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伊那谷の境界域から見えること、思ったことを遺します

「大祓」前編

2024-06-30 21:25:58 | 民俗学

包み紙の中の切草

 

祓いに使われた人形

 

茅の輪くぐり

 6月30日、いわゆる「大祓い」の日である。とはいえ、今でこそ「大祓い」をお宮の行事として実施するところが多くなったが、かつてはそれほど多くの神社で実施されていたという印象はない。ふつうは大祓いを過ぎてしばらくすると茅の輪は撤去されるが、そのまましばらく残されている神社を見ることもある。とりわけ大祓いの日に茅の輪をするところは、中信地域の神社に多い。上伊那での茅の輪くぐりについては、中崎隆生氏が「茅の輪くぐり―上伊那の事例から―」(『伊那路』62-5)に報告がされており、郡内3カ所の茅の輪が紹介されている。ということで、今年はちょうど30日が日曜日だったということもあり、情報を事前に聞いていたわけではなく、いくつかの神社の様子をうかがってみた。

 神社を訪れて茅の輪が作られていて、それでいて「大祓い」の神事を「何時から」と掲示されていたのが、駒ヶ根市にある五十鈴神社であった。午後3時からとあったので、あいにくの天気ではあったが、その時間に訪れてみた。

 まず拝殿内で「大祓い」の神事が行われる。宮司によって祝詞があげられ、終わると和紙を切った人形によって祓いが行われる。最初に人形で自分の痛いところ、悪いところを撫でる。そして身体の中の悪いものすべてを人形に移してしまうように3回息を吹きかける。次に人形と一緒に渡された包み紙の中に切草が入っていて、これを3回に分けて身体の左、右、左とお祓いする。「大祓い」が済むと、拝殿前の庭に出て、茅の輪くぐりとなる。拝殿に向かって茅の輪の前に立ち、一礼すると輪をくぐるり、左へ廻って再び茅の輪の前へ向かう、同じように一礼してくぐると今度は右に廻ってまた茅の輪の前へ。もう一度輪をくぐって神前に進んで終わりとなる。この際、唱えごとがある。「水無月の 夏越の祓する人は 千歳の命 延ぶというなり」というもの。終わると宮司さんから挨拶があって、終了となるが、帰る際に災難除けのお札と、茅の輪のお守り、加えて撤供である「なごし」の菓子が渡された。

 この茅の輪のお守りとよく似たものを先日たくさん見かけた。安曇野市三郷楡の家々の玄関先に掲げられていたものと似ている。同じか、と思ったが、楡のものは、幣束が白かった。今回は「赤」。ようは無病息災を強く意図していると思われる。ただ作り方がよく似ていて、関係性を少し感じた。その答えを後で聞くことができた。聞くところによると、「大祓い」は前の宮司の時にはなかったという。ようは現宮司によって始められた神事のよう。そして現宮司は松本の方の神社に勤めていたという。近年人々がこうした信仰に対して疎くなったといって良いのだろう。いっぽうで神社にかかわっている人々が一般的常識や、行事の基本形を地域にもたらしているようにもうかがえる。そうした事例のひとつといえるのだろう。

 

お札とお守り、撤供

 さて、頂いたお守りやお札についても、説明書きが添えられていた。そこには次のように書かれていた。

拝啓 向暑の候、愈々ご清祥の段、大慶に存じ上げます。
 さて、この度夏越大祓式及び茅の輪神事でお参りいただきましたこと厚く御礼申し上げます。
 ここに災難除け御礼・茅の輪御守・撤供をご授与致します。
 茅の輪御守は、いつも出入りされる玄関等の鴨居にお祀り下さい。
 貴家益々のご繁栄とご家族皆様方のご健勝を、心よりお祈り申し上げます。

敬具


      銘菓『なごし』について…
 当大祓式に参列された方には『なごし』というお菓子をお授けしております。この『なごし』というお菓子の名前の由来は、夏を無事に越せるようにといった「夏越(なごし)」という意味もありますが、夏越大祓式のもう一つの意味であります神様の心をなごませる「和し(なごし)」という意味もこめさせていただきました。
「魔除け・厄除け」のカを持っていると言い伝えられている小豆を使い、昔6月30日に宮中のお公家さん達が「暑気払い」として山の氷室にしまっておいた氷を食べていたのを、庶民には手が届かないので「氷に似せたお菓子を作って食べていた」といった言い伝えをもとに、上穂町の「生月」さんのご協力により「銘菓『なごし』」を創作いただき、毎年お授け致しております。
 期間限定にて、上穂町の「生月」さんの店頭で、この「銘菓『なごし』」を販売していただいておりますので、夏のお茶請けにいかがでしょうか?
 参列出来なかった方、銘菓『なごし』のお問い合わせは…
                 生月さん 電話(82)3118

 

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