* 三部としていましたが、二部に訂正します。
所帯が膨れあがるにつれ、おれはおれ、あいつはあいつ、そんな風潮がでていた。
武蔵の○後、組織経営という名のもとに、社員間の団結心がうすれていた。
これこそが、小夜子の感じていた違和感だった。
家族経営にこだわる小夜子の、強いねがいだった。
皮肉なことに、小さな部品にすぎないネジが巻き起こしたことが、真理恵をして――じっさいは佐多だったとしても――為すことになった。
そしていっきに真理恵にたいする信頼感が醸成され、徳子の存在感がうすれた。
竹田が言った。
「忘れてたよ、社長のことばを」
なにごとかと竹田に視線があつまり、つぎのことばを待った。
「情報はいのちだ。きょうの飯が、あすにはステーキに変わる」
「ものごとは一面だけで決めつけるな。多面的にかんがえろ」
服部がつづいた。
「人は一面だけで判断するな。目鼻立ちが気にいらなかったら、口をみろ。
歯をみろ、笑顔をみろ」
「酒を呑んでるときは、となりのお兄ちゃんやおっさんの話をきけ。
おもしろい話がきけるかもしれん」
つづいて五平だ。
「おれもある。
いちにち中、商いのことをかんがえろ。おれは便所でもかんがえるぞ。
ああ、ちがうか。小夜子とのなにのときは、小夜子だけだったわ」
どっと笑いがおきた。
緊張感あふれる部屋が、いっきになごんだ。
そして3人がいっせいに。
「おまえら、おれのことを、女に関してはダボハゼだと思ってないか?
女ならだれでもいいってな。でもな、よーく見てみろ。
どっかにいいところがあるんだ。……ちがうか!
おっぱいが大きけりゃ、だれでもいいってか?」
3人が3人、豪快にうれしそうに笑う武蔵のことが思いだされた。
そして武蔵と同じ視点を持つ真理恵に、姫は勝ち目がないと感じた。
真理恵の背後には佐多がいる。
しかし小夜子には誰もいない。
軍師のいない武将が勝てるはずもない。
しかし、しかし、と皆が思う。
小夜子には華がある、真理恵にはトゲがある、とも。
小夜子に旗印になってほしい、かつてみなが思い描いたことが、またよみがえってきた。
休日出勤の命をうけた社員たちが、不満げな表情を見せて集まった。
グチを言いあう社員にたいして、それぞれが部署にわかれて説明した。
真理恵のことばをそのままにつたえ、そしてさいごに
「ひとりはみんなのために、みんなはひとりのために」と締めた。
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