今日の天っちゃん

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“ホットな顔”も見せる天知茂

2009年10月22日 | 雑誌・新聞
(1973年・S48・4月19日付読売新聞より引用)

“ホットな顔”も見せる天知茂
「通りゃんせ」(フジ系)で子連れ医者に


「非情のライセンス」(NETテレビ系木曜午後10:00)で、久しぶりに“一匹狼(おおかみ)もの”の主役を演じている天知茂が、ガラリと“顔”を変えて、フジテレビ系のホーム・ドラマ「通りゃんせ」(21日から、土曜午後9:30)にレギュラー出演する。男やもめの内科・小児科医という役柄だが、彼にとってホーム・ドラマは初めて。いままでに見せたことのない“新しい顔”を披露することになりそうだ。クールな顔とホットな顔を使いわける彼に、インタビューしてみた。

【初のホームドラマ 非情からの変身に苦労】
クールなほうは「非情のライセンス」の刑事、会田健。警視庁特捜部所属、38歳の“はみ出し刑事”で、非情な手段で、悪に立ち向かう。

36年に「休日の断崖」で初めてこういう役を演じて以来、「孤独の賭け」「廃虚の唇」「悪の紋章」「一匹狼」「夜の主役」など、一連のドラマで彼のイメージができ上がった。

「やっぱり一匹狼ものって自分のキャラクターに最も合ったものだと思うんですよ。ただ、同じようなものばかりやってきたでしょ。どうしてもマンネリになっちゃうんです。だからしばらく休んだ。今回の“はみ出し刑事”役もこの種のものとしては3年ぶりなんですよ」静かに天知は語る。

同時に初めてのホーム・ドラマにとりかかるわけなのだが……。
「ホーム・ドラマねえ。ときどき家で『ありがとう』なんかを見るんですよ。ドラマチックじゃない。ストーリーも別段変ってるわけじゃない。だけど“何か”があるんです。茶の間の人が見てくれる“何か”がある。いまの私にはわからないけれど……。それが何であるかをつかみたくて、ホーム・ドラマを積極的にやってみる気になったんです」

「通りゃんせ」は養父(松村達雄)、義妹(坂口良子)、養父の孫(相吉賢一)と一緒に生活し、主婦代わりをしながら呉服店を切り回している小柳しのぶ(大空真弓)が、下町の隣人たちの祝福を受けて、近くに引っ越して来た男やもめで子連れの内科・小児科医の貝原比佐志(天知)と結ばれるまでを描いた26回の人情ドラマである。

「私にも中学3年と小学校4年の子供がいましてね。ホーム・ドラマは“地”でいけばいい、ってよく言われますけど、私はそうは思わない。ホーム・ドラマ的な生活をしていないんで、私の場合はやっぱり演技です。演技といっても“いかに自然にやるか”ってことじゃないでしょうか」

現在「非情のライセンス」が週に5日、「通りゃんせ」が週2日というスケジュール。うち1日は、午前中“非情な顔”を出し、午後からは“子連れ医師”に変身する。

「正直言って、これは苦労しますよ。役者ってのはいつでもすぐに頭の切り替えができなくちゃいけないんでしょうが、私はこれが苦手でして。家で同時に2本のセリフ覚えるなんてとてもできない。だから分けて覚えるようにしてる。ドラマやってるときはその役柄になり切っちゃってるからパッと変身できない。だけど不思議なものでしてねえ、この“非情のライセンス”用の背広を着てると、刑事みたいな顔でいられるし、これをぬいで、白衣着て子役と2人になると、こんな顔に自然になってくるんです」と口をへの字に結んでみたり、やさしい顔で目じりをさげてみたり。彼はやはり相当の役者である。

新東宝(26-36年)時代から、役者生活もう22年、自然に身についたものだそうだ。そういえば、テレビ出演も12年以上になる。

「最近は視聴率というのをかなり気にするようになりました。映画や舞台でいえば、観客数と同じですからねえ。“非情のライセンス”は15.7%とまずまずのスタートでしたが、“通りゃんせ”はどのくらい見てくれますか、低いとやっぱり責任感じちゃいますから」

