昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

ごめんね…… (十八)

2018-04-24 08:00:00 | 小説
ごめん、ごめん。
君が聞きたがっていること、そしてぼくが一番話したいことを、これから書くよ。
ぼくね、一度死んでるんだ。
でも生き返ったんだ。

 ぼくは、暗い井戸の中に居た。
どんどん沈んでいくんだ、水の中に。
でもちっとも苦しくないんだよ。

「もう少しだよ、もう少しだよ」
 って、声が聞こえるんだ。
ううん、声じゃない。音? いや違うな。
聞こえたんじゃないかもしれない。
感じたって言った方が良いかもしれない。

 で、今度は足を引っ張られるような気がした。
ぐんぐん速度が増して行く感じだった。
怖くはなかった、不思議と。
死ぬという感覚がなかったんだ。

 でその時、声が聞こえたんだ。
はっきりと、声が。
「聡、聡。戻ってこい」って。
確かお父さんじゃなかったかな。
でも、どんどん沈んでいった。

「さとしちゃーん、さとしちゃーん! 戻ってらっしゃーい!」
 今度は、お母さんの声だった。
ぼく、つい「はーい」って、答えちゃった。

 そしたら、体がふわーって、浮き始めたんだ。
足に絡んでいたものも、すっと取れた。
で、どんどん浮いていくんだ。
沈んでいった時より、もっと速い速度でさ。


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