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からくの一人遊び

音楽、小説、映画、何でも紹介、あと雑文です。

bad guy / Billie Eillish Cover by 福原希己江

2021-02-26 | 小説
bad guy / Billie Eillish Cover by 福原希己江



R.E.M. - The One I Love (Perfect Square '04)



野に咲く花 森山良子(詞・曲 かまやつひろし)



Small Town Girl  Tracey Thorn




(ちんちくりんNo,4)


僕たちの根城


 5階建ての自然科学研究練の内階段を急いで駆け上がって行くと、最後には様々な研究室が並び東西にのびたフロアに辿り着く。東を行くと突き当りが非常口だ。
 僕はドアノブのロックを外し、非常口を出、地上からジグザグにのびた非常階段を今度はゆっくりと上って行き、屋上へと足を踏み入れた。屋上には周りに落下防止の金網が張ってある以外にはだだっ広いコンクリートの床が広がっているだけで、何があるという訳ではない。ただ正面西側端を見ると数件連なっている平屋のアパートを一軒分切り離したような出来損ないの建物があった。まるでコンクリートが余ったからと”お遊び”で造られたような建物。ふたつの窓は開け放たれ、空を見上げるとぴーかんのカンカン照り、やっぱり間に合わなかったかと僕は独り言ちその建物へ向かった。

「遅い、遅い」

「海人くん、昼飯おごり決定な!」

 建物の中に入ると圭太と貢のふたりがほぼ同時に声を上げた。
 八畳、畳敷きの殺風景な部屋だが辺り一面B4サイズの白色用紙が散乱している。写真が貼付されていたり、なにやら文字で埋め尽くされているものまである。その用紙の海をドーナツ状に寄せその中心の空間には三人が作業するには十分な細長いテーブルが置いてある。圭太と貢のふたりは左右に向かい合って座っていた。
 僕はせまっ苦しい土間に靴を脱ぎ棄て、散乱している用紙を避けながら左右にふたりを見る奥の方に座った。
 彼らは僕の応えを待っているようだ。ニタニタしながらこちらをじっと見ている。実は朝十時、一番近い時間にここに着いたものが勝ちというルールを設けている。しかもビリッケツはあとのふたりに昼飯をおごるという厳しさ。僕は寂しい財布の中身を思い起こし、情けをもらうような笑顔をふたりに向けた。

「ラーメンでいい?」
 
 騒がしかった訳ではないのに、一瞬より静かな空気が流れたような気がした。



OAU「Where have you gone」映画『新聞記者』主題歌

2021-02-26 | 小説
OAU「Where have you gone」映画『新聞記者』主題歌



[Chill Cover] 鈴木常吉 / 思ひ出 by fumika 深夜食堂テーマソング



Aurora - Churchyard (Live on KEXP)



2020.10.10 ブレッド&バター50周年スペシャルコンサート~あの頃のまま~ in 大手町三井ホール/BREAD & BUTTER in TOKYO〈for J-LODlive〉





ちんちくりんNo,3


かほるは個性的


 あの頃のアイドル・芸能人たちは非常に個性的で意志が強い人たちが多かったような気がする、と海人は思う。

 彼・彼女たちは総じてアイドルや芸能人という役割を完璧に演じながらも、どこかに拓かれた世界への線引きがあって、そこから先に踏み入れるには相当の覚悟がいることをちゃんと認識していた。
 だからそれを超える為には「強い意志」が必要で、ある意味その「強い意志」のエキスが滲みだし広がり、それが「ある一定の線」を超えたときの様を目撃することで私達は彼・彼女らのことを「個性的」で「強い」一人の人間だと認識したのではなかろうか。
 しかしそんな芸能人たちの個性を真似るひとつのアイテムとして、私達の大多数は表面的なファッションだけを取り入れることだけに夢中になり、それをして努力もせず「私は個性的」であると勘違いしていたのではないのかと海人は考える。

 海人にとってかほるは可愛い娘だった。ちんちくりんで、言葉少なめで、男みたいなやつだったが、デザイン画が得意で大きな目が印象的な娘だった。個性的だった。
 そしてそんな彼女と海人との日々はたった一か月で終わってしまったのだが、あれは自分の過去を語る上でどうしても避けることのできない一瞬の輝きを放つ貴重な時間だったのではないかと海人は今にして思うのだ。

