昭和の恋物語り

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長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空・第一部~ (三) 実は私、こういう者です

2014-10-09 08:35:58 | 小説
ママとの恋愛関係は、もう一年ほどになるだろうか。
井上の紹介で、デパートの外商部が接待のために利用し始めた。
初めの内は、個人的な繋がりのある同期の社員達だけであった。
が、彼らの口コミから外商部全体に広がっていった。
で、一年ほど前に外商部長がフラリと立ち寄った。

経理部の方から、
「見慣れないクラブからの領収書が回ってくるが」
という指摘を受けて、身分を名乗らずの査定の意味を込めてのことであった。
店の雰囲気・ホステスの客あしらい・何よりママの応対が気に入り、更に料金もまずまずのリーズナブルさが、
「失礼しました。実は私、こういう者です」
部長のひと言を引き出した。

外まで見送りに出たママに名刺を渡した。
ママにしても、部長の服装・着こなし・遊び方等々から、名のある企業の役職だろうと感づいてはいた。
しかし、まさか井上の勤めるデパートの部長だとは思っていなかった。
「まあ、そうでしたの? 御社の方達には色々とお世話になっております。
今夜はまた、部長さんに迄お出で頂いて有り難うございます」

すぐにも、部長の言わんとすることが解りはしたが、敢えてそのことには触れなかった。
「いやあ、実に楽しい時間を過ごさせて頂きました。
これから外商部としてお世話になりたいものです。
で、ご足労ですが、来週の水曜日午後二時にでも、会社までお出で願えませんかな」
「まあ、ありがとうございます。
わかりました、水曜日にお伺いさせていただきます。
午後二時でごさいますね」

タクシーに乗り込む部長に対し、深々とお辞儀をして見送った。
タクシーが角を曲がり、視界から消えたことを確認してから、
「やったね、聡美! ごくろうさん、ホントに。あんたのお陰だよ、きつかったろう」
「いぃえ、ママ。そっと耳打ちしていただけたから助かりました。
ああいったお客の扱いは、まだ若い娘ではちょっとキツイですからね。
まぁ次回からは、若い娘の方がいいと思いますけど」
「うんうん、そうね。でも、もうお見えにはならないわよ。
部長さんクラスには、一ランクも二ランクも上の行きつけのお店がある筈よ」


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