Cosmos Factory

伊那谷の境界域から見えること、思ったことを遺します

大鹿村の自然石系道祖神

2018-05-03 23:24:41 | 民俗学

 県内各地域ごとに道祖神を一覧化してまとめているが、先ごろ示した中信地域の道祖神の総数は2283基であった。この数はあくまでも文献から一覧化したもので、その精度に関しては文献の精度に委ねられるもので、数え方も文献ごと統一されたものではない。この問題の最たる地域が東信である。先ごろ示した東信地域のデータを紐解くと、その総数は1209基と少ない。道祖神というイメージからすると、東信が少なくても当たり前だと思われがちだが、実は東信には道祖神の数が多い。前述したようにあくまでも引用文献からの一覧であって、文献の乏しい東信についてはその精度が低いといっても良い。東信の道祖神については岡村知彦さんという方が悉皆調査をされ、個人的に調査報告書を作成されている。一般公開できる印刷物になっていないため、それを目にすることのできるのは、東信地域などの主な図書館だけだという。が、目にできる資料として、岡村さんは最近『日本の石仏』に悉皆調査からの報告をよくされている。そのひとつが「焼石ドーロクジン-東信濃の自然石道祖神」(『日本の石仏』162 日本石仏協会 平成29年8月15日発行)である。この中で岡村さんは東信の道祖神の数を佐久地方1235基、上田小県地方1721基、計2956基と報告している。この数を中信と対比すると、道祖神のメッカと言われるにもかかわらず、東信の数を下回ることになる。この中には陰陽石を含めた自然石のものが741基含まれているようで、自然石についてはその数え方が人によって異なる。したがって一概に数字だけで比較できないところではあるが、自然石系のものを除いたとしても、中信の総数とほぼ等しい。ここからわかることは、道祖神がいかに夥しく現存しているかということになるだろう。ということで、岡村さんには一覧化するにあたり、引用することを断られたため、既存資料から一覧化するにとどまった。そのため東信の総数が岡村さんの報告数に比較するとかなり少ないことになってしまっており、データの精度が低いということは否めないわけである。

 さて、岡村さんは前掲報告の中で、焼石ドーロクジンについて触れている。岡村さんが名付けた道祖神名称であって、「焼石」とは何か、ということになるが、これは火山弾のことを言うようだ。火山弾とは、「火山の噴火に際して、溶岩の破片が放出されるときに形成される直径65mm以上の溶融した岩石(テフラ)の塊である」(ウィキペディアより)。火山噴出物としての岩石とは縁遠い地に暮らしているわたしにとっては身近なものではないのだが、とはいえ、ときおりそれらしい石を目にすることはある。火成岩の一種である安山岩などは火山弾と石質的に近いものがある。

 

大鹿村高安の道祖神

 

 自然石の道祖神は現実的に多く存在するが、あまり知られていないこともあって、また小さいものなどは忘れられて紛失してしまっている例も少なくない。それでも大きなものについては、現在も文字碑、あるいは双体像碑などと並んで祀られている例はあり、そもそも自然石に彫られている文字、あるいは像容のものがほとんどで、全面加工された道祖神などというものは、ほとんど無いといってもよい。推定ではあるが、自然石として祀られていたものに、後に文字を刻まれたものもあるのではないだろうか。そんな例が昨日訪れた大鹿村高安にある。高安の国道152号掘割沿いに、国道側に向けて立っている道祖神は、ごつごつした石で、このままの状態で祀られた道祖神は他でもよく見る形態である。大鹿村にはこうした形態の道祖神が何例もあり、以前石仏に彩色するということ⑦で触れた女高の文字碑の横に祀られているものもその1例である。高安のものも、石質的には凝灰岩系のもので、この中央構造線谷にはよくある石である。このごつごつした石の、比較的平らな部分に「道祖神」と文字が浅く刻まれている。また背面には「慶應元歳 丑八月吉日」とある。最初からこうした石に彫って祀られたとも言えるだろうが、銘文の浅さから、後から彫ったと言えなくもない。

 

大鹿村鹿塩西の火山岩系道祖神

 

大鹿村鹿塩西の下駄ばき道祖神

 

 焼石道祖神について触れたので、もうひとつ。中央構造線谷に火山岩系の石はない。ところが、鹿塩の塩泉院下にある通称「下駄ばき道祖神」の隣に文字碑の道祖神が祀られている。この石質はまさに溶岩系のもので、火山弾とは言わないが安山岩よりも溶岩系。線刻で「道祖神」と刻まれており、ほかに銘文はない。どこから運んできたものかはわからないが、こうした火山噴出物系の石は、ときおり伊那谷でも目にすることはある。

 

コメント


**************************** お読みいただきありがとうございました。 *****