 夏の終わりを告げる線香花火、その先端を燃やす小さな火玉がポトンと唐突に落ちるときの何とも言い難い気持ちに似た、そんな別れだったのだけれど。

YES - No Opportunity Necessary, No Experience Needed

2021-02-26 | 小説
YES - No Opportunity Necessary, No Experience Needed



映画『あゝ、荒野』主題歌 BRAHMAN『今夜』MV



いつか   リーピ・チープ(Reepi Cheep)



Travis - Side (Official HD Video)




ちんちくりんNo,2

1984年の出会い



 僕は北へ真っ直ぐ続く道路を自転車で、その道路が二別れになる手前、左手が入口になる第一キャンパスに向かっていた。道路の両脇には他のキャンパスの教練が、途中に広大な運動場を挟んで続いていた。
 駅から20分程ぎーこぎーこと漕いできた。軽い上りだからまだまだと思っていたところ、第一キャンパスの正門が見え、ふー、と息を吐くとそこへ左側に弧を描くようなイメージで侵入していき、そのまま大学門壁の裏手にある駐輪場に自転車を突っ込んだ。

 第一キャンパスには大学本部棟があり、その西には人文・社会系、後ろに自然科学研究棟、中庭を挟んで学食と文科系のサークル館があった。

 夏休みということもあって、学生の姿もまばらだ。

 自転車を降り、腕時計を見ると午前10時10分前、自然科学研究棟に用がある僕は、急げとばかりに少し走り気味に歩き、大学本部棟の前を通り過ぎようとした。
 すると軽快だ、と交互に動かしていた僕の両脚は何故か突然膝に力が入らなくなり、左右の足が絡まるとまずは膝から、そして咄嗟に顔を肘から下の両腕で囲って守ったのはいいのだが、舗装された大地にこれでもかというほど両腕を打ち付けてしまった。

 いてぇ。

 擦れたという感覚はなかったのだが、両腕は痛みとともに強い痺れがあり、しばらくダンゴムシのように体を丸めた態勢で立ち上がることが出来なかった。
 その状態は随分長く感じたが、せいぜい3分くらいだったと思う。「まじい」と時間を思い出し、手をつきながら顔を少し上げた。

 すると目の前を紺色の厚いカーテン(少なくとも僕にはそう見えた)のようなものが僕の視界をふさぎ、なんだろうと思って少しずつ見上げると、その先には僕を覗くように向けた顔と不思議そうに見つめる二つの目があった。

 うわぁ!

 驚き、そのまま後退りし、すっと立ちあがりながら、今度は冷静さを装ってTシャツとジーンズの尻を、埃を払うように叩いた。

「なにしてんの?」

 声がしたのであらためて前にいる恐らく人間であろう物体を見ることにした。
 女だった。可愛いけど眉が太い男顔。髪は肩まで、細身で170くらいの高身長。

 ・・・ふむふむ。

 そこまで素早く観察したのだが、なんかおかしい。

 あちゃー、帽子とジーンズかぁ。

 今度は全体を見るようにしたらそのおかしさにはっきりと気がついた。
 帽子は赤白の野球帽で闘牛ロゴ、ジーンズは紺のバギーパンツってやつだと思うが、短すぎてくるぶしの上まで見えた・・・・、可愛いのに。

 ちんちくりんだぁ、と僕は即座に思った。

 それからその気持ちはなんとか隠し「いやいや、ちょっとフラッときちゃって」
 少し憐みを頂戴するような感じで僕が言うと、「ふーん」と、ちんちくりんはつまらなそうに返した。しかもポケットに手を突っ込んで。
 その態度に僕はむかついた。それで皮肉を込めながら、「あのー、確かに他人だし初対面だしそうなんだろうけど、でもこういう時ってどんな人だって普通は大丈夫、とか、気を付けてとか言うんじゃないか?普通ならね」

 すると、ちんちくりんは、

「そういうときにそういう言葉かけるってあなたにとって屈辱じゃない?」

 寂しそうな顔を一瞬見せ、それから大学本部棟の上部に設置してある大きく円形の時計を見上げながら歩き始め、五歩、六歩、七歩行ったところで振り向き、飛び切りの笑顔で僕に向かって右手を挙げ、それからまたくるりと前を向き走っていった。
 呆気に取られてしまった僕は彼女の姿が見えなくなるまでそこに立ち尽くし、そこでまた大学本部棟の時計を見上げた。