役者に徹し、今度のホーム・ドラマもやる気十分。どんな新しい顔を見せてくれるか楽しみである。

*非ライ用“会田背広”を着ながら目じり下げてる写真(こんなの)つき。

*「ホーム・ドラマ」と名の付くものに出るのは初めてかもしれないが、それこそ新東宝時代からライトな役とハードな役を交互にこなしていた天っちゃんだけに、結構キマっていたかもしれない(けど、残ってないんだろうかフィルム…)。
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「事件もの」の主役たち

2009年10月16日 | 雑誌・新聞
(1976.9.27日付読売新聞より引用)

こんな気持ちで
「事件もの」の主役たち


刑事もの、記者ものなど、事件ドラマはいぜんテレビ番組の主流の一角を占めて健在である。今回は事件ものの主役に、番組について一言ずつ語ってもらった。

外へ出て活動したい
「太陽にほえろ!」(日本テレビ系)の石原裕次郎
視聴率が40%を超えたそうですが、出演者のチームプレーのリズムがすっかり出来上がり、それが画面に表れているからではないでしょうか。また出演者一人一人に明確なキャラクターを持たせたことも成功の原因でしょう。私自身のことを言えば、これまで机に座り指示することが多かったが、不自然にならない範囲で、外へも出たいと思っています。

演技の幅広げる好機
「いろはの“い”」(日本テレビ系)の竹脇無我
過去の私の出演作というと、メロドラマ調のものが多く、相手役は必ず女性でした。それが今回は男ばかり、かねて私が希望していた役柄で、演技者としての幅を広げる機会だと、大いに張りきっています。アクション場面も多く、イメージチェンジにもなるのではないでしょうか。ただ私はギャンブルが不得意。マージャンシーンが多いのですが手つきはでたらめです。

年相応のアクション
「夜明けの刑事」(TBS系)の坂上二郎
三年目に入り、ますます張り切っていますが、なにせテレビ五本、ラジオ一本のレギュラーがあるため、オーバーワークになりがち。四十二歳相応のアクションを考えねば、と思っています。私が変装する時や、コメディー・タッチの内容の時は、特に視聴者に受けているようなので、それも単調にならないよう、いろいろ工夫をこらしていくつもりです。お楽しみに。

“クリーン警察官”強調
「特別機動捜査隊」(NET系)の青木義朗
足かけ七年にもなる三船主任の役で、三船は私の分身というより、もう私自身だという思いです。ハワイでこの番組の人気が高いのですが、“警察官がクリーンである”というのが理由だそうです。外国の警察官は行動的ではあるが、批判的な面も多いようですね。こういう世の中ですから特に、警察官の原点ともいうべきクリーンさに今後も努めたいと思います。

事件通して生き方を
「非情のライセンス」(NET系)の天知茂
すでに百五十数本やってきましたが、それだけにマンネリに陥りがち、そうならないようスタッフ、私ともども努力しているつもりです。十月からの新シリーズでは、“どんな事件を扱うか”という発想ではなく、事件を通して生き方の違う“人間同士の触れ合い”をテーマに取り組みます。つまり天知対○○となるわけで、一層、身の引き締まる思いです。


*10月からの新シリーズというと、タイトルに「兇悪」が入らない、坂井も右田もいなくなって活気がなくなってしまった第2シリーズ後期。一方「太陽にほえろ!」はスコッチ(沖雅也)が登場したころ。差がつくなあ。

*二郎さん、42歳相応のアクションを考えねばって…すみません天っちゃんは45歳でバリバリ(←相対的)にアクションしておまけに脱いでたりします。というより、てっきり二郎さんの方が年上かと思ってました(裕次郎さんと同い年なのか次郎さん…)
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梅田コマ劇場公演(S44年9月)[2]

2009年10月14日 | 舞台公演
(昭和44年9月 梅田コマ公演パンフより)

全力投球の天知茂の魅力

「四谷怪談」のニヒルな浪人民谷伊右衛門は、昭和元禄の世に生まれて育って「ひとり狼」となり、なお執念深く生きつづけた。その「ひとり狼」は板の上の舞台に出て、三島戯曲のスリラー劇「黒蜥蜴」で、キザで明快な明智探偵に扮して、現代の女形丸山明宏の女賊、黒蜥蜴を追いつづけた。

