中国が「反国家分裂法」を制定してちょうど一年にあたりますが、台湾では今年から3月14日を「反侵略の日」と定め(残念ながら国民の祝日ではないようですが)、中国の脅威と対峙する姿勢を鮮明に位置づけたようです。「大紀元時報」が好きそうな話題だなと思いつつ同紙のHPを眺めておりましたら、別の面白いネタを発見してしまいました。(今日も「旅行記録電子落書き帳」から脱線・・・・)
◆麻生外相:「日本は民主的な中国を待望する」(大紀元)
◆MOFA: Contribution by Foreign Minister Taro Aso to the Asian Wall Street Journal "Japan Welcomes China's Democratic Future"(外務省)
<The question is no longer "whether," but "at what speed" China will metamorphose into a fully democratic nation. I can assure our friends in China that Japan is committed to China's success to that end>
(もはや「どうするか」ではなく「如何に早く」中国が完全な民主主義国家に変貌を遂げるかというのが争点でしょう。私は、中国が民主化を成し遂げるために日本がお手伝いできる余地があることを中国の友人に確約いたします)
<My hope is that China recognizes that there is no longer a place for an empire. Rather, the guiding principles in today's world are global interdependence and the international harmony that can engender.>
(私は中国自身がもはや帝国として存在する余地がない点を認めるよう望みます。今日の世界を導いている原則は、むしろ世界規模での相互依存と、そこから生まれる国際調和の精神なのです)
麻生外相の投稿(日本語訳)は、<中華帝国民主化のススメ>とも言うべき内容ですが、(1)全人代の閉幕目前、(2)米中首脳会談前、(3)WSJのアジア版への寄稿(英文)という点が何だか意味深長に思えます。内容的には見ての通りなのですが、私自身まずアレっと思ったのが、
<Democracy in Asia is spreading. Not so long ago, a Japanese prime minister would have to fly south overnight to Canberra to meet our nearest democratic neighbor. Now, he can fly west for only two hours to Seoul, capital of one of the world's most vibrant democracies.>
(アジアにおける民主主義は拡大しています。日本の首相が至近の民主主義国家の隣人と会談するために、キャンベラまで一晩南下する必要があったのは、さほど昔のことではありません。それが今や、わずか西へ二時間飛ぶだけで、世界有数の力強さを持つ民主主義国の首都のソウルへと到達することができます)
麻生外相は、日本・韓国・インドネシアという民主主義国家を例に挙げていますが、この件は昨秋のブッシュ大統領の京都での演説の内容と酷似しています。
ブッシュ大統領は、「アジアにおける民主主義は、半世紀以上前に日本から始まった」として、日本・韓国・台湾の民主主義について言及しました。日本の戦前の民主主義が〝捨象〟されているのが、合衆国のアジア解放史観の特徴の一つであり、同大統領の演説でも、軍政下にあった時代の台湾や韓国は民主主義国家と見なしていませんでした。(要するに「軍国主義国家」≠民主主義国家ということなのでしょうが・・・・)
中国の民主化と「ステークホルダー」としての平和的台頭への期待、そして日本が関与出来る余地の表明・・・・昨秋のブッシュ大統領の演説内容、ひいては昨年9月のゼーリック国務副長官の演説内容を基軸とする現在の国務省の対中政策を忠実にトレースしているのが特徴的です。投稿した媒体がWSJということと、ガス田や北朝鮮問題での中国の対応に関する麻生外相の発言内容を重ね合わせると、北京ではなくむしろワシントンを意識した投稿だと言えるのではないでしょうか。
この投稿には他にも興味深い表現が随所にあり、中国との通商関係について言及した冒頭の部分では〝if combined with Hong Kong〟(中国と香港を合わせると)と、台湾を除外しているのも示唆的です。
P2Pというのは私自身何のことか?で調べてみたのですが、サーバ・クライアント構造と相対する用語のようですね。「孤立した帝国の存在は今日のグローバル化した世界ではあり得ず、相互依存や国際協調が国際社会の原則である」という件から考えると、覇権国家とその周辺国という構図と対比的な<対等な国家間の関係>というメタファーでしょうか・・・・