 まずい、俺もサークル館に行かなくちゃ。

 僕は目的の場所へ急いだ。

 すれ違った時、女の子の匂いがしたんじゃなかろうか。

 僕は一瞬心臓の鼓動音が高鳴るのを感じたのだった。

OAU「Dissonant Melody」Billboard Live TOKYO (2019.7.4

2021-02-26 | 小説
OAU「Dissonant Melody」Billboard Live TOKYO (2019.7.4



浜田省吾 『悲しみは雪のように (ROAD OUT "MOVIE")』



Cocteau Twins - Carolyn's Fingers (Official Video)



ロージー / 花田裕之 ROCK’N’ROLL GYPSIES / ルースターズ




続くか分かりませんが、ともかく不定期連載方式でここに載せていきます。




ちんちくりん

                      
 からく




序章 


 こたつむり(炬燵に潜り込む蝸牛状態)になっていた海人は外が暗くなってきたことに気づき、ニ、三分程悩みながらも、のそのそと起きだし、家の外灯を点けるために玄関へ向かうことにした。居間を出て短い廊下の角を左に曲がったところで、急に暗くなったので左の中指と人差し指の腹を板壁に付け、ゆっくりと体がぶつからないように板壁との間隔を確認し指を滑らせながら。

 最近妙に何もない所でこけるので気を付けていた。

 が、玄関にあるスイッチに手を掛け灯りを付けたところで、脳が「トクン」と、足元「ふらふら」と、一瞬の光と漆黒、そしてトンと壁にもたれかかって尻をついてしまったのだ。
 20.9秒くらい意識が飛んでいた。
 尻をついたまま、ふと前方を見ると二本の足が海人の目の前にあった。そっと頭を上げてみた。いつのまにか裕美が玄関の段に立っており、不思議そうで、でも何も考えていないのがまるわかりの表情で海人を見下げていた。おいおい、それに少しばかりの怒りを感じ、海人は文句をつけたい気分になった。

「ふらっとした」

「ふーん」

 特に問題はないという風に裕美は海人に背を向け、段から降り、突っ掛けに足を入れてからドアノブに手を掛けた。

「おいおい、大丈夫?くらい言えないのかい」

「立ち眩みでしょ?それくらい私だってしょっちゅうあるわよ」

 裕美は笑いながら海人の方を振り返り、それから急いでいるとばかりにドアを乱暴に開け、外に出て行ってしまった。ドアが自動的に閉まる間に冷たく悲しい風が滑り込み、その切なさに海人は思わず目を閉じてしまった。裕美はAB型のせいか極端な性格で時々こういう情のない態度を取る。
 あの~、オレハあなたにとって何なのでしょうか?
 口にはださずに抗議のテレパシーを送ったあとしばらく呆けていると、不思議なことに閉められたドアの表面に、すぅっとセピア色の映像が現れた。錯覚か。

 カタカタカタ・・・。映写機の音、野球帽を被った女の子の姿・・・。

 どこかで。やけに懐かしく甘く感じる映像。

 そうか、―あの頃。

 たった35年前に過ぎない昔の出来事を海人は俄かに思い出したのだった。




 35年前、海人は大学生だった。

 その大学は首都圏ではあるが、東京神田の古書店街からは北へ、電車でも結構な時間がかかる東京都外の地域にあった。降車駅から大学に通ずる真っ直ぐ延びた道路の周りには夏、青々とした木々が並んでいて不思議とその木々を通して侵入してきた風は爽やかで、自転車でその道路を真っ直ぐ行くと、とても気分が良いものだった。
 あの頃、海人は教師を目指して大学の教育学部に在籍していたのだが、それでも進みたい道はひとつだけではなく、もうひとつの可能性も探っていた。
 それは大きく深い海原に繰り出すようなものだったので、その可能性を探っていくには「船」が在ることが大前提で、その「船」の一員になることが港からの出航条件になっていた。
 出航まで漕ぎつけることはとても難易度の高いことで、だから大学も最終学年になると、焦燥感からか海人は大層もがいていた。
 
 苦しんでいたと言っていいのかもしれない。

 だが外からはそうは見えなかった。

 でも、心は破裂しそうなくらい膨張していた。

 そして―。

 そのような時に出会ったのが、「とてもちんちくりんで男前な、かほる」だった。
 海人にとって忘れ得ぬ偶然、いや、もしかしたら必然だったのかもしれないと海人は今になって思うのだった。