その時の明智探偵と黒蜥蜴の渡りゼリフのおしまいで、二人は「最後に勝つのはこっちさ」と言葉がダボる。この時の気迫にみちた天知茂の男臭い表情をいまも覚えている。

そして明智探偵は、いまではテレビの「さすらい」でスパイになり、そして、やがては「赤ん坊夫人」の犬の散歩係となって三角関係におちいるのだ。

以上は「痴楽綴方教室」ではないが、天知茂の出演した映画と、芝居とテレビの題名を挿入してのリアルな芸歴ではある。

天知茂といえばすぐに黒の魅力を思う。それは新東宝時代に「四谷怪談」で、これまでの二枚目的なキザな匂いを、伊右衛門という歌舞伎におけるむつかしい敵役を演じて、しぶい役者として再生したからだ。

天知は自分で自分のトレード・マークを変えた意志的かつ個性的なタレントなのだ。

大映では田宮二郎とコンビで“犬シリーズ”に出て、しょぼくれ刑事役で喜劇的な面を示した。これで天知は演技力の振幅を広めた。

この自信がテレビドラマの「一匹狼」の主役で表れ、天知は非情なまでの横顔と鋭い眼で新しいファンを獲得したに違いない。

三船敏郎とは違った天知の男臭いあの直線的な魅力は、まさに丸山明宏好みの黒のビロードなのかも知れない。

天知茂の舞台初出演は、4年前の梅田コマで「雪夫人絵図」で(*コマはその時が初だが、その2ヶ月前に新橋演舞場で「道場破り」に出ている)、その時の経験が「黒蜥蜴」への出演のきっかけになったことはたしかだ。

この丸山と共演による「黒蜥蜴」は42年4月(*正しくは43年?)の東横劇場、翌年8月上旬の名古屋御園座、この月の天知は故郷の名古屋で錦を飾ったのである。

そして43年下旬の京都南座でも「黒蜥蜴」を上演。天知としては、映画俳優として専念していた京都での舞台出演は思い出深いものがあった。顔見世の招きを眺めて俳優として生きる以上、いつかはこの南座の舞台をふみたいと願っていた。

9月は天知茂という一枚看板で1ヶ月の長期公演である。勿論、書き出しであるから座頭である。それだけに天知の責任は重く、同時にその興行成績によって今日的人気と将来への賭がかかっているのだ。

天知のセリフは低声だが力強い。それは説得力をもつと共に迫力もある。

いま天知はABCテレビ(毎週火曜・後9・30分)の「さすらい」に出ており、御崎という産業スパイに扮し、野際陽子の同業の女スパイ美矢子と愛しあうという役どころ。

また関西テレビ(毎週火曜後・10・00)の「赤ん坊夫人」では、京マチ子の未亡人多恵を慕う犬の散歩係三上に扮してコミカルな味も見せている。高橋悦史の多恵の夫君秘書役長沢と恋のさやあてをするという天知になかった役柄で“しぶい役者天知”ファンにまた新しい魅力を発見して、新しい茶の間のファンがふえつつあるそうな。

「鹿鳴館異聞・影を追う男」における天知茂は、明智探偵プラス明治的ムードでどんな演技を見せるかたのしみだ。

天知のシルクハットにステッキ姿はきっとダンディだろう。

復讐をする男を、9月は舞台で見せている天知だが、関西テレビ(毎週土曜後・10・30)の「ああ忠臣蔵」では吉良への復讐を誓いながら、病気のため脱落していく悲しい赤穂浪士毛利小平太に扮している。

天知の小平太も今月の巌窟王もその暗い運命の下に生きる人間としての共通点があるのもおもしろい。

また「影を追う男」では12面相(*20面相?)ばりに早替りを天知は見せるが、これは「黒蜥蜴」で実験ずみ。東京タワーで黒蜥蜴をつけるために掃除夫に化け、また船中ではセムシの醜い老船員になって黒蜥蜴をだましおおした。

淀かほるという柔軟性のある女優と全力投球型の天知茂との初共演は「影を追う男」に明治のロマンの灯をつけることだろう。

演劇の秋9月に登場したひとり狼天知茂はどんな役者根性を見せるのか。

期待して損はしない。(東川松治)

(「さすらい」より、おそらく北大のポプラ並木をバックに野際陽子さんと抱き合っている写真が付いている)

*1969年、いろんな役にチャレンジしている年なんだなあと感心。

梅田コマ劇場公演(S44年9月)あらすじ

2009年10月13日 | 舞台公演
(昭和44年9月 梅田コマ公演パンフより引用)

