意外と細心だった福田首相

「公約違反と言うほど大げさなものか」という失言で支持率を落とした福田首相ですが、国民の関心が高く、しかも自身が官房長官の職を辞する原因ともなった年金問題に対する軽率かつ無神経な言動にはかなり呆れました。かような首相でも、外交面では細心な言動を見せるものだな、と昨日のNHK中継を見つつ意外な感を抱いた次第。

◆ガス田問題の早期決着に向けた決意を共有、台湾独立は支持しない＝日中首脳会談で福田首相（Reuters）
◆日中首脳会談　「誤訳」で福田首相の顔色一変（産経）
◆福田康夫首相の訪中に関する外交部のコメント（台湾週報）

中国の温家宝首相との共同記者会見の中継は途中から眺めておりましたが、ちょうど台湾について福田首相が言及しているところでした。ロイターの記事が一番正確に一部始終を報じていますが、『台湾の陳水扁総統が進める国連加盟の是非を問う住民投票についても「緊張が高まることは望んでいない。一方的な現状変更につながっていくのならば支持できない」との方針を表明』 という件を耳にした際は、意外と上手く交わしたな、という印象を抱きました。
「福田首相の談話は、日本が両岸の現状維持と平和的解決を求める一貫した立場を示すものであること、並びに国民投票が両岸の現状変更を引き起こすのではないかとの関心を示すものであった」（中華民國外交部）わけですが、「一方的な現状変更につながっていくのであれば」という留保付きで、「反対」ではなく、「不支持」の表明にとどまったのは評価をできようと思います。『米仏首脳らは住民投票に反対を表明しているが、福田首相は共同記者会見で「一方的な現状変更につながっていくのであれば支持できない」と述べるにとどめた』（日経社説）といった具合に、国内マスコミも台湾に関する言及には注目していたようですね。

この福田首相の談話が、中国側の〝誤訳〟を訂正する形で発せられたことは産経の記事で知ったのですが、中国側のトラップを巧みに回避した（上海コミュケ締結以来、我田引水な〝誤訳〟というのは中国外交のお家芸のようですが、通訳云々の問題というより、温家宝にハメられたといったところが真実なのかも・・・・）という点でも細心であったと思います。『劉局長は、福田首相が国連加盟の賛否を問う台湾の住民投票に不支持を表明したことについて「この正しい立場を称賛する」とし、「不支持」と「反対」にそれほど違いはないと述べた。新華社は「福田首相が台湾問題で４つの『ノー』」と報じた』（時事）のだそうですが、日米の外交用語においては、「反対」と「不支持」は明らかに意味内容が異なるものであり、５年ほど前にウォルフォウィッツ国防副長官（当時）が、台湾独立を「支持しない」というのは、「反対と同じ意味だ」とうっかり口を滑らせて大問題になったことがあったはずです。（勿論、中国もその違いについては重々認識している訳で、だからこそこういうハプニングが起こる・・・・）

「国民投票が両岸の現状変更を引き起こす」現実的なシナリオとしては、中国側が武力行使に出る事態がもっとも可能性が高いわけですから、「福田首相は東アジアの平和と安定を脅かす台湾海峡の緊張回避に向け、中国に自制を訴える必要がある」（中日新聞社説）といった論調が日本の新聞社から見られるのは見識だと思います。日米両国は、「台湾の国民の知恵を信じ、台湾の国民が民主国家として持つべき権利を行使することを尊重すべき」（中華民國外交部）であり、両岸の緊張緩和に向けて引き続き忍耐強くあらねばならないでしょうね。

台湾問題に関しては、「日本の首相として最低限のラインは守った」（産経）福田首相ですが、ガス田等に関しては予想通り何の進展も見ることはできませんでした。まぁ、前述した〝誤訳〟の件も、組し易い首相と中国側から舐められている証左とも言えるわけで、来年も日中間に横たわる諸問題の抜本的な解決は難しいでしょうね。

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