目の前のテーブルに黒い箱がふたつ置かれている。
司会者が言う。
「この箱の一方には賞金が、もう一方には赤ちゃんが入っています。
こちらだという箱を選んでください。残った方はこのハンマーで叩き潰します。
さぁ選んでください。重さで分かるはずですよ」
重い方が赤ちゃん。
重い方が赤ちゃんだ。
重い方を選ばなくては。
残った箱が叩き潰された。
「あなたにとってはそっちだったんですねぇ」
選んだ箱にはたくさんの札束が入っていた。
司会者が嘲笑っている。
泣きそうな顔をした少女が薄汚れたぬいぐるみを抱いて、誰もいない町かどを歩いている。
永遠に黄昏の町。
宙に浮かんだシャボン玉が夕陽を受けて光っている。
ストローを使ってゼリー状の液体をちゅるちゅるとすする。
そこに嗜好はなく、もはや養分を摂取するだけの作業でしかない。
歯も舌も捨て、液体をすすることのみに特化した、おちょぼ口の人類。
目張りされた扉。
小さな男の子が中にいて、「お父さん出して」と泣いている。
けれど、私は壁のシミなので、その子を助けることができない。