デュマ原作「巌窟王」より
鹿鳴館異聞 影を追う男 三幕二十四場

作/演出:竹内伸光
美術:古賀宏一
音楽:植村圭一、中川昌
振付:関谷幸雄
照明:鳥居秀行
衣裳:牧和夫
効果:古間伸
擬闘:的場達雄

【ストーリー】

明治……日本は新しい夜明けを迎えた……文明開化……丁髷は切られて、散切り頭、着物は洋服。そして、かつて幕府倒幕に力のあった、所謂、勤皇派の武士達はその功労によって、下級武士だったにかかわらず、政界に入って爵位が授けられ、そこに上流階級の人達となったのである。

折りしも鹿鳴館では、外国の高官を招いて舞踏会が催されていた。外国文明に追従しようとする日本の高官達……。

そこへ現れた一人の紳士。八十島侯爵(天知茂)と称する男に居並ぶ紳士、淑女は好奇の目を寄せた。

彼こそ十何年前、無実の罪によって八十島へ流刑された青江源之進であった。

勤皇派でありながら、幕府に寝返ったと密告された彼は、弁明の余地すら与えられず流刑されたのである。

彼は愛し合う恋人波路(淀かほる)との間もさかれ、島で屈辱の日々を送った。

ただ彼の心中に、如何にして無実の罪を晴らし、そして彼を落し入れたと思う人達に復讐をするか、そればかりであった。

彼の敵、友人の佐伯織部(金田龍之介)、それに廻船問屋の島田屋藤兵衛(石山健二郎)。彼等は御一新のどさくさまぎれに大変な出世をして、佐伯は検事正になり、島田は横浜で銀行の頭取になっていた。

そして彼の愛する女波路は、佐伯の妻となっていたのである。

義賊むささびの竜(芦屋雁之助)に助けられた彼は、島抜けに成功して、東京と名の変わった江戸へ戻ってきた。彼の妹小夜(雪代敬子)は、落ちぶれてらしゃめんとなっていや。妹とのめぐり合いによって、彼は誰が自分を無実の罪におとし入れたかを知る事が出来た。

仇討ち禁止令となった世の中で、彼は合法的な手段を以って、次々と復讐を遂げて行くのであった……。

*「黒蜥蜴」の次に挑戦した4時間の大作のあらすじ。学芸会なみのスター公演のひとつと評されてはいたが(こちら)、いかにも似合う役だけに見てみたかった。


梅田コマ劇場公演(S54年8月)[2]

2009年10月07日 | 舞台公演
(S54年8月 梅田コマ劇場公演パンフより引用)

雲霧仁左衛門

池波正太郎 原作
宮川一郎 脚本
山本和夫 演出
仲川吉郎 美術

演出補:中畑八郎
音楽:奥村貢
照明:鳥居秀行
効果:作本秀信
殺陣:安川勝人

【ものがたり】
雲霧仁左衛門――。
その名のように雲か霧か、文字どおり神出鬼没、権力に取り入ってあくどい商いにうつつをぬかす、悪徳豪商をねらって、今も暗夜を走る男。一度ねらいをつけた獲物は絶対に逃さない。数多の手下たちをまるで手足の如くあやつって、人一人殺傷せずに、めざす金蔵に押し入って、ごっそり頂戴つかまつる――。

手足となる手下の数はおよそ三百。主なるところを紹介すれば、小頭・木鼠の吉五郎(林成年)、因果小僧六之助(カルーセル麻紀)、おみつ(東てる美)、お松(西尾美栄子)、加うるに七化けのお千代(高田美和)と山猫の三次(茶川一郎)と、いずれもしたたか者揃い。

さて舞台は、そんな大盗賊が江戸に現れる、およそ五年程前に幕を開ける。

美濃国加納藩六万七千石、ここは勘定方辻蔵之助(御木本伸介)の屋敷。折しも、蔵之助の只一人の弟伊織(天知茂)が、藩内一の美女おりょう(高田美和・二役)と婚約間近、ひときわはなやいだ邸内の風情である。

