昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

にあんちゃん ~通夜の席でのことだ~  (七)

2016-02-01 09:07:32 | 小説
「虫歯になるでしょ」
 と言い続ける道子に対し、
「美味しくないものはいらない!」
 と、ほのかは公然と反発する。叱りつけようとすると、決まって孝男が
「そりゃそうだ。美味しくないものは食べたくないな」
 と、ほのかを擁護する。

勝ち誇った顔を見せて
「あんちゃん。ほのかの分もあげる。にあんちゃん、ゲームの続きやろう」
 と、次男の手を引っ張っていく。

「ナガオちゃん。夜食にしなさい」
 長男は欲しくはないのだが、孝男の視線が気になり、黙って受け取る。
部屋に戻ろうとする長男に対して孝男が詰る。

「ありがとうぐらい言ったらどうだ!」
 道子に対する思いやりのつもりなのだが、道子の冷たい視線が届くと、長男に八つ当たりをしたと思われているようで気分が悪くなる孝男だ。

「あなた! そんなこと言わなくても。ナガオちゃん、いいのよ」
 ほのかと次男二人を横目に見ながら、道子が声をかける。
「ナガオちゃん。お勉強、頑張ってね。あなたには東大に入ってもらわなくちゃね」

 そして次男を睨みつけた。
「ツグオ! 少しはお兄ちゃんを見習いなさい。遊んでばかりいないの。宿題は終わってるの」
 孝男からの痛い視線を受けるや否や、雷が落ちる前にと肩をすぼめながら二階に上がっていく。

 不満げな表情を見せるほのかに
「よし。それじゃ、パパとやろうか」
 と、孝男がいそいそと寄った。

二人並んでゲームと興じるとき、孝男の顔が一変する。
二階にまで聞こえるほどの嬌声を挙げて、二人して興じる。
もう少し静かにと苦言を呈する道子には、こんなことで動揺するようじゃだめだと返す。

「あなたって人は…」
 と言いかけて、口をつぐんでしまう道子だった。


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