し剣シリーズ≫の映画化 例によつて海坂藩の内情物
スクリーンで見たことのある俳優は皆無 タイガースの岸部一徳はテレビで見ている
全体的に色調を抑えた画面 衣装 美術 アップを多用しないカメラ そして抑制気味の台詞には好感をもつた
少し形式張り過ぎの指導された武家所作も無難

オープニングタイトル後に主役キャストの名前がでてこないのは
「さあこれから始まるぞ!」という高揚感が湧いてこない
もつとも画面に「バーン」と単独で名前を張れるだけのスターはもういないが
しかしいま風のエンディングで延々と流されるのもラストの興ざめ

藩主右京太夫・村上淳を差し置き藩政を壟断する側室連子・関めぐみを
兼見三左エ門・豊川悦司が能舞の後一突きで刺殺するシーンから始まる
刺殺までの回想と今とを同時進行で描いて行く
中老津田民部・岸部一徳はずつと静かな面持ちで最後までこのままか?
と思つていたが ラストにやはりというかどんでん返しがあつた
それが 『必死剣 鳥刺し』

藩主と分家帯屋隼人正・吉川晃司との確執
側室を殺めた三左エ門の幽閉処分と解除 藩役職への再登用
三左エ門とその身の回りの世話をしながらも慕う亡妻の姪里尾・池脇千鶴との交情
これらを絡めながら進む ただ三左エ門と姪里尾との一夜シーンは余計と思うが・・・
池脇千鶴はひかえめな慈しみと美しさをよく表現していた 地味作りは素敵
村祭りの鳥居前で乳飲み子をかかえ三左エ門との約束を待つ――ところでエンド

殺陣をはじめ調子が何となく昔の東宝映画の雰囲気を感じ調べてみると
殺陣指導久世浩とあつた 久世竜の二代目ならさもありなん
最近の時代劇は画面が何となく地味というか輝きに欠けショボクレている感じをずつと抱いていたが
その原因の一端が分かつた
いまのスターは役の年齢より実年齢のほうがずつと高い
逆に昔のスターは役年齢より実年齢の方が若かつた それでその役の風格をだしていた

豊川悦司は48歳 48歳の三左エ門があのような必死剣は無理であろう
吉川晃司にしても45歳である 岸部一徳は63歳 63歳の中老なぞ存在しない時代である
最近の時代劇役者 佐藤浩市50歳(親父の三国連太郎は33歳で『夜の鼓』 39歳で『切腹』に出演)
             役所広司54歳
雷蔵が亡くなつたのは37歳 机龍之介31歳 眠狂四郎32歳だつた
勝新座頭市31歳 三船用心棒にしても41歳である

もつともその役年齢と実年齢が適応する俳優はいまは見当たらない
また適応させても様にならないだろう――

孤高のメス

2010年06月09日 | 映画
東映映画 『孤高のメス』(試写会 5/25 西鉄ホール)を観た
「孤高」と言うほどの崇高な理念や強い使命や孤立はまつたく感じられなかつた
『白い巨塔』的な欲望と愛憎が渦巻く世界を期待していたが予測がはずれた

田宮も小沢も東野もいなくそんなことを期待しても詮ないが
スクリーンで見たことのある俳優 知つている役者は柄本明だけ
柄本は何を演つても例のごとく柄本でしかなく代わり映えない

手術シーンはリアルにできていた がそれだけで
なぜ彼がそれをしなければならないのか どうしてするのか よく分からない
緊迫感も山もなくテレビのホームドラマのやうな温い感じ
映画でなければ見られない表現できないテーマとドラマ それが必要では――


3Dは主流となり得るか? ―― 50年前に習つた技術

2010年05月05日 | 映画

<立体視用地形画像> この画像を肉眼で3D(立体視)で見れますか?

いま3D映画や3Dテレビが賑わしているが この技術は50年前に習つた
測量工学(航測)で航空写真を図化するときの立体視の技術で
角度を少しズラした2つの平面(2D)写真を両眼で地形を立体的(3D)に見るものである
航空写真を地形図化する作業で 山などの高さを等高線(コンター)で記すときに用いた
肉眼でも(訓練し)できたが 実技では立体視鏡を使つた
いまふうにいえばデスクトップグラス(眼鏡に4脚をつけたようなもの)である

冒頭の写真を3D(立体視)で見る要領・・・つぎのとおり
1 画像から20~30センチメートルくらい離して
2 左目で左半分を 右目で右半分を見る気分で
3 そうして集中すると 画像が3つ見えてくる
4 その3つの中の真ん中の画像だけを眺めるようにする
5 真ん中の画像が3Dで(山や谷や道や建物が立体的に浮き出て)見える

しかし テレビも映画も3Dがこれから主流となるか――と言えば
そうはならないだろう それは技術的に
・肉眼ではだれでもが見れない
・特別な眼鏡が必要
・一定の距離と一定の角度(正面に近いところ)から見ないと十分でない

3Dではないが
昭和30年代これからの映画を変えるといわれた 巨大画面(3画面映写方式)の『シネラマ』が出現した
しかしその設備と手間ひまと費用の過大さもあつて思つたほどの人気は出ず いつしか廃れ
結局『西部開拓史』というオールスター西部劇大作を残すにとどまつた
スタンダートからシネマスコープへサイズ転換したときの画期性はなかつた


 


花のあと

2010年03月21日 | 映画
3月17日 東映映画『花のあと』を観る 出演者はスクリーンで初めて見る俳優ばかり
個人的には皆ニューフェイスである 小品としてよくまとまつて感じよかつた
また他の藤沢作品に感じる泣かせの強調や陰鬱さはなかつた
衣装も最近の時代劇にみられるまつさらの着下ろしのキンキラキンはあまりない