二人は相思相愛の仲。やがて縁組の許しの出たおりょうをともなって、伊織が帰宅する。兄夫婦の喜びはひとしおだった。だが、その幸福もつかの間、突然やって来た藩の重役、八木重右衛門(伊藤雄之助)から、藪から棒に公金着服のとがにより上意討ち、と迫られる。寝耳に水の兄弟二人。このままむざむざと討たれては、それこそ無実の罪の証しもままならぬ。

老中職につきたい一心で、幕府に金品を贈っている殿の所行をかぎつけ、それを口実に藩政を握ろうとする重右衛門にとって、蔵之助兄弟は邪魔者。有無を言わせず討ってとる魂胆だった。

今死んではならぬ。何とか逃れて江戸へ出よう……伊織の眉宇に深い復讐の決意が刻まれて――。

火付盗賊改メ方長官安部式部(北町嘉朗)にとり、雲霧一味の跳梁を阻止することこそ急務だったが、そんな火盗改メの酷しい探索の手をかいくぐって、雲霧一味は不適な仕事ぶりを今夜も見せた。油問屋武蔵屋が襲われ、五千両が煙のように消えてしまった。

半年前から女中に化けて住み込ませた因果小僧六之助の手引きで、一家中を一服盛って眠らせておいたスキにユウユウと金蔵から運び出される千両箱――。そんな一味のやり口をこっそり見とどけていた奴がいる。これが人にきいた雲霧一味のやり口か……舌をまく七化けのお千代と山猫の三次の二人だったが、ついに六之助に発見され、首領の雲霧の前に連れて来られる。

生かすも殺すも勝手にしろ。そこは度胸の坐ったお千代だ、頭巾を取って、艶然と微笑む。初めてお千代の顔を見て、仁左衛門はあっと声をあげそうになった。似ている、おりょうに生きうつしだ……。この時のお千代には、仁左衛門のそんな驚きなぞ分かろうはずもない。俺と一緒に仕事をせよ、という言葉にただ意外に思うお千代だった。

常に先を読む仁左衛門である。筋書きをこしらえるのは早い。今度の一世一代の大仕事にこのおりょうによく似た女は役に立つ。松屋善兵衛(武藤英司)の想いものにさせて、じっくり時を稼いでおいて、ごっそりと根こそぎいただこう――。

新参者のお千代ばかりが重宝されて、お松とおみつは面白くない。

仁左衛門の思惑どおりに事は運んだ。京のさるお公家の若後家というふれ込みで接近させたお千代を、すっかり気に入った善兵衛は、宿の主人になりすました吉五郎に、ぜひ妻にとたっての懇望。今では首尾よく老中職に納まった加納藩主安藤対馬守にとりいって、これ又まんまと幕府御用達の豪商に成り上がった善兵衛だった。

今のお千代の気持ちは複雑である。お首領(かしら)のためなら何でもする気でいる。だが、当のお首領は自分をどう思っているのだろう。命を助けてくれ、そして自分を抱いてくれた。それもただの酔興だけではない気持ちで……お首領の心の中には何があるのだろうか。

そんなうちにも、善兵衛とお千代の縁組の準備はどんどんすすむ。気のすすまぬお千代だったが、これも一時のしんぼう、大仕事が終わったら、晴れてお首領と暮らせるのだ。その頃、やっと弟伊織の消息をつかみ、今の有様に驚き怒った蔵之助は、何とかして弟の気持ちをひるがえさせようとするが、無駄であった。

一方、雲霧一味を追う安部式部は、ふとしたことから邂逅した伊織の口から、脱藩のことをきき、事情を知るために家老八木重右衛門がいるのをさいわい、松屋を訪れる。

伊織とは若い頃、同じ道場で剣の道を学んだ仲だ。その彼が今どの様な人物であるか、神ならぬ身の、式部は知る由もない。重右衛門の口からきかされた伊織達の罪状の意外さ。

お千代ともどもに松屋へ入りこんだおみつの口から、御側室おりょうの方と面ざしがウリ二つ、ときいてハッと目をひらかれるお千代。だが、そうこうする間にも、時は刻々と迫って来る。

雲霧仁左衛門にとって、これは最後の大仕事になろう。松屋を襲うのは、これまでの仕事とは訳が違う。これが済めば、あとは八木重右衛門ただ一人……。兄上、わしが一人でやろうとしたのは、兄上をまきこむまい、との心からだ。首尾よくとげられるか、どうか……兄上、よく見守っていて下さい!

