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梅田コマ劇場公演(S44年9月)[2]

2009年10月14日 | 舞台公演
(昭和44年9月 梅田コマ公演パンフより)

全力投球の天知茂の魅力

「四谷怪談」のニヒルな浪人民谷伊右衛門は、昭和元禄の世に生まれて育って「ひとり狼」となり、なお執念深く生きつづけた。その「ひとり狼」は板の上の舞台に出て、三島戯曲のスリラー劇「黒蜥蜴」で、キザで明快な明智探偵に扮して、現代の女形丸山明宏の女賊、黒蜥蜴を追いつづけた。

その時の明智探偵と黒蜥蜴の渡りゼリフのおしまいで、二人は「最後に勝つのはこっちさ」と言葉がダボる。この時の気迫にみちた天知茂の男臭い表情をいまも覚えている。

そして明智探偵は、いまではテレビの「さすらい」でスパイになり、そして、やがては「赤ん坊夫人」の犬の散歩係となって三角関係におちいるのだ。

以上は「痴楽綴方教室」ではないが、天知茂の出演した映画と、芝居とテレビの題名を挿入してのリアルな芸歴ではある。

天知茂といえばすぐに黒の魅力を思う。それは新東宝時代に「四谷怪談」で、これまでの二枚目的なキザな匂いを、伊右衛門という歌舞伎におけるむつかしい敵役を演じて、しぶい役者として再生したからだ。

天知は自分で自分のトレード・マークを変えた意志的かつ個性的なタレントなのだ。

大映では田宮二郎とコンビで“犬シリーズ”に出て、しょぼくれ刑事役で喜劇的な面を示した。これで天知は演技力の振幅を広めた。

この自信がテレビドラマの「一匹狼」の主役で表れ、天知は非情なまでの横顔と鋭い眼で新しいファンを獲得したに違いない。

三船敏郎とは違った天知の男臭いあの直線的な魅力は、まさに丸山明宏好みの黒のビロードなのかも知れない。

天知茂の舞台初出演は、4年前の梅田コマで「雪夫人絵図」で(*コマはその時が初だが、その2ヶ月前に新橋演舞場で「道場破り」に出ている)、その時の経験が「黒蜥蜴」への出演のきっかけになったことはたしかだ。

この丸山と共演による「黒蜥蜴」は42年4月(*正しくは43年?)の東横劇場、翌年8月上旬の名古屋御園座、この月の天知は故郷の名古屋で錦を飾ったのである。

そして43年下旬の京都南座でも「黒蜥蜴」を上演。天知としては、映画俳優として専念していた京都での舞台出演は思い出深いものがあった。顔見世の招きを眺めて俳優として生きる以上、いつかはこの南座の舞台をふみたいと願っていた。

9月は天知茂という一枚看板で1ヶ月の長期公演である。勿論、書き出しであるから座頭である。それだけに天知の責任は重く、同時にその興行成績によって今日的人気と将来への賭がかかっているのだ。

天知のセリフは低声だが力強い。それは説得力をもつと共に迫力もある。

いま天知はABCテレビ(毎週火曜・後9・30分)の「さすらい」に出ており、御崎という産業スパイに扮し、野際陽子の同業の女スパイ美矢子と愛しあうという役どころ。

また関西テレビ(毎週火曜後・10・00)の「赤ん坊夫人」では、京マチ子の未亡人多恵を慕う犬の散歩係三上に扮してコミカルな味も見せている。高橋悦史の多恵の夫君秘書役長沢と恋のさやあてをするという天知になかった役柄で“しぶい役者天知”ファンにまた新しい魅力を発見して、新しい茶の間のファンがふえつつあるそうな。

「鹿鳴館異聞・影を追う男」における天知茂は、明智探偵プラス明治的ムードでどんな演技を見せるかたのしみだ。

天知のシルクハットにステッキ姿はきっとダンディだろう。

復讐をする男を、9月は舞台で見せている天知だが、関西テレビ(毎週土曜後・10・30)の「ああ忠臣蔵」では吉良への復讐を誓いながら、病気のため脱落していく悲しい赤穂浪士毛利小平太に扮している。

天知の小平太も今月の巌窟王もその暗い運命の下に生きる人間としての共通点があるのもおもしろい。

また「影を追う男」では12面相(*20面相?)ばりに早替りを天知は見せるが、これは「黒蜥蜴」で実験ずみ。東京タワーで黒蜥蜴をつけるために掃除夫に化け、また船中ではセムシの醜い老船員になって黒蜥蜴をだましおおした。

淀かほるという柔軟性のある女優と全力投球型の天知茂との初共演は「影を追う男」に明治のロマンの灯をつけることだろう。

演劇の秋9月に登場したひとり狼天知茂はどんな役者根性を見せるのか。

期待して損はしない。(東川松治)

(「さすらい」より、おそらく北大のポプラ並木をバックに野際陽子さんと抱き合っている写真が付いている)

*1969年、いろんな役にチャレンジしている年なんだなあと感心。
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