女が男に果し合いで互角または勝つためには特技(例えば居合が凄い)があるとか
身軽ですばしこくスピードがあるとか男にはない何かがないと力ではどうしても男に負け
互角以上には戦えないだろう それがないとリアルさに欠ける
もうひと工夫が望まれる
しとやかな着物姿から胴着に着替えるとガラリと面体が一変するなど
もちろん北川景子はよく演つている これまでの藤沢作品の妻女ではでいちばん

亀治郎藤井勘解由を逆転で斃す場面では一瞬の居合で懐剣が「キラッ」と鞘ばしるカットがほしかつた
北川景子以登はあまりに可愛く美しすぎ (許婚を捨ておいて)一目で惹かれた男のため命を賭けて
仇討ちをするような女性にはどうしても見えない

いまの若い俳優に共通しているが 武家の礼法立ち居振るまい所作を指導されたとおり
一所懸命演つているのがいじらしい 実体験がないので仕方ないが
皆きちんと正座し襖の開け立て草履の揃えと同じようにしていて
そこだけ妙に目につくのは昔時代劇の見すぎのせいか――

(粗雑な男と思つていた許婚を見直し)甲本雅裕片桐才助に以登が従いて行く桜花のラストシーンは
余計なせりふはなくし照れくさそうな才助と額ずく以登のショットからパンしてエンドマーク
とすればさらによかつた・・・成瀬作品ならそんな感じ

交渉人(THE MOVIE)

2010年03月02日 | 映画
2月22日 東映映画 『交渉人(THE MOVIE)』を観る
スリルと少しのサスペンスもあつて2時間余楽しめた
特に犯人反町と柳葉機長は役と雰囲気がマッチしていてよかつた
ただタイトルが示す「Negotiator」と言うほど女性捜査官と犯人との
タフな交渉場面はなかつた

米倉涼子をはじめ昨今の俳優はセリフと間の取り方 動作がぎこちなく肩に力が入りすぎ
全体にテンポも重く観ていて疲れる もつとリラックスした演技をしてほしい
明るく軽やかに格調高く展開すればさらによくなつたのでは
また機体はSFのA320をイメージしてあつたが機内シーンはナローボディではなく
ワイドボディとなつていてちぐはぐな感じがした

こんなストーリーの映画は昔の東宝の十八番だつた
さしずめ桐沢は三橋達也 宝田明 宇佐木は浜美枝 白川由美あるいは司葉子あたりか
機長は平田昭彦 土屋嘉男あたり ベテラン捜査官は田崎潤で機内の兄弟は久保明
江原達怡あるいは太刀川洋一か 監督は岡本喜八あるいは福田純
当時彼らで作つたなら明るく軽やかにテンポよく楽しめる作品になつていただろう
もう不可能だが・・・

エリック・シーガルさん

2010年01月24日 | 映画
1月18日 新聞訃報欄に「17日 エリック・シーガルさん亡くなる」とあつた
原作「Love Story (ある愛の詩)」が映画化公開されたのは昭和45年
映画よりその「ララ ラララ・・・」で始まる澄みきつたメロディーを先に憶えた
内容は 学生だつた二人の恋愛物で 彼女が白血病に罹り死んで逝くと言う
追憶のラブストーリーでありきたりであつたが 彼女との在りし日を追想するラストの雪の舞うシーンは美しかつた しかしなによりこの映画はフランシス・レイの音楽がいちばん

映画は二人で 北九州(小倉と若松)から車で3号バイパスを2時間近く駈け福岡で観た
九州に高速道路はまだなかつた
薄らぼんやりした寒い日だつたので歳末も近い昭和45年12月ではなかつたか――   

ゼロの焦点

2009年12月02日 | 映画
12月1日 映画の日 東宝「ゼロの焦点」を観る
封切映画を観るのは「男たちの大和」以来4年振り
「・・・大和」はひどかつた

禎子広末涼子の舌の上でころがすようなセリフ回しは軽薄に写る
久我美子と比べるのは可愛さう
見合い結婚で失踪した夫憲一西島秀俊を捜し求める切迫緊迫感はない
西島はさらにひどい ただの平成の青年にしか見えない
鵜原宗太郎杉本哲太が左箸で飯を食つていたが これは演出かそれとも自然なのか?
鹿賀丈史の室田儀作はとてもレンガ屋の社長には見えないが
また近年のテレビドラマにやたらとみられる顔アップの多用は落ち着かない

冒頭学徒出陣壮行会のフィルムが流れるがこれもよく分からない
時代背景と本題の伏線としてならマッカーサーの厚木進駐のフィルムが相応しいように思う
SLや路面電車そしてボンネットバスも再現して一所懸命努力は感じられる
しかしもうこの手の作品を作るのは無理ではないか
細かいことになるが電線架線がいたるところにあつたり田舎道や海岸道路が
アスコン舗装であつたりとあの頃ではないこと
ほんとうにやるならアスコンを引つ剥がして砂利道にして轍掘れと泥濘くらいは再現してほしかつた

時代劇戦争物そして戦前から戦後昭和20~30年代物はやれる俳優もスタッフもいないだろう
今の時代感覚でものを考えていてはできないしその時代事象背景をもつと知る必要がある
いまどき「見合い結婚の夫婦」や「パンパン」や「オンリー」をやれるタレントがいるか・・・
その顔雰囲気情景はとても出せないだろう
こういう作品は時代を今に置きかえてやるしかないか
寂しいけれど――