最後の独白、熱すぎですと言いたくなる気合いの入ったあらすじ。雲霧誕生秘話から始まるとはさぞ見応えがあったことだろう。…でもこの弟キャラ全開の雰囲気だと、原作みたいに兄さんが代わりに云々という展開ではなさそうな(クライマックスは江戸城の大屋根が舞台みたいだが、どうなったんだろう?)

梅田コマ劇場公演(S54年8月)[1]

2009年10月06日 | 舞台公演
(S54年8月 梅田コマ劇場公演パンフより引用)

【御挨拶 天知茂】
本日は盛夏の中、御来場を賜り誠に有難うございます。
今回私の芸能生活三十周年記念の公演を、当梅田コマ劇場にて皆様にご覧頂く機会を得ましたことは、何にも勝る役者冥利と観劇致しております。
思えば梅田コマは、私の大阪での初舞台を踏みました想い出多い劇場であり、此度は十年振りに古巣に戻った心持ちで、いわばホームグラウンドでの全力投球をいたしたいと思って居ります。
私の三十年は良き先輩、素晴らしい仲間によって支えられて参りましたが、今回も伊藤雄之助さん、高田美和さん、茶川一郎さん、西尾美栄子さん、御木本伸介さん、そして林成年さん、東てる美さん、カルーセル麻紀さんの初参加を得て、一段と舞台に重厚さと華麗さを増すことと存じます。
又、旧友である宮川一郎先生の脚本、山本和夫先生の演出による池波正太郎先生原作の『雲霧仁左衛門』は、現在関西テレビより放映中の私の主演作であり、今回の公演により一層の当たり役に致したいとの決意です。そして『うしろ姿のバラード』は、私の歌心を通して新しき一面をお見せしたいと思います。
皆様の変わらぬ御支援を受けて三十年この道を歩いて参りましたが、尚、三十一年目よりの自己の可能性をこの公演に賭けて、一層芸の道に精進する覚悟でございます。今後とも皆様の御支援、御鞭撻の程、御願い申し上げます。

【役者が好きでこの道に入って三十年――天知茂の肖像】(土手善夫)

「芸能生活三十周年を迎える来年は文字通り翔んで翔んでの年になります」――これは昨年暮れ、占いにも造詣の深い美輪明弘のご託宣だったが、これをきっちり具現した。

まず歌――テレビ『非情のライセンス』の主題歌『昭和ブルース』は放送終了後の今も着実なペースで売れ、実数で五十万枚を突破。四月、初めて作詩して歌った『うしろ姿』も有線放送を中心に出足は快調。六月には日劇で初めて“歌手”としてワンマンショーを持った。

次いでテレビ――七月から関西系で『雲霧仁左衛門』がスタートした。平均視聴率は二十パーセント台と驚異的な人気。そして今月のコマの十年振りの出演である。歌、テレビの好調にすっかり気を良くし、余勢をかっての登場は猛暑にうだる浪花っ子を涼味満点のステージ展開で爽快にしてくれることうけ合い。

鞍馬天狗ようのコスチュウム始め、浪人、町人などおよそ時代劇に登場する全ての人物を早変わりで見せたり、コマの舞台機構を縦横に駆使し、テレビでは味わえないナマの迫力で客席を魅了しつくす。そして市川猿之助のケレン芝居にどこまで追いつけるかチャレンジすると言い切る。さらに、ジャン・ギャバンやアラン・ドロンの見せる悪の愉しさといったニュアンスが雲霧から出せたらとも。それには「登場人物の人間性を深く掘り下げ、芝居の味付けを濃密にすることで悪の魅力が生まれるのではなかろうか。雲霧が何故、盗賊になったか。狙うのは今様にいえばロッキード、グラマンをめぐる黒い商社といった設定で、行為は悪だが、それが弱者救済につながっているといった展開でなければならない」天知独得の識見である。

芸能界入りして三十年だが、初めて世に名前が出たのは二十六年。新東宝の『恐怖のカービン銃』だった。芸名の由来がふるっている。天知は当時の中日ドラゴンズの監督、茂は現巨人のコーチで当時の投手だった杉下の茂から。杉下はフォークだったが、天知は現代劇でスタートしたものの時代劇もこなすスイッチ・ヒッターとして活躍した。初舞台は三十九年のコマ。木暮実千代と共演の『雪夫人絵図』。だから今度のコマ出演を「里帰りしたような気持ちです」と言うのもうなづける。

