VOL2 わ・た・し流

おとぼけな私ですが 好きな本のことや 日常のなにげない事等 また 日々感じたことも書いていきます。

桃花徒然 その91

2023-02-09 23:24:46 | 永遠の桃花

枕上書 番外編より

 

三族連合軍と 神族の戦いは49日間続いた。

49日目、神族は北荒を攻め落とし  B上神は大敗した。

反逆軍は 玉砕し  鬼族と妖族は  降伏書を差し出したが

帝君はそれを受け取らなかった。

首謀者のB上神 鬼君  妖君の首を蒼何剣で切り落とすと

三人の屍を  北海の海底に沈めた。

鳳九は 開戦の翌日には 碧海蒼霊に戻ったため

戦いを最後まで見なかった。帝君の気を散らせては

いけないと気遣っての事だった。

 

碧海蒼霊に戻った鳳九は  ある日 ゴンゴンと

畑の野菜に水をあげていた。戦いが終わって

帝君が戻る頃 丁度食べごろになるわ・・・

従者も一緒に 雑談を交わしながら手伝っていたが

鳳九「あの日  戦場で私と帝君が結婚式を挙げた

のは、帝君の策略でしょう?B上神が強固な

結界を築いて戦いが始まらない。でも 帝君の

結婚式ともなれば  神族の陣営に緩みが出来る

と思わせられる。

 もしかしたら B上神を誘い出す事ができる

かもしれない。帝君はそう考えたのでしょう?」

「結局  本当にそうなったわ」

 

従者は鳳九の言葉に ドキッとした。当たらずとも

遠からず。三族連合軍には 乾元の陣を破る力が

なかったため、籠城を決めこんでいたが  永遠に

その作戦を続けるのは不可能とわかっていたので

機会を狙っていた。

そんなことは百も承知。速戦即決の帝君としては

長期戦など眼中にない。

B上神の性格は 自信過剰で頑固でせっかちだ。

その為、何度か軍営で結婚式を行い 儀式の時は

わざと 一時間ほど警戒心を解く時間を作っていた。

しかも  同時に 乾元の陣の攻略法を図面にして

B上神勢力の手にわたるようにした。

図面は勿論  偽物だが、見破られないほど 精工に

作られていた。

B上神はせっかちでも 幕僚たちは慎重だった。

幾度も議論を重ねたが 怪しいところは

見つからなかったし  スパイからの報告でも

陣営での結婚式は いずれも本物である事が

わかった。

それでも 幕僚たちのほとんどは 軍人ではなく、

文人だったので、慎重の上にも慎重な協議が

行われていたが  まさかの 帝君本人の結婚式

まで行われるという情報を得たのだった。

 

B上神にとって この情報は絶好のチャンス到来

と思えた。東華の結婚式をぶち壊せば 自軍の

士気も上がる!

彼は 幕僚たちの反対を押し切って  結婚式当日に

結界を開け 進軍を断行した。

 

従者は  鳳九が 戦に利用されたと思ったらどうしよう

と 勘ぐってしまった。額にあぶら汗をにじませ

「帝后、帝座・・帝座は 決して 貴女との結婚の

儀式を利用してB上神を誘い出そうとしたわけでは

ありません。結果的に儀式は そういう役割を果たし

ましたが、その事で帝君を誤解なさらないでください」

「貴女が初めて戦場に行った時 軍人の結婚式を

とても羨ましい と言ったので、帝座はその時から

準備を始めていました。三十三天にある天樹之王

まで掘り起こして北荒までも運び・・・」

 

鳳九は  吹き出して 従者の言葉を遮った。

「そんなに緊張して どうしたの?私は 彼が私を

利用したなんて考えた事もないわ。もし 彼らを

誘い出すだけなら 配下の重臣に挙げさせても同じ

効果があるでしょう?天樹之王を運んでくる必要

もないし。彼は八荒の尊神、この天下の大黒柱よ」

「貴方は存じないけど、26万年後でも 帝君が太晨宮

にいさえすれば  天地間の四族は 誰であろうと

勝手はできない。私が敬慕し、崇拝したのは

単に男女の情愛しか求めない神ではなかった。

彼は この世の全てを肩に背負っているという事を

私は最初からわかっていたわ」

従「帝后・・・」

 

赤い衣の少女は  顔を上げて 遠くの空を見上げた。

まさに北荒の方向だ。

「帝君は私に  彼のできうる最高の事をしてくれたわ

 以前  私は 26万年後の帝君こそ最高の帝君だと言った

けど、あれは間違いだった。

どんな時の帝君でも 最高の帝君なのよ」

 

従者は ようやく理解した。この八荒の中 

帝君に恋慕する女性がこれほど多いにもかかわらず

唯一 この少女だけが帝君から特別な扱いを受けられる

のかを。

美しいが 妖艶ではなく、聡いが 狡くはない。

理や義をわきまえて  良く人の心を察する事ができる。

八荒の中において  彼女のように帝君の意にかなう者

 帝君に見合う者は  他にいないかもしれない。

従者は 無意識に微笑んだ。なぜだか嬉しさが

こみ上げて来たのだった。