弁護士法人かごしま 上山法律事務所 TOPICS

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志布志事件 国賠に関する記事

2015-06-08 | 志布志公選法違反事件・国家賠償訴訟関連
毎日新聞の記事からです。


クローズアップ2015:志布志事件、賠償命令 ずさん捜査浮き彫り 否認後の検討不十分


 2003年4月の鹿児島県議選を巡る選挙違反事件(志布志(しぶし)事件)で無罪が確定した元被告らが賠償を求めた訴訟で、鹿児島地裁が15日、国や県に賠償を命じた。虚偽自白を生んだ県警の捜査だけでなく「公判を漫然と継続した」検察の責任にも踏み込む異例の判断に、捜査のずさんさが改めて浮き彫りになった。警察が手がける公職選挙法違反事件は、今も取り調べの可視化の対象に含まれておらず、一層の拡大を求める声が起こっている。


 「え、勝ったんですか。しかも県にも国にも? それは画期的だ」。自らも窃盗事件を手がけ、無罪を勝ち取ったものの、賠償訴訟には踏み切らなかった東京弁護士会の弁護士が驚く。

 背景には高いハードルがある。1952年に旧国鉄の線路が爆破された「芦別事件」の最高裁判決(78年)が「無罪が確定しただけでは直ちに捜査は違法にならない。容疑に相当な理由があり(捜査の)必要性が認められれば適法」と判断しているからだ。

 今回の判決も冒頭部分で、これを引用した。そのうえで、刑事が任意捜査の段階で取り調べを拒否した元被告を警察署の駐車場まで追いかけたり、病院で点滴を受けた元被告が体調不良を訴えても、帰宅を認めず簡易ベッドに寝かせて取り調べを継続したりした点を問題視した。

 起訴内容は03年の県議選で、初当選した中山信一元被告側が計4回の会合で現金計191万円を渡して買収した−−というもの。しかしこの事実を認めた「自白」には重大な欠陥があった。アリバイがあり会合に参加できるはずのない人物が「参加者」に含まれていたのだ。判決は「会合が存在していたとは考えられず虚偽の自白」と認定。署長や警部が捜査会議を開かせず、刑事同士の情報交換を禁じるかん口令も敷いた結果、部下の警部補らは「4回の会合が実在した」との誤った筋読み(見立て)を維持して取り調べを継続。その結果、多くの元被告に会合があったと認めさせてしまった。

 強制捜査に至る一連の捜査について、判決は「合理性がない」と批判し、最高裁の判断基準に照らしてもなお違法性が高い捜査だったと位置付けて、県警(県)の責任を認めた。

 では1次的な捜査をせず、警察を指揮・監督する立場で、責任の認められにくい検察(国)も敗訴したのはなぜか。

 判決はまず、数回にわたって起訴する場合は「当初の証拠だけに基づいて判断せず、それぞれの時点で明らかになった全証拠で判断すべきだ」と指摘。長期にわたる捜査では高い注意義務が生じることを示唆した。

 続いて強制捜査開始から5カ月後、最後の1人が否認に転じて、自白した元被告がゼロになった03年9月時点の判断を重視。このころにはアリバイの存在にも気づくはずで「有罪が得られる見込みが残されていない」のに、さらなる捜査を行わず「追起訴し、漫然と公判を継続した」として違法性を認定した。ただ、捜査開始当初に関しては、県警の調べが違法な時期でも当時の検察の判断を適法とするなど、警察により厳しい視線を向ける従来の流れは踏襲している。

 ◇可視化拡大求める声

 密室での強圧的な取り調べが表面化した志布志事件は、取り調べの録音・録画(可視化)を加速させる契機の一つとなった。警察や検察の判断で可視化の試行範囲は年々拡大し、政府は今国会に裁判員裁判の対象事件などで可視化を義務づける刑事訴訟法改正案も提出している。ただ、今回の公選法違反のような事件は対象から外れており、弁護士らからは、あらゆる事件で最初から最後まで全ての取り調べを可視化するよう求める声も上がる。

 可視化を求める議論は、志布志事件や2009年の裁判員制度の施行を機に活発化した。警察や検察は裁判員裁判の対象事件を中心に、取り調べの一部過程で可視化の試行を進めてきた。10年には郵便不正事件で大阪地検特捜部による証拠改ざんが発覚。当局の「見立て」に沿って供述を引き出す捜査のあり方が厳しく批判され、可視化の流れを決定付けた。

 法制審議会(法相の諮問機関)の特別部会は法律に基づいて可視化を実施するための議論を開始。昨年、裁判員裁判対象事件と検察独自捜査事件で全過程の可視化を義務付ける内容の法改正案を取りまとめた。

 こうした背景から、今回の判決への捜査幹部の受け止めは冷静だ。警察幹部の一人は「可視化の対象事件は法制審で話し合われて定められた経緯もあり、現在の取り組みを進めていきたい」と話す。検察幹部も「当時と今では供述証拠に対する考え方が変わった。無理な取り調べを排除して客観証拠を重視している」と指摘する。検察は昨年10月以降、物証が少なく供述が立証の中心となるような事件は、法律で義務付けられなくても可視化する取り組みを始めており、今後は公選法違反事件でも検察官の取り調べは可視化される可能性がある。

 一方、日本弁護士連合会の「取調べの可視化実現本部」本部長代行を務める田中敏夫弁護士は「冤罪(えんざい)事件は痴漢など刑が軽い事件でむしろ多く、全ての事件をカバーできないと問題解決にはならない。判決は可視化の対象範囲を絞る是非を改めて考える良い契機になる」と指摘した。


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