「俳優は虚像を無くしてはいけません」が口ぐせで、「トイレの中まで紹介するなんて無茶苦茶」と言う。一歩、家を出ると町を歩いていても喫茶店に入っても天知茂の顔、すなわち虚像を保ちつづける生活でなければいけないというわけで、だからこそ昔の俳優はスターであり得たというのである。ファンもまたそこに夢を托すのである。

眉間にシワを寄せ、美しい目がするどく光る時、そこはかとなく哀愁が漂う。男臭さの中にふと見せる男の孤独感とアウトロー的な生きざま――『非情のライセンス』における天知ふんする主人公、会田刑事のキャラクターは天知の極め付けである。アウトロー刑事のふきだまりである警視庁特捜部。法律でどうしても裁けない悪も存在する。そうした悪にややもすれば警察機構からはみ出して敢然と立ち向かう。はみ出し刑事と冷笑されながら生命を賭けるいさぎ良さ。がんじがらめの管理社会にへきえきした人たちの心を打つのも当然である。もちろん警視庁にそんなセクションは無く、ロケ撮影もいっさい許可されなかった。それでいて警察雑誌への寄稿を依頼されたり、機動隊を励ます会に出席してスピーチをするなど、テレビを通じての付き合いは深く固いというからおもしろい。「仲の良い刑事さんにドラマで使ったネクタイ、背広をプレゼントしたこともあるほど親しくしています。『――ライセンス』は四年前に終わりましたが、今だに再放映の声が高く、パートII製作の話が持ち上がっているほどです」――天知のライフワークである会田刑事はまた天知の営業用の素顔である。「私がだれかれなくニコニコしておれば営業面で失敗です。ただし心は別ですが……」と。

男のたくましさと哀愁を漂わせるカッコいい天知に、一つだけイメージにそぐわないエピソードがある。趣味である。およそ遊びとは全く無縁なのである。酒はいっさい口にしないし、ギャンブルもやらない。「結局、私は無器用なんですよ」と片づける。「役者が好きでこの道に入った。そして三十年やって来た。テレビのこと、歌のこと、舞台のことなどあれこれ考えているとすごい快感をおぼえるんですよ。何物にも代えがたい快感を。だから無趣味になったのかな」――趣味は仕事とはキザに聞こえるかもしれないが、天知がこう言って腕組みして考え込む表情からは人の良さしか感じさせない。誠実な人柄なのである。

誠実といえばこうも話している。「三十年かかってまだこれしきのことしか出来んのかと自分を怒りつけています。夢の十分の一も果たしていないじゃないかとね。三十年を一つの区切りに新たな出発をと自分で自分のシリを叩く意味で三十年記念と舞台やショーのタイトルにつけているんですよ」と。

(どて・よしお デイリースポーツ文化部)

【コマ芸能ニュース】
「夏芝居らしく本水を使ったり、天守閣の屋体くずしを工夫したり、楽しいものにして思い切りあばれ回ってみたい。テレビで出せないナマの迫力が舞台の魅力」(毎日新聞7月16日付夕刊の記事より)と、天知茂は去る7月11日の記者会見で熱っぽく語りました。今年は芸能生活30周年。「“雲霧仁左衛門”を、これから31年目い向けて、夢や可能性を果たしていく出発点にしたい」(スポーツニッポン12日付)とも。当日の制作発表には主役の天知のほか、カルーセル麻紀、東てる美、茶川一郎、西尾美栄子が出席、にぎやかな雲霧一党の顔合わせでした。

*「雲霧」放映真っ最中(視聴率も20%を越えていたらしい)の1979年8月1日~25日の間に上演された「雲霧仁左衛門/うしろ姿のバラード」。早変わりはあるわ水は出るわ、一大スペクタクルだった模様。しかも1カ月公演…今なら毎日でも行くのになあ。

*ただ、非ライのパートII(第3シリーズ)は要らんかったと思う。
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博徒

2009年10月04日 | 東映映画
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新釈 四谷怪談 (前・後編)

2009年10月02日 | プレ天知作品
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http://www.amachi.info/blog/index.php?e=3