私自身「靖国に限った攻防に手詰まり感があるのも否めないところであり、日本側の戦略としてはもう一工夫欲しいところです。即ち、反論の焦点を今後は靖国問題から敢えてずらして、今回日本がインドとともに民主主義、自由、人権を全面に押し出したような<民主主義VS非民主主義>の対立構造に持っていくべきではないでしょうか」という感想を以前(記事)抱いていただけに、「我が意を得たり」といったところではあるのですが、靖国神社をあまりに突っ張りすぎた場合の対米関係の反作用は考慮すべき段階かもしれません。
米中首脳会談においても日中関係が話題に上るでしょうが、これをネタに中国が日米離反を諮る動きを加速させたり、米国に圧力をかけるよう持ちかけたりする事態は充分想定されうる話ですし、日米間にも牛肉や米軍再編等微妙な問題が種々存在します。小泉首相は六月に任期中最後の訪米の意向を表明していますが、<最後の花道>と鷹揚に構える余裕はないでしょう。(さらに訪日中のジュリアーニ前NY市長から大リーグ観戦に誘われているようですが・・・・)米中首脳会談の動向もよく見極め、そうした問題の落としどころを明確に示す姿勢が首相には求められますし、現時点の日米関係は、何らかの新たな<ビンのふた>も被されかねない危うい要素を多分に内包しているように思いますね。
麻生外相の投稿のとおり、今日の国際社会では孤立した超大国という存在はあり得ず、日米機軸というのは良くも悪くも日本の絶対条件であるのは間違いないでしょう。靖国神社も、「中国の内政干渉に対する抵抗」と見る分にはまだしも、どこぞの漫画家のように「東京裁判否定」「大東亜解放史観の鼓舞」というのは国際社会ではまず受け入れられません。麻生外相は、中国のナショナリズムについても言及していますが、中国や韓国のナショナリズムを批判する日本人が、自ら偏狭なナショナリズムに陥ることのないように留意したいものです。
このWSJへの麻生外相の投稿記事は、タイミング的なものも含め、個人的には色々興味が尽きませんね・・・・
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よしりんのことかーーーー!!!!
麻生の肩書きの部分で、Foreign 「Affaris」
と間違っていましたね!
この類のミスは台湾ではよくありがちですが、日本、しかも政府、しかも外務省がするとは思えないので、親中派官僚の嫌がらせのような気もするんですが。
遡及法の問題は、専門家の間では国際的にも認められていますよ。
一般人には、法的問題を無視して単なる極右運動であるとする宣伝の方が通りはいいのは確かですけど。
衆寡敵せず、寄らば大樹の陰、力は正義なりの論理に従うならば、確かに主張すべきことではないのかもしれませんね。(”一つの中国”宣伝に反抗する台湾自立の主張と同じですね。)
遡及効は、一般的には刑事法だけに否定される原則であって、民法や国際法では遡及効は禁止にならないことは確かだ。
ただ、ここで東京裁判の否定は「遡及効」の問題ではなくて、「米国とも対立するから、日本の国益にならない」という話。
そんなにあなたが東京裁判を否定したいなら、やってごらん。ついでにサンフランシスコ平和条約も破棄してごらん。
日本は米国からも欧州からも見捨てられて、孤児になるだけだよ(わら)。
いや、分かっておりますよ。
一般人には、法的問題よりも力は正義なりの論理の方が通りが良いだろうと書いています。
台湾でも、台湾自立の主張が、中国と対立を深める、欧米からも孤立するぞとの批判を受けているのと同じですね。
きっと、大国の意向に反するような言葉は一言たりとも発するべきではないのでしょう。
全人代って名前自体がギャグと化してますよね。(汗)
小平の特区から四半世紀、上海万博の2010年時点ですとちょうど30年ですが、ここ5年くらいが一つのターニングポイントとなろうかとは思います。色んな意味で前代未聞な例だけに読みづらい面もありますけどねぇ。
私は単純なポカか何かと思っておりましたが、最後から二段前の〝I have asked my colleagues at the Japanese Foreign Ministry~〟という件で、colleagues(同僚)という単語を使っていたのが引っかかってはいました。この件とも合わせると・・・・
麻生大臣にまたメールでもしてみようかしら?
この発言単体そのものは至極正論ではあるのですが、先日日本の東南アジア戦略の欠如をご指摘されたように、日中・日韓関係も膠着する中で日米関係に依存せざるを得ない日本の概況的苦境の一端が垣間見える内容にも思った次第です。
ちょっとそこら辺が危うい気が個人的にはいたしますね。
それと韓国も牽制できます。今の韓国は中国と北朝鮮に傾斜し過ぎです。本来の民主主義とはもっと理性ある国民によって行なわれるもので、反米や反日の感情に振り乱されている今の韓国はポピュリズムではあっても民主主義ではありません。もう一度、韓国民には本当の敵と味方をわかって欲しいです。そのためにも、現政権の左翼ポピュリズムにはしっかりした反論が必要です。ネトウヨが騒ぐような、日帝擁護ではなく。
ただ、中華帝国の弱点への論撃では、日本が独走はしないことです。彼らはしたたかなので。