Landscape diary ランスケ・ ダイアリー

ランドスケープ ・ダイアリー。
山の風景、野の風景、街の風景そして心象風景…
視線の先にあるの風景の記憶を綴ります。

ひそやかな水音に耳を澄ます-「岸辺の旅」

2010-04-12 | 
 日曜日の朝は天気予報に反して春の陽射しが溢れた。
 父母を起こして「お花見に行くよ」と宣言。
 父は賛成するが母は浮かぬ顔。
 朝食後、案の定「眩暈がする」と眉をしかめる。
 日一日と春めく陽気に、少しづつ快方に向かっている
 と思っていたが、まだまだ気持ちが外へとは向かないようだ。
 薬を呑ませ正午過ぎまで寝かせることにした。

 正午前から、やっぱり予報通り雨が降ってきた。
 車椅子2台で出掛けていると厄介なことになっていたかもしれない。
 う~ん今回は、母の動物的勘が良い方に作用したと納得しましょう(笑)

 前日、本屋で購入した本をパラパラめくり始める。
 新聞広告で見ておいた話題の文庫新刊を含めて5冊を選んだ。
 文庫4冊を選んで、さぁ帰ろうと店内を進んでいると、1冊の本に目が留まった。
 「あぁ、湯本香樹実の新刊だ」と手に取る。
 表紙の装画は、暗く重い冬の空から微かな光が射している情景。
 川面に光が映えて木枯らしの吹きぬける川辺の風景が、やけに細密だ。
 全体の筆づかいや色使いを抑えたトーンが、アンドリュー・ワイエスを思わせた。
 表紙をめくって読み進める。
 夜のキッチンで「しらたま」をつくる導入部から、すーっと文章の流れに
 惹き込まれた…「あぁ、これは好い」久しくなかった本の放つ強い惹きに
 迷うことなく、その単行本を手にレジへ向かった。

 静謐で水をくぐるような旅の情景に、そのまま一気に読み終えるのが惜しかった。
 耳のそばでサラサラ、チョロチョロ微かな水音が絶えず聴こえてくる。
 まるでタルコフスキーの「サクリファイス」みたいに…
 これは湯本香樹実の描くロード・ノヴェルだ。
 それはケルアックの「オンザロード」やヴェンダースやジャームシュの
 ロード・ムーヴィーとも違う。
 死者と共に巡る黄泉の旅かもしれない。
 満月の月明かりの世界も美しかったが、やっぱり表紙の装画を思わせる荒涼とした
 砂州のラストシーンが好い。
 儚く痛切な描写が身を切られるような美しさを湛えフェードアウトしてゆく…涙が止まらなかった。
 
 
岸辺の旅
湯本 香樹実
文藝春秋


 

  

 
 
 
 

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3 コメント

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文庫派 (こもれび)
2010-04-16 09:45:21
夏の庭、ポプラの秋、春のオルガン、、、
次は冬のお話でしょうか?
文庫になるのは時間がかかりそうですね。
私も本屋へ行ってみよう~~
返信する
文学青年??のランスケさん (カタックリ)
2010-04-16 11:27:23
ランスケさん こんにちは!

いつも本を愛読されているランスケさんを
凄いな~と思います。
私は活字を追う作業が苦手なので 写真つきの
本しか見れない。
でも 本を読まれている人のHPの文章は
素晴らしいな~と思います。パチパチ拍手です。私から見るとランスケさんは 文学青年?
はて 何て表現すればいいのかしら?青年は
ちょっと過ぎてるでしょうから 文学壮年?これもへんかしら?(笑)
これからも 楽しみにしています。

折角のお花見のお誘いを残念でしたね。
これからしばらくお年寄りには過ごしやすい季節ですから お母様の体調のいい時に外出されたらいいですね。
お父様は 順調に透析されてますか?

季節の変わり目に あまりに気温の変動がはげしく 私もついていけません。風邪をひいてしまいました。先日 登った面河~二の森の疲れがあったのでしょうか。
愛大小屋は 綺麗に整理整頓されて ランスケさんのプロフの写真そのままでしたよ。
行きは 石鎚方面から二の森で帰りは 面河山を通って 急降下して帰ってきました・・・が
疲れましたね~。あまり言いたくないけど
年を感じました(笑)
お天気が良かったので 石鎚も西冠ドームも
素晴らしい大笹原も 青空の下に素晴らしい光景を見せてくれ 感動してきました。

14日に高縄へ車でお花を偵察に行ってきました。高縄も結構大木が登山道をふさいでいましたね~。見るも無残になっていて 悲しくなりました。明日 姉達と倒木を片付けに行ってきます。


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読みたい本が多過ぎて (ランスケ)
2010-04-16 20:43:21
こもれびさん。
四月は好きな作家たちの新刊が目白押しで、
嬉しい悲鳴をあげています。

数人の作家を除いて、私も文庫化を待ってから読むのですが、
今回の湯本香樹実の新刊は(といっても奥付をみると二月に出ています)
表紙の絵が大好きなA・ワイエスに似ていることや
開いた1ページ目から、すーっと文章に惹き込まれてしまい抗うことが出来ませんでした(笑)
食べることや料理の大好きなこもれびさんも、
きっと本を手に取ると抗えなくなるかもしれませんよ。
透明感を湛えた繊細な文章スタイルは、
初めて吉本ばななの「キッチン」を読んだときの、
ときめきと似ています。お薦めです。

今夜から村上春樹の「1Q84」3巻を一気読みです。


カタックリさん、今晩は。

文学青年?いえ立派な文学おじさんです(笑)
本を読むことは、決して特別なことではありません。
それは歯磨きなんかといっしょで習慣です。
私の場合は依存症の傾向が強くて、どんどん部屋が本に侵食されて、
捨てられないという恐ろしい事態となっています。

人が衰えてゆく姿を見守るのは辛いですね。
カタックリさんが病院に勤務されていた頃は、
まだ父も元気でしたが現在は、自分が透析にゆく日さえ理解していないようです。
介護タクシーの乗降介助というシステムを使って、やっと病院へ通っているのが現状です。
父母ともに足腰の衰えが著しく車椅子がないと外出もままなりません。

高縄山のブナ林もダメージをうけましたか。
近年の異常気象続きは尋常じゃないですね。
なしくずしの災厄の常態化は、ある気象学者が警告したように
閾値を越えてしまったいうことなのでしょうか?
消費文明を謳歌してきた私たちの世代は、
子供や孫たちに、どんどん払い切れないツケを回すばかりです。
エコバックやマイおはし程度では(実は、やっています)どうしょうもないですね。


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